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穀物転生  作者: リース
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第61食 青椒肉絲

シャロ達は第9層の「闇の世界」を、ただ黙々と前へ進んでいた。

空も遠景も不気味に黒く塗りつぶされ、方向感覚すらおぼつかなくなるような異常な空間。

周囲には生命の息吹など微塵も感じられない寂寥感だけがどこまでも広がっている。

この層に足を踏み入れてからは、誰の口からも言葉が出なくなった。

会話も何もない中、ひたすら前だけを向いて歩き続ける。

全員が極度の緊張に包まれ、神経を極限まで尖らせて周囲を警戒しているからだ。

無理もない、オリジンスライムやデュラハンと言い、これまでの層に巣食っていた魔物たちとは、根本的に次元が違う。

だからこそ、絶対に油断はできない。


「……ん?」


しばらく広い広い墓地を歩き続けていると、唐突に周囲の景色が変わり始めた。

そこら中に刺さっていた剣は消え、足元の大地を背の低い「紫色の草」がビッシリと覆う、不気味な大草原が地平線の彼方まで広がっていたのだ。

草を揺らす風すらも、どこか淀んでいて、甘ったるくも腐敗したような、奇妙で不吉な匂いを運んでくる。


「……何だ、ここは」


エミルが警戒も露わに立ち止まり、剣の柄にそっと手をかけた。


「草原……?紫の草原なんて……不気味……」


背筋を冷たい汗が這う。

4人はこの9層の事がなんとなく理解し始めて来た。

このフロア全体がただ一つの環境で構成されているわけではなく、これだけ広大な闇の空間の中に、いくつもの異なる特異な環境が点在している。

そして、それぞれの環境に応じた魔物がその環境ごとに巣くっているようだ。


「気をつけろ。今までの事を考えると、ここにも何か強力な魔物が潜んでいる可能性が高い」


エミルのピンと張り詰めた声が、全員の間に緊張を走らせた。


その言葉を裏付けるかのように――次の瞬間。


ズシン…………ズシン…………


大地そのものを根底から揺るがすような「巨大な地響き」が、草原の奥深くからこちらに向かって近づいてきた。

それは単なる足音ではない、一歩踏み出すごとに大気の重さが変わるような、強烈すぎる質量の移動だ。

姿は見えない、だが、魔物の気配を探るまでもないほどに、本能が「あれはヤバい」と全力で警鐘を鳴らしていた。


「……来るぞ!!」


ヨシュアの怒号と共に、遠くの方から「それら」が姿を現した。

それは、遠目からでもはっきりとわかるほどの、天をつく超巨大な化け物だった。

フォルムは四つ足で歩く「カバ」に近いが、その全身は岩のようにも見える硬質な筋肉と、金属のような光沢を放つ黒褐色の皮膚に覆われている。

頭部には、山をも容易く抉り取れそうなほどにぶっとく、鋭く反り返った巨大な2本の双角が生え揃っていた。

何よりも絶望的なのは、そのサイズだ。

全長はおよそ50メートル、ちょっとした小山ほどの巨大な体躯が、ただそこに存在しているだけで、圧倒的な理不尽さを周囲に撒き散らしていた。

しかも、その小山ほどの怪物が、横並びで「2体」も迫ってきているのだ。


「ベヒーモス……それのさらに上位種か……ッ」


ヨシュアがギリッと歯を食いしばる。


ズシンッ!ズシンッ!!


