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上方びいどろ  作者: 前野羊子


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七拾参【塗り駕籠】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

「引っ立て!」

「「「はっ」」」

「立て!」

「くそっ」


 だて屋で捕えた者たちを、奉行所に連れて行く。

 男ばかりで女は一人もいなかった。


 瑠璃や勘三が言ってた二人の農夫らしきものはその中におらず、だて屋にいたおりんとか言う女中もいなかったのだ。

 


「藤岡殿」


そこへ、南町の連中の前だから気を利かせたのか家名で呼んでくる声に振り返ると、そこには高米が立っていた。


「高米殿」

「すまぬが、南町の人たちを数人えびす屋によこしてくれぬか?」

「そちらの方が人が多かったのか?」

「うむ、三十人近くいたのだ」

「あの建物の中にそんなに?」

「いや、朝から集まったようだ、例の人足などもいた」

「なるほど」

「男ばかりだが引き立てて奉行所へ連れて行くのは足りるのだが、武器などが残っておって」

「わかった…こちらはそれほどおらぬしな。

 おい、二人ほど裏に回ってえびす屋の武器を押さえてこい。

 この大八車に一緒に…」

「あっちにも小さいけど大八車はあります」

 高米が言う。

「了解した、二人ほど裏に回れ」

「はっ」


 ◆◇◇◆


 南町奉行所で、下手人たちを牢に入れ、奉行の菊澤琢磨に報告をして、一旦屋敷に戻ることにした。

 陣笠を被ってたとは言え、雨風が凌げたのは頭だけだ。それに、雨がますます強まっている。

 道などはところどころ泥川になっているのだ。

 その中を滑らぬよう気をつけながら歩こうとすると、向かいにほっかむりをしている勘三がいた。


「だんな、ちぃと瑠璃のやつがもう限界みたいで」

「なに?」

「熱出しちまったんで、いまから羽盛家に連れて行きます」

「たしかに、鍛えているとはいえ強行軍だったんだろ」

「はあ、まあ普通なら大丈夫なんすけど、雨に濡れましたからな」

「とはいえ、羽盛家はまだ息子殿たちが幼いだろ」

「そのぐらい大丈夫ですよ」

「そうだ、俺の屋敷に連れてこよう。どうせ留守居役が役目が無さ過ぎて、土蔵の縄まで磨いているのだ」

「ですが…」

「それに、塗駕籠もすぐに出せるぞ」

 その台詞に、珍しく勘三が驚いた顔をした。いつも百沙衛門には表情を見せることがない忍びが。

 そして少し微笑むと、

「わかりました、お言葉に甘えます」

「では、俺は屋敷に寄って迎えに行く」

「お願いします」


 泥川を避けるように急ぎながら、藤岡家の屋敷に戻った百沙衛門。


「まあまあ坊ちゃまご苦労様です」

「うむ。ばあや、悪いが奥の座敷に布団を一組敷いて、火鉢に炭を入れてそこに置いてくれぬか。後は湯の用意を」

「どうなされました?」

「瑠璃が…俺の許嫁が倒れたようで」

「それは大変です!分かりました」

「それから、じい!じいはいるか!」


「はは、これに」

「塗り駕籠を出したいんだが、担げる徒士は居るか?」

「はい、居りますよ」

「そのものに蓑と笠を身に着けて急ぎ用意するように」

「わかりました」

「それと俺の蓑と笠も」

「はいはい、それなら一度お着替えなされませ」

「うむ、そうだな」


 泥だらけの草履と足袋を脱ぎ、じいが持ってきた濡れた手ぬぐいでさっと拭いてから、一番近くの座敷に上がると、直ぐにじいが袴と着物を持ってきた。

「すぐに戻ってくるから簡単でよい」

「心得てますとも、では塗り駕籠を用意してきます」

「うむ」



 藤岡家の留守居役の徒士の中から二人が蓑と笠を着て表門の前で塗り駕籠を出して待っていた。


「二人とも野分の嵐の中だというのにすまんな」


 百沙衛門自身も蓑を着て、菅笠の顎紐を括りながら言う。


「なんの気にせんで下され」

「やっとまわってきたお役目です」

「うむ、迎えに行くのは俺の許嫁だからな、心してかかってくれ」

「なんと!」

「もちろんです!」


 留守居役の徒士などは、屋敷の掃除や二人の老夫婦のお使い、時には他の武家の手伝いに行く事もあるが、基本あまり仕事がないのだ。

 それでも、いつ力仕事を言われるか分からないので、道場で鍛える事だけは怠っていないそうだ。


 風は相変わらず強い。そこに雨がさらにひどくなってきていた。


「こっちを曲がる」

「「へい」」


 バッシャ バッシャ バッシャ バッシャ



 いつもの土の道がぬかるんで、その間を水が激しく流れている。


 ガラリ


「お染、瑠璃は?」

「瑠璃様はこっちに」


