八拾壱【魚屋】
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呉服屋よしの屋や小間物屋のえびす屋など、大小色々な店が並んだ端のちょうど番屋の隙間に、お地蔵様が祀られている。
そこに竹や木で出来た簡易な布張りの小屋が建てられて、色とりどりの提灯がぶら下がっている。
提灯にはそれぞれ名前が書いてあって、なんでもこの辺りの子供の名前が入ってるそうな。いかにも新しい提灯は今年生まれた赤子の名前だ。
「卯乃吉ちゃんの名前もあるやん」
「そりゃあ地元ですし…そろそろ僕のは外して、新しい赤ん坊のんと入れ替えてほしいわ」
剃りたての月代を撫でながら言う。
夜明け前の朝はずいぶん過ごしやすくなってきた。
「何言ってんの、有り難くぶら下げてもらっておきなさいよ」
「そうですけど、あ、この子」
「なに?
おはなちゃん?女の子?知ってる子なん?」
「僕と同じぐらいの年の子なんやけど、五歳ぐらいの時に風邪をこじらせて死んで…」
「そりゃ可愛そうやな」
「うん」
「でも、ここに提灯をぶら下げてもらってたら、きっとお地蔵様は賽の河原で助けてくれてるやろ」
「そうだと良いな…ちょっと拝んどこうかな」
「そうやね」
お地蔵さんに持ってきた、いつもよりたくさんのお供えを、地蔵盆のために置かれた台に乗せる。
隣の番屋で火を貰い、ろうそくと線香に火を着けて拝む。
他にも親に連れられて手を合わせる近所の子供達。
子供がお地蔵さんに手を合わせる姿はほっこりするものだ。
「おや、卯乃吉っちゃんに瑠璃ちゃん、お供えかい?」
番屋の奥から岡っ引きの七兵衛が出てきた。
「はい、店を開ける前にね」
にゃぁん
瑠璃の足下にじゃれるトラ猫。
「おや、シマオもおるんか?なら百さんもいるんやな」
「へい」
にゃあん
同時に応える一人と一匹。
卯乃吉がシマオを抱き上げようとするのを、
「お待ち、あんたこれから朝餉やろ」
「うん」
地面に置き直して顎を撫でている。
「さかなぁ~、あさとれやでぇ~
まるあじぃ、こさばぁ、いわしもあるでぇ」
天秤棒に桶をぶら下げた兄ちゃんが声を上げて船場の通りを歩いていく。
「あ、おかあちゃん」
お福が店の横の玄関から出てきて呼び止めている。
「ほんまや!朝ごはん魚ちゃうか」
「うん!」
「シマオのご飯も見てきてやるな」
にゃ~ん
ふたりで、よしの屋の前に戻る。
「お早うございます」
「おや瑠璃さん、朝から卯乃吉の面倒見てもろておおきに」
「お母ちゃん、ぼくはもう子供ちゃいますよ」
「まあまあ、卯乃吉ちゃん、お母はんには子供はいつまでも子供や言うらしいで」
「そりゃそうやけど…」
「で、今朝は何にしようかね」
「丸鯵なんか脂のってまっせ」
「そうやな、ほなそれ五尾貰おうかな、お代はこれ。
鱗とお腹を取っといてくれへん?」
「へえおおきに、出来たら声かけますよって」
片方の桶から小さなまな板と包丁を出して、魚を料理し始める魚屋に話しかけてみる。
卯乃吉はもう家に入っている、店を開ける準備を手伝うのだろう。
「浪速津でなんぞおかしな話はないん?」
「そうやなぁ雑喉場の漁師が言うには、安治川のもっと沖に菱垣廻船が停まっとって、漁の邪魔やいうとったな」
「動かへんの?」
「言うても二日ほど前に急に来たらしいわ」
「二日、そのぐらいなら普通なんやろ?」
「いや、あんな船に入ってるもんいうたら、干物とか日持ちするもんが多いんやけど、それでも、港に着たらさっさと積み荷を降ろすやろ」
「うん」
「せやけど、人だけ小舟で降りてきて、荷物はおろす様子が無くて」
「空船?」
「かもしれへんけど、大坂から何を積むんか…心当たりのあるもんは多いけどな」
「堺の包丁とか鋏とか?」
「わはは!あんな沢山包丁積んでどこ行くんや」
「江戸とか?」
「こわ!」
「江戸の魚も美味しかったからなぁ」
「お嬢さん江戸前の魚食べたんかいな」
「穴子をご馳走してもろてん」
「そりゃ羨ましい」
「ちょいと前に帰ってきたところやねん」
「江戸から?」
「へえ。
お兄さん、その魚売り切ったら今日は仕舞いなん?」
「ああ」
「ほな、うちがお金出すよって、全部捌いてくれへん?」
「全部?」
「ここやったらよしの屋さんの邪魔になるさかい、あっちの番屋の前で。
そのあと内をその安治川に連れてってや」
「安治川まで結構ありまっせ」
「どのぐらい?」
「雑喉場に荷物置いてからでええでっしゃろ?
魚の腸をそこいらにおいとかれへんしってなると二里はありまっせ」
「もちろんつきあうで」
「ほな…
よしの屋の女将さーん!」
「はいはい」
お福が鍋を持ってやってくる。
「女将さんこれどうやって料理するん?」
「沢山やさかい、一気に煮付けようかと」
「そりゃ美味しそうやなぁ」
「瑠璃ちゃんも食べていき」
「それが、ちょっと用事ができてもうて」
「ほな、隣に言うとくわな」
「よろしゅう」
「お嬢さん、ほんまに番屋でええんか?」
「ええよ…ほら」
「なんだ?瑠璃、この魚屋は」
「百沙衛門様、今朝はお篠さんに魚持って行ってくれへん?もう帰るんやろ?」
「これ全部か?」
「藤岡様の所やったら、徒士もいっぱいいはるし直ぐなくなるやろ」
「それはそうだけど、どうして?」
「いまからこのお人に安治川に連れて行ってもらおうかと」
「なるほど、俺も行こう。
おい、魚屋、悪いけど全部捌いといてくれ」
「へえ」
「えー、百さんもついてきたんやったら、魚は誰が届けるんや」
「それはもちろん、おーい七兵衛」
「へいへいなんやこの魚!」
「これ、丸ごと親父んところに持って行ってくれ」
「お奉行様のとこですか?」
「ああ」
「お奉行様!」
魚屋からびっくりする声が出る。
「ふふふ、このお方は西町奉行のご長男ですよ」
「って事は御旗本の」
「まあな」
格好は同心だが。
紫色の十手も刀と一緒に腰にある。
「もしや安治川に行くってご公儀のご用事ってことですか?」
「…そうだ」
「わかりました」
「ほな、目明しの兄さん、この天秤桶ごと持って行って下され」
「わかった、助かる」
「屋敷に着いたら、弟にこっちを見るようにと…途中で合うかもしれないがな」
「へい、伝えます」
魚屋は、包丁とまな板を、一つの桶に入れて下げ、天秤を縦に肩にかけて歩き出す。
「ほな行きますか」
「へえ」
「うむ」
魚屋は太介と言って、代々雑喉場で魚を扱ってきたそうだ。
「でな、さっきの話もう一度してくれへん?」
「さっきの話?」
「なんでも安治川の沖に、漁師の邪魔になってる菱垣廻船がおるらしいわ」
「なんと」
「へえ、雑喉場にくる漁師が言うとりまして」
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