距離はまだ離れているはずなのに、その2体が歩みを進めるたびに、地面が大きく揺れる。


「シャロとアグニで右側の1体を頼む!もう1体の左側は、僕とヨシュアで倒す!それぞれが自分の相手に集中しろ、いいな!」


「了解ダ!!やってやるゾ!!」


「わかった!!アグニ、行くよッ!!」


シャロとアグニが、猛然と右側の巨大なベヒーモス上位種に向かって駆け出した。

同時に、エミルとヨシュアも左側の個体へと散開する。

シャロたちを「羽虫」のように見下ろした右腕のベヒーモスが、鬱陶しそうに鼻息を荒げ、凄まじい速度でその巨体を突進させてきた。


「グオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


天地を揺るがす大咆哮。

そして、ベヒーモスが凄まじい勢いで一歩を踏み出すたびに、ズガアアアンッ!!と、踏みしめた足元の地面から長く太い岩の巨大なトゲが無数に、鋭く突き出してきたのだ。


「くっ!『土系の魔法』か!!」


シャロとアグニが、足元から次々と突き出してくる岩のトゲを必死に回避する。

一つでも直撃すれば、そのまま空高く串刺しにされるだろう。


さらに、ベヒーモスはシャロたちを粉微塵にせんと、その超巨体で凄まじい踏みつけ攻撃を繰り出してきた。

それを回避した矢先、今度はベヒーモスが大きく口を開けたかと思うと、その喉の奥からゴウッと赤黒い炎を噴き出してきた。


「あの巨体に土の魔法に加えて、炎まで吐いてくるなんて……デタラメすぎだゾ!!」


なんとか必死に攻撃を回避する二人。

あのような岩のトゲに、山をも砕く踏みつけ、すべてを灰にする炎のブレス、どれか一つでもまともに直撃すれば、即死は免れない、まさに、常に死と隣り合わせの綱渡りを強要される戦闘だった。


「やられっぱなしでたまるカッ!!オラアアアアッ!!」


アグニが岩のトゲを足場にして高く跳び上がり、ベヒーモスの分厚い前脚に向かって、魔力を込めた鉄拳を叩き込んだ。


「《オーラ・ナックル》ッ!!」


ドスッ!!と重い音が響く。

だが、ベヒーモスは痛がる素振りすら見せなかった。

むしろ「ハエが止まった」程度の反応で、鬱陶しそうに前脚をブンと振り払う。


「なっ……アタシの全力のパンチが、全く効いてないだト!?」


アグニが驚愕で目を見開く。


「あの強固な筋肉と皮膚の鎧の前じゃ、あの巨体への物理攻撃は効果が薄すぎる……っ!」


シャロもまた、中距離から太い茨の槍を何本も射出するが、ベヒーモスの硬い皮膚と筋肉の前では、浅くしか刺さらない。


「ならば、狙うは装甲の無い急所……『目』か『口』!!」


シャロが瞬時に戦略を切り替える。


「わかったゾ!」


アグニは魔力を放出して空中を蹴り、空へと舞い上がった。

シャロもまた、背中から植物の翼を生やし、力強く羽ばたかせ、アグニと共に空中へと飛翔した。


二人は空を縦横無尽に飛び回り、ベヒーモスの周囲を旋回しながら翻弄し始める。


「こっちだデカブツ!!ノロマな動きじゃアタシは捕まらねぇゾ!!」


アグニが魔力弾を次々とベヒーモスの顔面に向かって放つ。


「グルオオオオオオッ!!」


顔面をチクチクと攻撃され、さすがのベヒーモスも明確な怒りをあらわにした。

巨大な咆哮から激しい岩石の弾丸を放ち、炎のブレスが乱れ打たれ、激しく反撃してくる。

空の空間すらも、一瞬にして弾幕のような岩と炎の嵐に包まれた。


「《ローズ・グングニル》ッ!!」


シャロはとにかく自らの魔力を惜しむことなく注ぎ込み、巨大な茨の槍を何度も放つ。

ベヒーモスにダメージを与えつつ、弾幕によってその気を痛いほどに反らす。

シャロの絶え間ない攻撃に苛立ち、ベヒーモスの意識がほんの一瞬、シャロの方にだけ向いた。


「もらったああああああッ!!」


一瞬の隙にアグニが急降下し、ベヒーモスの無防備な『右目』めがけて、全身全霊の魔力を込めた必殺の一撃を放った。


「《オーラ・バースト》ッ!!!!」


巨大な魔力の塊が、右目に向かって一直線に叩き込まれる。

――しかし、野生のカンと言うべきか、ベヒーモスはその巨体に似合わぬ異常な素早さで、咄嗟に首を捻ったのだ。


「チィッ……外したかッ!?」


アグニの超絶な一撃は的を僅かに逸れ、右目のすぐ横に直撃した。

攻撃自体は確実にヒットし、ベヒーモスを大きくひるますほどの威力を発揮したが、急所である目ではないため、あの巨体に対する決定的なダメージには程遠かった。


だが、それでも、自分の顔面に傷をつけられたという事実は、ベヒーモスの逆鱗に触れるには十分すぎた。


「グロオオオオオォッ!!!!」


ベヒーモスは、自分に痛みを与えたアグニを明確に「鬱陶しい敵」として認定し、完全に彼女に狙いを定めた。

首を振り乱し、口からは絶え間なく炎のブレスの連発、さらに、超巨大な岩の弾丸を次々と放ってくる。


「うおおおおッ!!ヤバいヤバいヤバい!!死ぬっ、これマジで死ぬゾッ!!」


アグニは必死に紙一重で、嵐のようなベヒーモスからの攻撃の猛威を必死に避け続ける。


「見えたっ!」


アグニが逃げ回り、ベヒーモスが彼女を追って大きく口を開け、再び超高熱の炎のブレスを吐き出そうと息を大きく吸い込んだ、まさにその時、ベヒーモスの動き、そして攻撃のタイミングを完璧に予測していたシャロが、一本の特大の茨の槍をその口目掛けて放つ。


