第1節「ストリートじゃ日常茶飯事だ」
※ 本作は、「鈴吹太郎」「有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』の二次創作物です。(C)鈴吹太郎/F.E.A.R.
※ 時代設定は『トーキョーN◎VA THE Detonation』の末期、現在のフェスラー公国がまだヨコハマLU$Tと呼ばれていた頃。イワサキのアーコロジーがヨコハマにあった頃です。
※ 一部の登場キャラクターは筆者のTRPG仲間から許可を得て借用しています。
くだらない仕事。くだらない敵。スラムで、倉庫街で、工場街で、命じられるままにイワサキの敵を潰して回った。女子供を暗がりに連れ込んだストリートギャングや半グレを見つければ、後ろから近寄って皆殺しにした。
いつまでもこんな暮らしを続けるつもりはない。必ず見つける――自分が何者なのかという真実。
そんなことを考えながら、最後の相手に銃弾を撃ち込んだ。男が倒れると同時に、ヘッドセットが無線を受信した――秘匿回線。
「岩崎御庭番衆に告げる。脱走者がN◎VAに向けて移動したことが判明。レッドエリアに潜伏中の模様。これを捜索し、発見次第処分せよ。なお、生死を問わない」
クラン――はみ出し者。正規部隊の輪には加えてもらえない。しかし何度か訓練をともにしたり、服部・半蔵の視察を受けたりした。その間にヘッドセットで周波数と暗号化パターンを収集し、解析。秘匿回線を傍受できるようにしていた。曲がりなりにも工作員であるからには、猛って銃を振り回すだけでは話にならない。
潜伏場所と思われる地域――クランがいる場所からそう離れていなかった。
脱走を企てるからには、協力者がいるだろう。それとも敵対企業へ亡命しようとしているのか――千早か、テラウェアか。脱走者と迎えにやってきた連中をまとめて叩き潰せば、イワサキもクランを認めるしかない――真実に近づくチャンスが生まれる。
ポケットロンをホルダーにしまったまま、思考トリガーで番号をプッシュし、ハンズフリー機能で会話した。
「アーガスだ」
「アタシだ。頼みがある」
「例の件ならまだ時間がかかるぞ」
「別件だ。イワサキから逃げ出してきたっていうクグツを知らないか? レッドエリアに隠れてるらしい」
「やってみよう。5分後にまた電話してくれ」
5分経った。電話をかけた。
「どうだった?」
「正確な場所はわからなかった。だが、手がかりならある」
ポケットロンに地図が送られてきた――ストリートでは有名な闇医者のアドレス。企業の非合法工作員には、万が一の裏切りを防ぐために脳内爆弾が埋め込まれていることがある。埋め込まれているかどうかは本人にもわからないし、わかっても取り除けなければ意味がない。腕利きの医者の助けがいる。
「この医者なら、脳内爆弾を見つけて取り除けるのか?」
「そんなことができる奴は滅多にいない。その医者は、その滅多にいない腕前の持ち主だよ」
その近くで待ち伏せれば、脱走者の行く手に回り込めるかもしれないということ。
「ただし、医院の中でドンパチするのはやめてくれ」
「近くなら?」
「ストリートじゃ日常茶飯事だ」
鮫のように笑った。
「その闇医者がいる建物の作りはわかるか」
「中でドンパチやらかすなと言ったはずだぞ」
「やらねえよ。わかるのかわからないのか、どっちだ?」
「少し待て」
3分経った――クランのポケットロンに建物の見取り図がダウンロードされた。もとはリニアの駅と直結した建物だったらしく、地下から直接医院に上がれるようになっている。
推論――逃げる側としては見つかりにくいルートを選ぶはず。人との接触も少ない方がいい。レッドエリアに土地勘がなくても、あらかじめ逃走ルートを手引きしてもらえばいい。
結論――リニアの地下駅だった場所で待ち伏せる。
「金は後で払う」
電話を切った。
逃走している工作員の名前――クランが模擬戦で戦った相手。
地下に入る前に、ナノレイヤー入りの目薬を改めて差した。
リニアの地下駅。光源はなく、暗闇に包まれていた。思考トリガーで視覚センサーを暗視モードに切り替える。クランの前に、駅の様子が浮かび上がった。色のない白黒の世界。ホームにはかつて使われていた設備機器――ベンチ、待合室、発車ベル、非常ベル、ディスプレイ、自動販売機、ホームドア。電気が来ていない今、それらは動かない。
機器に目に見える破損はない。しかし埃が溜まっている。機器にも、ホームにも、線路にも。清掃も換気も行われていなければ埃は溜まる。足跡がつく――あまり動き回ると熱光学迷彩が役に立たなくなる。
熱光学迷彩を起動。ヘッドセットのパッシブ・センサーモードを全開にする――足音を探知。足早に駆けている。音が徐々に大きくなる。トンネルの奥、動く影。3つ。影の濃さが周りと違う。周りより温度が高い――生物。二本の足で立っている――人間。
連中――熱光学迷彩を起動していない。足跡がつく以上意味がないと踏んでいるのか。それとも見つかっていないと高をくくっているのか。
視覚センサーをズームイン。連中の顔を確かめる――男の顔と一致。男以外にも逃亡者がいる。
ヘッドセットでイワサキ本社を呼び出した。回線を開いたのを確かめると、マイクの部分を一定のリズムに従って指で叩いた――モールス信号。“災厄”前に儀礼を除いて絶滅した通信手段。それだけに知っている者が少ない。時折通信に使われている。
“離反者らしき者見ゆ。我において攻撃すべきや?”
数秒の間――規則正しい打電音が返ってきた。
“貴方において攻撃されたし”
そうこなくっちゃな――鮫のように笑った。手柄を取られてさぞかし悔しいだろうさ――笑いがこみ上げてくるのを抑えることができなかった。
腰の後ろから武器を取り出した――いつもと違う武器。ショットガンを一丁に減らして、代わりに折りたたみ式のグレネードランチャーを持ってきていた。伸ばして、腰だめに構える。こちらが爆発に巻き込まれず、相手の背中に着弾するように照準を調整。引き金を絞った。ワインの瓶からコルク栓を抜いた時のような音がして、弾が飛び出していった。数秒――着弾。閃光、一瞬遅れて爆発音と火炎。3人が炎に呑まれた。閃光に目を焼かれる前に、視覚センサーを耐閃光モードに切り替えた。熱気がクランの体を包む。
情報は、相手を戦闘不能にしてからじっくり聞き出せばいい。




