3話
昼休み。
教室はにぎやかなのに、美桜の机の周りだけ少し静かだった。
美桜は本を開いたまま、ページをめくっている。
映画化されたベストセラー小説。
昨日、友達に「これ面白いから読んでみて!」と渡されて、なんとなく受け取ったものだった。
「谷川、何読んでんの?」
隣から声がかかる。
横を向くと、関根くん。
わざわざ立って、本を覗き込んでいる。
「これ?」
美桜が少し持ち上げる。
「うん」
「あ、それ映画になってたやつじゃん」
「そうなんだ」
「知らずに読んでんの?」
少し笑われる。
でも、嫌な感じじゃない。
関根くんはそのまま、本を覗き込んだまま話してくる。
距離が近い。
(まただ)
でも、もう慣れてきている自分もいる。
「買ったの?」
「ううん、友達に借りた」
「ふーん」
それだけで納得するのが、少し不思議だった。
「面白い?」
「まだ途中」
「どこまで?」
「主人公がちょっと悩んでるとこ」
「雑だな」
笑われる。
関根くんはページをちらっと見る。
「俺それ映画で見たわ」
「そうなの?」
「途中で寝たけど」
「それ見たって言うの?」
「一応」
軽く笑う関根くん。
呆れた顔をする美桜。
「谷川ってさ、こういうの読むんだな」
「そうだよ」
一瞬だけ沈黙。
関根くんは少しだけ目を丸くして、
「なんか意外。谷川って静かなイメージだから」
「それ、褒めてる?」
「たぶん」
少し笑う。
美桜は少しだけ視線をそらす。
(褒められてるのかな)
よくわからないけど、嫌じゃない。
チャイムが鳴る。
「あ」
関根くんは短く声を出して、自分の席に戻る。
「じゃ」
「うん」
美桜は本を少しだけ開き直す。
(映画も見てみようかな)
友達から借りただけの本なのに、
少しだけ、自分の時間になり始めていた。