「《ローズ・グングニル》ッ!!」


シャロの手から放たれた必殺の槍が、炎を吐き出そうと大きく開かれていたベヒーモスの口内へ、深々と突き刺さったのだ。


「ガアアアアアッ!!!」


口の中という柔らかい内部を深々と貫かれ、ベヒーモスはこれまでに出したことのない耳の鼓膜が破れそうな激しい絶叫を上げた。

痛みに狂い、50メートルの超巨体が、ただでさえ理不尽なパワーで周囲をメチャクチャに荒れ狂い、大暴れを始める。

ズシン、ズシンというレベルではない、大地が割れ、紫の草原がめくれ上がり、岩が粉々に砕け散る、文字通りの大惨事だ、巨獣がのたうち回るだけで、天変地異が起きているかのようだった。


「うおっ!滅茶苦茶に怒ってるナ!」


シャロとアグニは必死に怒り狂うベヒーモスの攻撃を回避する。

あまりにも激しい攻撃、だが、攻撃の密度が増えた代わりに、防御が疎かになった、その隙を二人は見逃さなかった。


「今ダッ!」


「そこっ!」


アグニがベヒーモスの右側へと超特急で接近し、右目めがけて高密度の魔力の波動を放つ。

全く同時にシャロが左側へと回り込み、左目めがけて研ぎ澄ませた茨の槍を深々と突き立てた。


「ギギィギャアアアアアアアッッ!!」


両目を同時につぶされたベヒーモスは、その苦痛と暗闇への恐怖から、先ほどとは比べ物にならないほどに激しく大暴れした。

滅茶苦茶に地面を踏みつけ、手当たり次第に周囲の岩や大地を砕き続ける。

近寄るだけで粉微塵にされそうな、まさに「自暴自棄の破壊兵器」と化していた。


「な、なんてヤツだ……両目潰されて、口ん中まで串刺しにされてるのに、まだこんなに動けるのかヨ……!?」


空に退避したアグニが、信じられないという顔で眼下の狂乱を見下ろす。


「でも……確実に体力は削れてるはずっ!もっと、もっと攻撃を撃ち込み続けよう!!」


シャロの瞳には諦めの色は一切ない。


そこからは、文字通りの『長い長い消耗戦』の戦闘へと突入した。

シャロとアグニの攻撃は確実にヒットしていく。

だが、両目を潰されたことへの深い「怒り」と「憎しみ」からか、ベヒーモスの動きは衰えるどころか、ますます激しくなるばかりだ、倒れる気配は一向に無い。


「くぅっ!?」


「熱ッ!!」


致命的な直撃だけはギリギリ回避しているものの、飛び散る破片や爆風、衝撃波をすべて避けきることなど不可能だ。

時間が経てば経つほど、シャロの腕や脚に切り傷が増え、アグニの体も打撲と軽い火傷でどんどんと受ける傷も増えていく。

互いに息は上がり、魔力も体力も限界が近づきつつあった。


「ハァ……ハァ……アイツ……どんだけタフなんだヨ……」


「くっ……このままじゃ……先にこっちが力尽きるよ……!」


疲労困憊の二人。

だが、その忍耐と苦痛の連続は、ついに明確な「成果」となって表れ始めた。


次第に、あれほど嵐のように荒れ狂っていたベヒーモスの敵の動きが、目に見えて精彩を欠いていくようになったのだ。

攻撃の激しさは変わらないが、その方向が滅茶苦茶になり、シャロやアグニの居ない方向に攻撃する回数が増えて来た。


「おいシャロ、見ろよ。だいぶ奴の攻撃が雑になってきてるゾ!」


アグニが目を輝かせて叫んだ。


「……やっと……私の『毒』が効いてきたみたいね」


シャロが汗を拭いながら、安堵の混じった笑みを浮かべた。

実は、シャロは攻撃全てに猛毒を付与していた。

しかし、あの巨体故に、中々その毒が回らなかったのだが、何度も何度も毒を打ち込み、更に長期戦になった事で、ようやく毒が全身に回り始めたのだ。


「今の相手は、もうだいぶ意識が朦朧としてるはず……!アグニ!ベヒーモスを『誘導』するよ!」


シャロが鋭い声でアグニに合図を送る。


