宴会
俺達が村に着くと外で遊んでいた子供達が狩人の人達にかけよった。他にも狩人の嫁さんだと思われる人達もいるようだ。
その嫁さんと狩人は歳が若い人が多いように見える。多分、初めての大規模戦闘だった為、心配していたのだろう。
実際、中年くらいの狩人には嫁さんが来ていないしな。因みに俺の母さんも来ていない。多分、父さんの実力を信じているからだろう。
それから数分後、ユークさんが周りを見てここにいる全員に集合をかけた。
その声を聞くと、休んでいた狩人も、抱擁していた若い狩人もみんな集まってきた。勿論俺達も。
ユークさんが全員の顔を見ると言った。
「お前達、今回のゴブリン殲滅は成功だ。これで作物が荒らされる心配もなくなるだろう。そして、初めての大規模戦闘だったにも関わらず若い奴らは良く戦った。さて、長話はこれくらいにして、まずは各自家に帰って休憩しておけ。そして7時からは宴会だ!」
その言葉を聞くと中年の狩人達が大騒ぎをし始めた。若い狩人は混乱しているようだが、話しを聞いて若い狩人達も騒ぎ始めた。
話しを盗み聞きすると、どうやら宴会では酒が出るらしい。確かに酒なんてそうそう飲めないからな。酒を飲むとしたら行商人から買うくらいだ。
狩人達が嬉しそうにしているのを確認しながらユークさんがここにいる全員に言った。
「お前達、これにて解散だ!各自家に戻るように。」
その言葉を皮切りに、続々と狩人達は帰って行く。それを横目に俺は父さんにこの後どうするかを聞いた。
「そうだな、家に帰って、風呂でも入るか。飯は宴会でたらふく出てくるからな。それにお前の無事もリリアに教えないといけないしな。」
「なら私もそうしよう。ニノもそれでいいか。」
リガルドさんがそう言うとニノは小さく頷いた。そして俺の方を向いて言う。
「アレク、また後で。」
「ああ、また宴会でな。」
そうしてニノとリガルドさんは帰って行く。ニノとリガルドさんが帰ると同時に冒険者達が話してかけてきた。ユークさんと話していたのが終わったのだろう。
「ジークさん僕達も宴会に参加させてもらう事になりました。」
「分かった。その時はよろしく。」
「師匠、俺もっす。」
「はぁ、グレン、師匠と言うな。人前ではジークさんにしろとあれほど言っただろう。」
父さんは呆れた顔でグレンさんに言う。だけどグレンさんは直す気が無いようで、父さんはこのまま師匠呼びされるだろう。
俺が父さん達を見ているとシンシアさんがキョロキョロしていた。
「シンシアさんどうしましたか?」
「ん?いや、ニノちゃんがいないなーと思って。」
「ニノなら今さっき帰りましたよ。宴会の時にまた来るようなので、用があるなら宴会の時に済ませば良いと思いますよ。」
「大丈夫、大丈夫ただ話しをしたかっただけだから。それに、アレクがいるしね。」
シンシアさんの目を見て分かった。多分、宴会まで暇だから話し相手になって貰いたいんだろう。俺も、話しをするのは別に良いが、家に帰らないと母さんが心配するだろうしな。
「すみませんシンシアさん、この後家に帰るんですよ。だから暇潰しの相手にはなれません。」
「あれ、バレてた?」
悪気が無いように笑うシンシアさん。多分これがシンシアさんの素なんだろう。すると丁度父さんから声がかかった。
「アレク帰るぞ。」
「分かった。シンシアさんそれじゃ。」
そう言って俺はシンシアさんと別れ、家に帰宅した。
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家に帰るといつものように母さんが出迎えてくれる。
「おかえりアレク、ジーク。」
「「ただいま。」」
「直ぐ風呂に入りたいんだができるか?」
「できるわよ。」
そう言って母さんが魔法を発動させたのだろう。俺にはただ、魔法を発動した事しか分からなかった。
「ありがとう、アレク風呂に行くぞ。」
父さんについて行くと風呂に湯が張ってあって驚いた。俺は母さんが風呂を沸かすところを見た事が無かったがこんな事をしていたのか。
そして俺達は風呂に入って体と頭を洗い風呂から上がり服をきた。その後ダラダラしていると母さんに呼ばれた。
「アレク、体を見てあげるからこっちに来なさい。」
俺はなんだろうと思いながら母さんがいる部屋に向かった。
「何するの?」
「光魔法で身体の疲れを取るのよ。ただ、これは結構集中が必要だから毎日はやらないわよ。さっ、床に寝そべって力を抜きなさい。」
俺は言われたとおりにした。すると母さんが光魔法を発動させると俺の身体がポカポカしてきた。そして何かが抜けるような感覚があり、体がとても楽になった。
「あれ、体が凄く軽い!今なら何でもできそうな気がするよ。」
「それだけ、気づかないうちに疲れが溜まっていたのよ。」
