サクティラ
「もー主様ーいきなりイチャつくの止めてくださーい」
「そんなんじゃない」
エディは右手で私の頭を撫でると私から離れる。
「ルナシー、セトスから連絡が来たと言ったな」
「ええ。サクティラが動いたそうよ」
「そうだ、サクティラ。私の故郷がいったい何を……?」
「ここ20年近く、妖精や獣人が行方不明になっている。そもそも我がランダ国は行き来は自由で30年前ルルがいなくなった時もそのうち帰ってくるだろうと思っていた。しかし国の屈強な戦士、真面目な文官、そういうやつが突如消えて調査を始めたんだ」
エディによると調査は難航。後に調査を担当していたのがさっき会った牛の獣人でエディの異母兄側の獣人だったとわかった。
調査はやり直しになり拐われた獣人たちを探すため様々な場所へ味方を派遣した。
そしてセトスという妖精からサクティラが黒幕だと連絡が来たそうだ。
「でもサクティラが……。あの、私が知る限りサクティラの王族は自分の利益しか考えてなくて、悪知恵は働かせるけどせこいというか……小者というか……」
「我の異母兄はよく頭が働く。外面も良い。大方サクティラのやつを利用したんだろう」
「そうなんだ」
「セトスは中級の妖精でローナについてサクティラに行った妖精だ」
「え?ローナと一緒にいた妖精はローナが死んだあとにサクティラを出ていってしかもこの世にもういないってルル言ってなかった?」
「ティナ、それは正しくもあり違うとも言えるのよ。ローナは人間として生きるために妖精をサクティラから帰したの」
ルナシーさんが説明してくれる。
さっき私がやった儀式は獣人同士だとただ魔力を受け渡しできるようにするくらいだけど獣人が人間と結婚する場合は通常人間側が獣人に近付く。
だけどローナはそれを覆した。自分の能力で獣人である自分の寿命を人間に近付ける薬草を作って好きな人と一緒になったそうだ。
ローナはもうただの人間として生きていきたいからと言って妖精たちを自由にさせた。
だからルナシーたちはローナが誰かと人生を歩むことにしたことは知っていたけど子孫が生きているとは思わなかった。
「ほら、人間ってすぐ病気になったり寿命も短いでしょ」
「私もローナに子孫がいるとは思いませんでした」
「サクティラから帰った妖精たちはローナからのメッセージを伝えてくれたわ。『2回も恋ができた。1回目は失敗したけど2回目は上手くいきそう。前世から憧れていたお嫁さんになるからあと数十年の命になる。みんなは元気に長生きしてね』って」
「あの頃は追放したもののふらっと帰ってくるかと思っていた山猫一族も混乱してたな」
そう懐かしそうに言うエディ。やっぱりローナのことが好きだったんだ。
「それから妖精は寿命はないのだけど数百年生きたら眠りにつくの。ルルがいた30年前はちょうどローナについていった妖精が眠りにつく直前だったからもういないって言ったのかもしれないわ」
「うんーあれー?みんなもう起きてるのー?遊んでくれるかなー」
「セトスは遊んでたみたいよ。ルルは気付いてないって言っていたけどね」
「んー?」
「今は人間の姿で教会に潜入してるわ。名前はセントスと名乗ってるそうよ」
「え!?セントス様!?」
教会で唯一私のことを心配する素振りの見せてくれた若い男の神官のことだ。
彼が妖精?
「いや、でも妖精は人間の目に見えないんじゃ」
「人間の姿に化ければ人間にも見えるのよ」
「あーあの人セトスだったんだー気付かなかったー」
「話が逸れてしまったわね。セトスによるとセトスにも破れない結界が王宮に張られているのはわかるけど何があるかはわからないし王族の評価もティナのものとそう変わらないわ。まあ、セトスはローナを振った王子の子孫に元々否定的なんだけど」
「そういえば私に文句をつけに殿下が教会に来たあとセントス様、塩撒いてたわ」
「む……なぜだ」
エディが言う。
「私と同じで嫌いだったんでしょ」
「ではなくなぜティナが教会にいると王子が会いに来るのだ」
「ああ、私は妖精の乙女だったから1日のほとんどを教会で過ごしてたのよ。それで婚約者の殿下が理不尽な文句や嫌みを言いに来てたの。お前のせいで家庭教師に怒られただの転んで怪我しただの昔からわけのわからない文句を言ってくるわ腹いせに殴ってくるわムカつく王子だったわ」
「おいお前ら」
「「「はっ」」」
急にエディの雰囲気が変わってネイツさんたちが答える。
「サクティラの王子は我がやる。手を出すなよ」
「「「承知」」」
「やっぱり殿下……マルクスも関わってるのかな」
「捕らえればわかる」
「そっか。関わってるならナンシーはどうなっているのかしら」
「ナンシー?」
「私の異母妹よ。私の代わりに妖精の乙女になってマルクスの婚約者になったの。その前からナンシーとマルクスはデキてたと思うけど」
「デキてる?」
「あれ?これは知らないんだ。エディって前世のこととか詳しいからローナさんに聞いてるのかと」