「誘導!?よくわからんが……とにかく、シャロと同じように動いて、あいつを特定の方向に動かせばいいんだナ!?」


シャロとアグニは再び空へ舞い、意識が朦朧として足元の覚束ないベヒーモスに対し、右から左からと、チクチクと細かい魔法攻撃を当てながら、その行動を巧みに「ある一定の方向」へと誘導していった。

ベヒーモスはフラフラと怒りに任せてシャロたちが望む方向へと歩を進めていく。

彼女たちが命がけでベヒーモスを誘導している、その「方向」の向こう側。

そこでは、同じようにもう1体のベヒーモスを相手に、エミルとヨシュアが死闘を繰り広げている真っ只中だった。


「おい!ヨシュア!あれ!」


「!!なるほど、考えたな!」


こちらに向かって来るベヒーモスに気が付いたヨシュアとエミルは、互いにアイコンタクトを取ると、即座にその場から全力で大きく左右へと離脱して飛び退いた。

その直後、ただシャロたちへの怒りだけで猛突進してくるベヒーモスが、もう1体のベヒーモスに激しくぶつかったのだ。


ズドオオオオオオォォォンッッ!!!!!!!!!


2体の、超巨体同士による、逃げ場のない正面衝突。

その衝撃は、先ほどの暴れ狂う攻撃など児戯に思えるほど、筆舌に尽くしがたい絶大な威力を誇っていた。

いくら最高クラスの防御力を誇るベヒーモスと言えど、同じベヒーモス相手からの、完全に無防備な状態での全力の体当たりならば、相当の大ダメージとなるのは必定。


両者は凄まじい音を立てながら、お互いにそのあまりの衝突の衝撃を堪えきれずに大地を激しく揺らして無様に転倒した。

白目を剥き、完全に脳震盪を起こして折り重なるようにして完全に隙だらけになった2体の巨獣。


「今だっ!」


エミルの声に呼応するように、シャロ達4人が、転倒して身動きが取れなくなった2体のベヒーモスめがけて、それぞれが持つ正真正銘『全身全霊』の最大最後の攻撃を一斉に放った。


「《超オーラ・バースト》!!」


「《サンダーボルト・エクスカリバー》!!」


「《インフェルノ・フェニックス》!!」


「《ネイチャー・ブレス》!!」


4色の必殺技が、無防備なベヒーモスたちに直撃する。

激しい爆発の衝撃が第9層の闇の世界を揺るがせた。


「グウウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


ベヒーモスは激しい断末魔を叫ぶと、そのままピクリとも動かなくなった。

長い長い死闘の果てに、ようやく2体の巨獣ベヒーモスは沈黙したのだった。


エミルがゆっくりと剣を収め、アグニがその場に大の字になって倒れ込み、ヨシュアが深く息を吐き、そしてシャロが額の汗をぬぐう。

満身創痍の4人に、一時の静寂が訪れた。


「はあああっ……流石にくたびれたゾ……」


「ああ。流石は9層の魔物だ……信じられないほどとんでもなくタフな相手だったな……」


「今日の探索は、もうここまでにしよう。流石に全員、魔力も体力も限界だ。とてもじゃないが、この状態でさらに奥へ進むことなど不可能だろう」


エミルの提案に三人は異議を唱えなかった。

三人ももう疲労困憊で、これ以上は先に進めないとわかっていた。


「じゃあ、まずは食事にして、もう今日は寝ちゃおうか」


シャロが重い空気を振り払うように、努めて明るい声色で言った。

シャロはベヒーモスの巨大な体に両手を触れると、魔力を注ぎ込む。

ベヒーモスの死体が緑の光に包まれ、そこから新たな生命が芽生えていった。

黄金色に輝く立派な「小麦」、豊かに実った稲穂から取れたツヤツヤの「米」、鮮やかな緑色をしたツヤのある「ピーマン」、土の香りが芳醇な掘りたての「たけのこ」、そして最後には、丸々と太った「牛」が見事に生え揃った。


