32_ただそれだけがほしかった(6)
フレスベルは、緊張していた。
ラピスティーヌ家の応接間にて、クォーツの家族を待っていた。
婚約のあいさつに来たのだ。
(舞踏会の練習に毎日通っていたのに、一度もお会いしなかったわ。)
相当、研究漬けらしく、別館と言われるところからなかなか出ないそうだ。
(でも、クォーツとお姉様を育てられた方だと思えば、安心だけどね。)
「緊張させてごめんね、ぼくが話すから、無理に話そうと思わなくていいから。」
「うん…人見知りなだけだから。ありがとう。」
ノックの音が響き、扉が開く。
リドットと、きれいな服装の壮年の男性と女性が現れる。
フレスベルは決まったお辞儀をする。
「クォーツの父のローベルトです。こちらは、妻のユリア」
二人は決まったお辞儀をする。
「お父さま、お母さま」
クォーツはかしこまって切り出す。
「こちらのフレスベル・フォーリッツさんとの婚約を認めてほしい。」
フレスベルは動悸が止まらない。
「もちろん。」
ローベルトは堂々と答えた。
「フレスベルさん。」
「はい」
ローベルトに話しかけられて、フレスベルは声がひっくり返りそうになる。
「クォーツは、とても器用な子です。だから、人付き合いで苦労もしない。
でも、研究のことばかりで、今まで、令嬢の話なんてしなかったんです。
そのクォーツが、楽しげにあなたの話をしていた。
今は、それで十分です。クォーツを頼みます。」
父は、クォーツと同じ碧い瞳でまっすぐに、フレスベルに語り掛けた。
「はい…」
フレスベルは、鼓動の音がおとなしくなっていた。
「リドットからもあなたの話をたくさん聞いていましたよ。」
クォーツの母が、嬉しそうに言う。
「だって、お母様もお父様も研究にかかりきりで、フレスベルちゃんが来ても、顔も見せに来てくれないんだもの。」
リドットは口をとがらせる。
「なかなか、区切りがつかないのよねえ」
「そうだね。」
フレスベルは、クォーツのつかみどころのない、優雅さのようなものの根本を感じた。
(家族だ)
今だけは、自分の家族と比べないようにしようと思ったフレスベルだった。
(この人たちと家族になるんだ)
「よろしく、お願いします。」
フレスベルはお辞儀した。
全員、席について、クォーツは、これからの話をはじめた。
「フォリンドでは、魔法の適性が高い女性は、言い方を選ばなければ、かなり結婚市場では優遇される。
一応言うと、精霊信仰の国だからね。」
「つまり、フレスベルは、トップクラスの女性だ。」
クォーツの声は真剣みを増す。
「そんな…。きっと、ただでは認めないわ。
れ、恋愛結婚だけれど、法外な持参金を要求したりするかもしれない。」
フレスベルも、れんあいという言葉の声量は小さくなったが黙っていられない。
「持参金くらいならいいけどね。」
クォーツの父は苦笑いする。
フォーリッツ家の話はすでに聞いているようだ。
「そのことなら、わたしとクォーツが今日まで調査してきました。」
リドットは言う。
「手札は、あります。」
話を終え、フレスベルは、ワンピースから元の服装に着替えて、送りの馬車に乗るところだった。
クォーツが見送りに来ていた。
「今日はありがとう。ゆっくり休んで。」
「うん…」
特別な日の別れが惜しかった。
「ん」
クォーツが、抱きしめてくれた。
フレスベルも抱きしめ返した。
「頑張ろうね」
「もちろん」
ふたりは、お互いにだけきこえるように、ポツリとこぼした。
ありがとうございました。




