2月28日 曇り
「あ! ねーねー、あさみちゃん。」
「うん?」
教養科目として受けている別の学部の講義の前の時間、急に話しかけられた。
この娘はこっちの学部に入学した元同級生だ。
えっと、顔はわかるけど名前が出てこない。
「彼氏さん、田嶋と手つないでるの見たんだけど、とうとう別れたの?」
田嶋?
誰だっけそれ。
「え、別れてないけど…」
「え!?」
しまった!という顔。
「あ、そうなんだ。あれ…? じゃあウチの勘違いかも。ごめ忘れて!」
そう言ってそそくさと席を離れていく。
「感じ悪いね。」
隣にいた友達が言った。
たしかに、『とうとう別れたの?』は失礼だ。
あたしが答えないでいると、続けて言う。
「あの人が言ってるだけで本当かどうかなんてわからないんだし、気にしない方がいいよ。」
やさしい。
そっか、この娘は学部が違うからしんちゃんのことを知らないんだ。
さっきの元同級生もそうなんだろう。
しんちゃんは教育学部では有名人だ。もちろん悪い意味で。
「うん。気にしない。ありがと。…ところで田嶋って誰だかわかる?」
「さぁ…。この講義の先生も田嶋先生だし、どこにでもある名字だから…。」
「それもそっか。やっぱ気にしないことにしよ。」
そういえば先生も田嶋だ。
独身女性ではある。
ただ、もう40歳近そうな見た目だし、まさかね。