しまった。自分からローナさんの話を振っちゃった。って、別にしまったと思う必要ないじゃん。
「ローナからそれは聞いたことはないな」
「そ、そっか。デキてるっていうのは付き合ってるってこと」
「王子はティナの婚約者じゃなかったのか?サクティラも一夫多妻制だったか?」
「ううん、いや、体裁的には一夫一妻よ。だから浮気ってことになるわね。私は王子が嫌いだったから別に良いんだけど。ナンシーが嫌みったらしく煽ってくるのはウザかったけどね。っていうかウザさで言うと父親と義母とどっこいどっこいだったわ」
「父親と義母も?」
「そうよ。滅多に会わなかったけどわざわざ屋根裏部屋まで来て汚い部屋だのネズミの住む場所だのって。キレイに掃除してたっての。ね、ルル」
「うん、ルル、ちゃんと掃除してたー」
「屋根裏部屋……?」
「そう。ざっくり言うと私の父親は使用人だった義母を愛人にするために私のお母様を正妻に娶ったんだけど屋根裏部屋に閉じ込めたの。私が生まれてからもその屋根裏部屋で暮らしてたのよ。狭かったけど私身長低いから頭ぶつけたりしなかったし住めば都って感じで居心地は良かったんだけどね。あ、異母妹なのは私が早産だから……ってエディ?」
エディが震えてる。
「エディ、まだどこか悪いの?」
「いや。おいお前ら」
「「「はっ」」」
「ティナの異母妹、父親、義母全員我がやるから手を出すな」
「「「承知」」」
エディ、また無理しないと良いな。
「あ、そういえば」
「今度は誰だ」
「いや、そういうんじゃなくて。そういえば私が12年前に妖精の乙女になる前8年くらい王族が妖精の乙女を探して平民の乙女を拐っていたって聞いたのよ。何か知ってる?」
「ルナシー、調査結果は?」
「20年前というのはランダから妖精や獣人が行方不明になった頃ね。ローナのことはあの頃生きていたランダの民ならほとんど知ってる。彼らからローナの子孫がいる可能性があることを知ったのかもしれないわ。調べればローナが市井を回っていたことはわかるから平民を探していたみたいね」
「私が妖精の乙女になってから止んだってことは」
「本物の妖精の乙女だとわかったからでしょうね」
「っていうことは王子……マルクスが私を偽物の妖精の乙女だと糾弾したのはおかしいですよね。妖精の乙女を探してたのに本物の妖精の乙女を追い出すようなことをするって……」
「それはわからないの。セトスもわからないけどあなたを逃がせるようだから逃がすと言っていたわ」
「セントス様が……」
そういえばセントス様は私が妖精の乙女になってすぐに地方の教会から赴任してきた。
それから他の司教はああしろこうしろって偉そうにしてたけどセントス様だけは優しく声をかけてくれたしシャボン玉だとかボールだとかで遊んでくれたっけ。
子供扱いされたと思って不満だったけどルルが楽しそうだったからまあ良いやと思ったんだ。
「あの、セントス様はサクティラが動いたって言ったんですよね。無事なんでしょうか。私、たくさん良くしてもらってて」
「それ以降連絡がつかないのよね。でもセトスは中級の中でも上位の妖精だから大丈夫よ」
「探しにいくか。どのみち回復したからもう行ける」
「えっ、エディもう大丈夫なの?」
「当たり前だ」
ということはサクティラに行くってことだよね。私も連れていってもらえるかな。でも……さっきみたいに足手まといになっちゃうかも。
「ルナシーは他のやつらをサクティラに呼んでこい。サクティラに入ったら一旦状況把握からだな。どこか拠点にできるところを探そう。サリ、ティナを守りながら調査しろ。ティナ、サリから離れるな」
「承知でーす」
「……え、行って良いの?」
「ここに置いていく方が心配だ。サリは馬鹿だがちゃんと強い」
「はいー。ちゃんと強いですー」
「本当は我のそばに置いておきたいが……。その方が危険だろう?」
ネイツさんたちがみんなうんうん、と頷く。
「そうなの?」
「先ほど話しましたが主が本気になれば帝国が一吹きで消えますから」
「あ……」
「巻き込まれたら大変です。念のため防炎マントを着てもらった方が良いかもしれませんね。ネル」
「あいあーい」
ネイツさんがネルの口から黒いマントを取り出すと私の肩に掛ける。
「あ、ありがとうございます」
「ティナを傷つけたりはしないというのに……」
「主は周りに気を付けるのではなく全力で戦ってもらった方が良いのです。何も考えず炎を放てば主に敵はいません」
「ネイツ、そうだ。戻ったら頭を噛み千切ると言ったな」
「書類仕事ができるんですかと言いましたよ」
「くっ……」
「まあまあ2人とも。私は主が苦手なことで役に立てるのが嬉しいですよ」
「サイネス……。お前だけだな、まともなのは」
「いつも主の側近のくせに目立たないと言われますけど」
「狼のくせに気が小さいわね」
「ルナシー……酷いです」
「みんな我が強いと纏まらないから良いのよ。さ、行くなら早く行きましょう」