 柿の木の方の家の中に入ると、布団に寝かされている瑠璃と、もう一人の女がいた。


「お前はおりんと言ったか、だて屋の女中だったな」

「はい」

「無事だったんだな良かった」

「あ、あなたは、瑠璃さんと反物を買いに来たお侍様」

「うむ、覚えていたのか」

「はいもちろんです。

 私は、だて屋の裏の家の床下に他の男の人二人と閉じ込められていたところを、瑠璃さんに助けていただいて」

「そうだったのか、よかった」

「でも、瑠璃さんがさっきからひどい熱で、うなされていて…」

「なんと……瑠璃!」


「百沙衛門様?」

「お染、

 屋敷から塗り駕籠を持ってきたのだ、それで連れて行く」

「そうですね、ここでは確かにちょっと…

 お願いしますよ」

「無論だ」


 お染が掛布団をめくって、寝巻の瑠璃の身体に上から被せた着物で包み込むようにしながら抱き上げる。

 髪は解いていて、美しい髪が真下に垂れる。


 確かに、ひどい顔色だ。


 玄関に横付けした塗り駕籠との隙間で、徒士の一人が番傘を広げてくれている。


「瑠璃!瑠璃!」

「も……」


 ぜえぜえぜえ


「これはいかん。

 お染、おりんを頼む」

「わかっておりますよ。あと、これ瑠璃様の筥迫とか大事な物を包んでます」

 と風呂敷を預かる。

「ああ、これは持って行ってやらねば」


 玄関の徒士の気配に外を覗きに行くおりん。


「これ、おりんさん、邪魔ですよ」

「はい、でも、わあ、すごい駕籠」

「ほんとねおりんさん。

 私もこんな豪華な塗りのお駕籠は大名行列で遠目でしか見たことがないわ」

「このお侍さんってなんて人なの?」

「藤岡様ですよ」

「藤岡?」

「前の北町奉行のご長男様ですよ」

「じゃあ、町方の?そして瑠璃さんって藤岡さんの大事な人?もしかしてすごいご身分なのかしら」

「…私からは勝手には言えないわ」


 そんな二人の会話を気にすることなく瑠璃を籠に乗せて着物を整え、風呂敷をその上に乗せる。


「そんな人があたしを助けてくれたの」

「そう言うお方ですよお二人は」


 ビューゥゥゥ バラバラバラバラ


「ほら、おりんさん締めますよ」

「はい」

 ガラガラガラ


「出立」

「「はっ」」


 風雨の激しい路地で塗り駕籠が出発する。


 ◆◇◇◆


 屋敷に戻った百沙衛門は、留守居役の楠村田五郎を呼ぶ


「じいや、戻ったぞ。うわぐっしょりだ。そこからそこだというのに」


 外した笠からしずくがぼとぼとと落ちている。

 蓑も脱いで、土間の柱に飛び出た金具に引っ掛ける。


「はいはい、お帰りなさいませ」

「この娘を頼む」

 塗り駕籠を土間の中まで徒士に入れさせていた。


 瑠璃をその駕籠から抱き上げて、上がり框にいる老人に渡す。


「連れて行けそうか?」

「はい、大層軽い方ですね」

「だろ?頼む。羽盛の親戚の姫だ」

「ということは公家の?」

「うむ。俺もすぐ奥座敷に行く」

「こちらは珠緒に任せて、坊ちゃまもさっと湯殿に行かれませ。用意は出来ておりますよ」

 と言いながら、瑠璃を抱えて老人が奥に消える。

「そうだな」

 上がり框に腰かけて、足下を緩め、すでに置かれていた水の入った桶で足を洗い手拭いで拭く。


「皆も野分の中ご苦労だった」

 

 同じように、土間に立ったまま手拭いで顔や頭を拭いている二人に声をかけた。


「いえいえ」

「当然ですよ」


 塗り駕籠は土間に置かれたまま。

 天気が晴れて乾いてから土蔵に仕舞うのだ。


 

 烏も驚く行水状態の風呂をさっと済ませて出てきた百沙衛門は、奥座敷の珠緒に声をかける。

「ばあや、どうだ?」

「そうですね、熱もありますし胸の音が酷いです」

「胸の音?」

「哮喘の癪だと思うのですが」

「どうすればいいのだ?」

「確か…東次郎さまも時折なってましたね」

「そうだった、思い出した。よし、それなら俺が付いておれる」

「そうですか」

「ばあやも、もう休んでくれ」

「わかりました。では、坊ちゃまのお布団を隣の部屋に敷いておきますね」

「うむ」


 少し離れたところには夏というのに火鉢があり、その上に土瓶がゆるりと湯気を立ち昇らせて置かれている。

 その傍らには一つのお膳と茶器。水の入った桶と手ぬぐい。


「長屋では、葛湯を一杯飲んだらしい」

「そうですか、それならちょっとはマシかもしれませんね」

「うむ」


「では、坊ちゃま失礼いたしますね。

 何かありましたら、遠慮なく呼んで下さい」

「うむ」

「それと、瑠璃様はご病気なのですから、無体な事はなされませぬよう」


 するわけないだろう!


「わかってる」


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