確かに毎日強くなるために努力していたからな。俺がダラダラしているのを見て母さんがやってくれたのだろう。
「なんだ、それをやるためにアレクを呼んだのか。」
「父さんは母さんのこの魔法を知ってたの?」
「ああ、冒険者をしていた時はたまにやってもらっていたからな。」
「へ〜そうなんだ。」
「この話はここまでにして、少し早いけど宴会に向かいましょう。」
「そうだね。」
こうして俺達は宴会へと向かった。
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俺達が宴会場に着くとそこは料理を作る人と配膳をする人、他にも椅子や机を出したりする人で大忙しだった。
俺が呆気に取られていると、父さんに背中を軽く叩かれる。何事かと後ろを振り向くとそこにはニノの家族がいた。そう家族なのだ。だからニノの母さんと思われる人がいる。
その人は銀と青を合わせたような髪をし、作法がとても綺麗でその存在そのものが美しいと感じられた。
「初めましてアレクさん、アレクさんの話は良く聞いております。私はニノの母親で名はアレイシア、お好きなようにお呼びください。」
自己紹介までもが気品に溢れており、一瞬思考が飛んだが、名乗られたのならしっかりと返すのが礼儀と言うもの。
俺は前世での礼儀作法を思い出しながら自己紹介をした。
「お初めお目にかかります。ニノさんのお母様。礼節のほどは浅学の身、無礼ながらお許しいただけると嬉しく存じます。父ジーク、母リリアが息子、名をアレクと申します。私の事はアレクとお呼び下さい。」
「ご丁寧にご挨拶をどうもありがとうございます。ただ、私の身分は貴方と同じ、普通に接してくれるとありがたいですね。」
そう言ってアレイシアさんは楽しそうに笑う。アレイシアさんは本当に普通に接してくれるのを望んでいるのだろう。
「分かりました。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ。」
俺とアレイシアさんは握手をした。ただ周りの人達は驚いているようだ。
この後、礼節について聞かれたが本であったことを真似ただけと誤魔化しておいた。
「それにしてもアレクは礼節がしっかりとできるのだな。」
「俺も今知ったばかりだ。」
そんな話しを父さん達はしていて、母さん達も話しをしている。何でもアレイシアさんと母さんはママ友らしく、よく話しをするんだとか。
そんな事を考えているとニノが肩をトントンと軽く叩いてきた。
「なんだ?」
ニノの顔を見ると少し不安そうな顔をしている。
「アレク、私はニノ。」
「えっ、うん。しってる。」
「だからニノ。」
「いや、何回も言うなよ。ニノだろ、分かってるって。」
俺がそう言うとニノの不安が消えたのが分かった。何だったんだ一体?俺は不思議に思ったが、それよりもニノに聞きたいことがあった。
「なあ、ニノの母さんさ、商家の娘って言ってだけどあんなに礼節がしっかりとしているものなのか?」
「分からない。」
「分からないって、もう少し冒険者以外にも興味を向けようぜ。」
俺はそう言いニノの頭をポンポンと撫でた。するとニノは気持ちよさそにした。相変わらず無表情だが。だけどニノを見ているとホッコリとするんだよな。
「分かった。」
「そうか、それに冒険者には色んな知識が必要だしな。やる気、出ただろ。」
「うん。」
その後ダラダラと俺達が話しているとユークさんが出てきて話し始め、周りを見ると沢山の人達がいる事に気がついた。
「さて、少し時間が早いが全員集まった事だ、」
そうユークさんは区切り言った。
「今から宴会の始まりだ!!」
『うおおおお!』
こうして宴会が始まった。席は沢山出してあり木の板に名前が書いてある。そして各々がその席に座り机の料理に手をつけていく。
そして、俺達の席はニノの家族と冒険者達が隣になっていて端っこだった。
宴会では最初は家族と食べていたが段々と大人達は色んな席に移動して歩きまわっている。父さんとリガルドさんのところに来た、狩人さんと話したりもした。
そしてこんな感じの宴会は冒険者では日常茶飯事なのか、直ぐに他の村人達と仲良くなり、ダンさんが酒の飲み勝負をしたりしている。
そして眠くなって子供達を家に連れて帰るため母親が同伴して帰るとさらに村人たちが騒がしくなり、腕相撲大会が開かれた。
それに何故か俺も入る事になり勝負する事になった。それでも流石に力比べでは勝てるはずもなく負けたが、周りの大人達の驚いた顔は面白かった。
そして、深夜になると段々と静かになり、この酔っぱらい共は眠りについた。因みにリガルドさんと父さんもこの中にいる。
それを見たアレイシアさんと母さんは呆れた顔をしてニノと俺をそれぞれ家に連れて帰った。
こうして酔っぱらい共は放置されて宴会は終わった。