シャロは気合を入れ直し、手早く作業に取り掛かった。

まずはいつものように小麦を挽き、米を研いで鍋に入れ、ご飯を炊き始める。

次に牛を解体し、細切りにしていく。

同じように、ピーマンとたけのこも、肉の大きさに合わせて細切りにしていく。


切った牛肉はボウルに入れ、そこに酒、醤油、塩コショウを振りかけてしっかりともみ込み、下味をつけていく。

さらに、先ほど挽きたての「小麦粉」を全体に薄くまぶす。こうすることで、肉の旨味を中に閉じ込めると同時に、炒めた時にソースがよく絡むようになるのだ。


準備が整ったところで、シャロは鍋を焚き火にかけ、たっぷりの油を引いた。

鍋からチリチリと油が熱される音がし始めたところで、下味をつけた牛肉を一気に投入する。


ジュワアアアアッ!!


爆発するような強烈な音と共に、醤油と酒が焦げる最高に香ばしい匂いが弾けた。

牛肉を強火で素早く炒めていき、表面の色がこんがりと変わり、十分に火が通ったところで、細切りにしたピーマンとたけのこを鍋に放り込んだ。


ジュウウウウウッ!!


さらに勢いを増す炒める音。

全体に軽く火が通り、野菜の色鮮やかさが際立ったところで、味の決め手となる調味料を投入する。

醤油、砂糖、油、そして前回の「お好み焼き」の時に作った『特製黒ソース』を加える。


シャロが鍋を大きくあおると、特製黒ソースと醤油の焦げる凄まじく食欲をそそる香りが、暴力的なまでに広がり、立ち昇る炎と共に具材全体を照らし出した。

強火で黒ソースの水分を飛ばし、具材一つ一つに濃厚な旨味のタレを完璧に絡め取る。

ピーマンの緑、たけのこの白、そしてソースをまとって艶やかに輝く牛肉の茶色。

最後にフワリと油をひと回しかけて火から下ろした。


「お待たせ!特製『青椒肉絲』の完成だよ!!」


シャロは、大きな皿に山盛りにされた青椒肉絲と、ホカホカに炊き上がった白米を3人の前に並べた。


「きたあああああっ!!もう我慢できねぇ、いただきまああス!!」


アグニが猛然と飛びつき、フォークを使って山盛りの青椒肉絲をご飯の上に乗せると、そのまま一気にかき込んだ。


「……ッ!!んんんうめええええッ!!」


アグニは目を文字通り天にも昇るような至福の表情を浮かべた。


「美味い!肉を噛んだ瞬間に甘じょっぱい味がジュワ〜って口いっぱいに広がるゾ!!それに、このピーマンとたけのこのシャキシャキした歯ごたえがたまらない!!ご飯が!ご飯が無限に進むゾオオオッ!!」


あっという間に白米の山が消え去り、おかわりの為に茶碗を突き出してきた。


「どれ……また見たことのない、珍しい料理だな」


エミルもまた、フォークで慎重に肉と野菜を刺して口に運んだ。


「……肉と野菜の炒め物か?……!!いや、これは……美味い!!!」


エミルも一口食べた瞬間に目を見開いた。


「ああ、同感だ。疲労困憊の身体に、この濃いめの味付けがこれ以上ないほど染み渡る……」


ヨシュアもまた、黙々と、しかし凄まじいペースで青椒肉絲と白米を口に運び続けていた。


「ふふっ、喜んでもらえてよかった!」


シャロも自分の分の青椒肉絲をご飯に乗せ、美味しそうに頬張った。

こうして、4人は言葉も少なく、ただひたすらに特上の青椒肉絲と白米を胃袋へと流し込み、大満足の食事を終えたのだった。


「ふぁぁぁ…………食った食った……お腹がいっぱいになったら……急に、眠気が……」


先ほどまでハイテンションでご飯をおかわりしていたアグニが、皿を置いた途端に大きなあくびをこぼし、瞼を重そうにこすった。


「ああ……流石に今日は色々なことがありすぎた。限界だ……」


エミルも今にも寝落ちしそうな様子だった。


「ああ……流石に今日は寝るとしよう……」


ヨシュアは魔物避けの結界を張り、就寝の支度をすると、目を閉じた。


「……うん……みんな、本当にお疲れ様。おやすみなさい」


シャロもまた、布団代わりの葉を生やすと、それに包まリ、ごろんと横になった。

過酷な第9層での長い1日が終わる。

静寂に包まれた闇の世界の中で、シャロたち4人は明日の決戦に向けた活力を養うため、深く、心地よい眠りへと落ちていくのだった。

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