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10月31日 雨

 最近はずっと雨だ。

 寒くなってきたし、外に出るのが憂鬱になる。

 でも今日はりょうちゃんと二人で飲みに行く日。

 服も髪もメイクもしっかり。あんまりやりすぎるとからかわれそうだから、ナチュラルって言葉の範囲内に収まるようにしっかりだ。


「かんぱーい!」


 りょうちゃんとグラスをぶつける。


「なんか久しぶりだね。」

「だな。」

「あたしね、今日は話したいことがあるんだ。」

「奇遇だな、俺もだよ。」

「そーなの? じゃあ先どうぞ。」

「いいのか?」

「うんうん。」

「…その、俺、美奈子と付き合うことにしたんだ。」

「え?」

「美奈子から告白されて、先週から。」


 頭が真っ白になる。

 あれ、なんて返せばいいんだろ。

 わからなくなって聞き返してしまう。


「先週?」

「ああ、俺からあさみに言うから、美奈子にはそれまで言わないでいてくれって言ってたんだよ。」

「そうなんだ。」


 あ、そっか。おめでとうだ。


「おめでとう。」

「ああ。」


 りょうちゃんが眉毛を掻(か)く。

 照れてるときの仕草(しぐさ)だ。


「…ありがとう。」


 あ、だめだ。なんにも考えられない。どうしよう。


「それで、あさみの話って?」

「え…あ…」


 なんだっけ。しんちゃんと別れたって言って、りょうちゃんに付き合おうって言うはずだったよね。

 あれ、でも、なんかおかしいな。もう酔ってるのかな。

 うつむいて、そのまま喋る。


「しんちゃんと別れたんだ。」

「…マジ?」

「うん。」

「それは、振られたってこと?」

「自分から。」

「そっか。」

「うん。」

「急にどうして、って聞いて良(い)い?」


 それは答えていいんだろうか。

 それを口にすれば、美奈子との友情を失うことになるかもしれない。


「ねぇ、りょうちゃんは美奈子のことが好きなの?」

「…これから好きになる。」


 顔を上げる。複雑な顔のりょうちゃんを見て、口が勝手に動いた。


「…あたしがりょうちゃんのこと好きだって言っても?」


 りょうちゃんが驚いた顔をする。

 次に泣きそうな顔。


「それが本心だったらよかったな。」


 きっとあたしも泣きそうな顔をしている。


「ごめん、今日は帰るわ。」


 りょうちゃんはそう言って五千円札をテーブルに置いて立ち上がった。

 何か言おうと思ったけど、声が出なかった。




 本心だよ。

 それがあたしの本心。

 りょうちゃんが好き。

 今さらだけど、すっごく好き。


 鞄からりょうちゃんの部屋の合い鍵を取り出す。

 革のヘッドカバーが付いたおしゃれな鍵。

 あ、今気付いた。

 カバーの焼き印、筆記体でAsamiって書いてある。


 涙が溢れてくる。

 あたしは卑怯で、りょうちゃんは優しいなぁ。

 合い鍵は美奈子に渡そう。

 りょうちゃんに返すより、きっとその方が良(い)い。




 ああ、そっか。

 魔法が解けちゃったんだ。

 シンデレラはいいな。

 魔法が解けても物語が続いていった。

 あたしはきっとここで終わり。

 あたしもガラスの靴を落とせばよかったのかな。

 違うか。

 きっと、魔法が解ける前に伝えなきゃだめだったんだ。



読んでいただいてありがとうございました。

あさみのお話はここまでとなります。

でもまだ終わりません。

来週からアザーサイドのお話を掲載していきます。

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