奪還
シンディー達が無力化したK70星雲の警戒設備網を進む宇宙船団がある。デイモン達の軍団である。
「シンディーらは、うまくやっているようだな」
デイモンは、宇宙船の艦橋から辺りを眺めながらほくそ笑んだ。時限爆弾を体内に仕込ませて、半ば強制で働かせているのだ。その働きにデイモンは満足した。
「流石は、かつて私が仕込んだ兵士だけある」
計画は順調である。既にK70星雲一帯には、自身の率いる革命勢力の一派がシンディー達が警戒網に開けた穴から入って工作へと散っている。
「あとはカミラ博士の身柄だ」
そう呟いた矢先だった。K70星雲に展開している部隊から緊急の通信が入った。何と艦隊がこちらへと向かっているというのである。
「艦隊司令部は、既に籠絡済みのはずだ。一体、どの勢力のものだ?」
尋ねるデイモンに無線相手は、伝えた。
「ドーラセブンの私兵艦隊のようです」
「私兵艦隊……」
多星籍企業であるドーラセブンは、もはや自身で軍隊を持つほどになっている。その虎の子の私兵艦隊を動かして来たという事実にデイモンは驚いた。
「これはあの社長……ではなく、重役のゴードンの仕業か」
デイモンは、ドーラセブンが代替わりしたばかりの社長に力はなく、傀儡であり、実質的にはゴードンが支配していることを知っている。
「奴めが率いているとなるとドーラセブンも侮れん」
私兵艦隊とはいえ、その戦力はデイモンの革命勢力をわずかに上回る。すぐさまデイモンは部下達に伝令を下した。展開している部隊の計画に修正を加え、その私兵艦隊を牽制する動きに出たのである。
「場合によっては、一戦交えん」
デイモンは、堅く口を結んだ。
「デイモン達がドーラセブンと一触即発の事態に陥っただって?」
聞き返すシンディーにジャスティンは、答えた。
『このままだとお互い牽制し合って動けそうにないね』
「よし、チャンスだ」
シンディーが目を光らせた。
「艦隊が動けない今のうちに、チャド一族からカミラ博士を奪還してしまおうぜ。アルフ!」
「了解」
アルフとシンディーは、すぐさまコクピットに乗り込むと宇宙船のエンジンをふかし始めた。計器類を指で弾きながらシンディーは、ニンマリ笑った。
「チャドの奴ら、積年の恨みをここで果たしてやる」
思えば、彼らには随分と仕事の邪魔をさせられた。その鬱憤を一気に晴らすつもりだった。
「アルフ、奴らはどこだ?」
「キーラ星近辺の宇宙港に停泊しているようだ」
「よし、一気に強襲して奴らに一泡吹かせてやろう。ジャスティン!」
『分かってるよ』
ジャスティンは、シンディーの合図とともにこの一帯のサイバー空間へと解き放たれて行った。そして、辺りの通信網を難なくすり抜けチャド宇宙船の端末に侵入するやその全ての電子機能をジャックした。チャド一族は大混乱だ。
「チャドのアニキ、宇宙船の機器がうんともすんとも言わないでさぁ」
「シャド、キャド、何とかしろ!」
「へい」
三人は、必死に計器類を弄るものの反応はない。そんなてんやわんやの船内が突如、真っ暗になった。
「何だ!?」
と、宇宙船が物凄い衝撃に揺さぶられた。何かが船体にぶつかったようだ。さらに宇宙船のハッチがこじ開けられ、外からシンディーが転がり込んできた。
「あっ!」
「お、お前は!」
「シンディー!」
驚き慄く三人にシンディーは、銃口を突きつけ牽制しながら言った。
「久しぶりだな。チャド、キャド、シャド。動くなよ」
シンディーは、三人の身柄を拘束するとカミラの身を引き寄せた。
「あんたがカミラ博士かい?」
「そ、そうよ。あなたは?」
「通りすがりの白馬の紳士ってところかな」
シンディーは、チャド達に言った。
「悪いな。チャド、カミラ博士はうちらが頂くぜ」
それを見た三人は、驚き喚いた。
「そんなことをしてただで済むと思うのかシンディー」
「そうだ。すぐさま艦隊司令部がここに艦隊を派遣して貴様を……」
だが、シンディーは、三人の脅し文句にも動じない。
「その艦隊は今、動けないんだよ」
「何だと!?」
思わぬ事実を突き付けられ動揺する三人を尻目にシンディーは、カミラを引き連れて、自身の宇宙船に帰って行った。残されたチャド達は、歯軋りしきりである。
「おのれシンディー、覚えておれ」
チャドの遠吠えが宇宙船内に虚しくこだました。