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21 -ドラゴンの財(SFな機械)

大変長くお待たせしました。

 森の中で一匹の狼が耳を上げた。狼がその方向を見ると、そちらの方向からは砂ぼこりが立ち上っている。普通の狼なら慌てて逃げそうなものだが、このオオカミはさして気にも留めなかった。精々、近づくまいと思うだけだ。何せ、ただの狼ではない。弱いとは言え、知恵ある魔獣の一匹なのだから。

(ヒュドラの野郎、荒れてんなぁ……)

 家屋だと思われるものの破壊音が遠方に響く中、狼の魔獣が思うことはそれのみだった。主の機嫌が悪かろうがなんだろうが、狼は気にしない。彼らは殺されたくはないから従っているだけで、恩なんかは何一つないのだから。


『ええい忌まわしい! なんなのじゃ、あの「もどき」は!』

 狼が見ていた方向。旧ゴラ村跡地の中央部。そこでは辺りかまわず尻尾を叩きつけ、家屋の廃墟を破壊し続けるヒュドラの姿があった。舌をむき出しにし、蛇特有の、大きさゆえに低重音を出す声とともに3つの首が辺りかまわず威嚇音を出し、尻尾を叩きつける。そのせいで、ひと際大きな集会所以外は瓦礫の山と化していた。目を瞑ったまま、動かない首はまだあるが以前より1つ減っている。だというのに、ヒュドラは喜ぶ様子一つない。

『たかが獣如きが、妾の真似をしよった上に……邪魔ばかりしよって!』

 そのまま、首の一つが目を細めて牙をむき出しにし、ゴラ村からハーブル村の方を見た。最初は騎士団が派遣した何かとヒュドラは思っていた。ところが、空が飛べる眷属を使って情報を集めると魔獣ですらない獣だった。それも、あの村を支配下におき、生贄をとっているというではないか。

『それは妾が先にやっていたことだというのに!」

 ただの獣に真似され、獣のほうだけが上手く行く。それが、どれだけ腹立たしく感じたか! ヒュドラにはそれが我慢ならなかった。むしゃくしゃして、瓦礫の山になっているのにもかまわず、尻尾を叩きつけまくる。

「――! ―」

 眷属の内一人が「お静まり下さい!」と鳴き声を上げていたが、尻尾に叩き潰されてそのまま赤い染みになった。怒り心頭なヒュドラはそれに気づいた様子はない。

(それだけに飽き足らず――)

 分け前を頂戴しようと村に眷属を近寄らせると、その悉くが「この村はオレのものだ」と言わんばかりに撃ち殺され、狩られ。ならばと街道を眷属にしたオーガの群れを使って封鎖するも「それが何の障害になろうか」と言わんばかりに一蹴された。ヒュドラは思う。

(やることなすこと、邪魔ばかりではないか! それも……魔素を大して持っていない獣の分際で!)

 その怒りで尻尾が強く振られ、村の廃墟のうちもっとも大きな……村の集会所が倒壊した。ヒュドラを覆い隠すほどの土煙が辺りに舞い、視界が悪くなるもその土煙には6対12の赤い光が見えたままだ。

「こうなれば……」

 直接手を下しに行くか。一瞬そう考えたものの、ヒュドラの脳裏に自らをかつて追い立てた騎士の姿が浮かんだ。

(直接は、またあのウロコの人間が来ないとも限らないのよな……)

 いくら「あの」能力を手に入れたとは言え、万全でない状態で行くのは流石にまずい。ふとその時、餌共の水場が目に入った。

(……この手で行こうかの)

 幸い、この辺りや川の上流はまだ妾の縄張り。ならば、いやがらせ……あわよくばあの獣を苦しませて殺すことも可能じゃろう。ヒュドラはそう思い、久方ぶりにゴラ村の中央から動き出す。妾の毒にかかれば、例え上位の魔物であろうとも、苦しまずにはおれぬ……そう思い込みながら。そして、遥か上空からその様子を事細かに録画されているだと、ヒュドラには知る由もない。



「これは……少々面倒なことになりましたね」

 私は衛星からの映像を見て、抑揚なくつぶやきました。あんな現地生物、正直言えば知性を持った非人間型の敵対的行動サンプルとしての価値しかなかったのですが。映像の現地生物は川に頭の一つをつけたまま、しばらく動いていません。

(おそらくは毒、でしょうね)

 衛星を通し、毒が流されている川の下流の方へ(カメラアイ)を凝らすと魚が腹を仰向けにして浮いていました。よく見れば(ズームすれば)時折、尾ビレをバタ付かせる個体がいます。ですが……その尾びれが既に腐り始めて居ます。おそらくは腐食毒、といったところでしょうか。もう腐り始めているところを見ると即効性もあるのでしょう。ナノマシンのあるドライグ様には並大抵の毒は効きませんが――

(現地の人型生物に被害が出かねませんね)

 ドライグ様はここ最近、人型現地生物の出す料理にご執心です。あれらが毒で倒れたとなればまた脳波が乱れることになりかねません。ナノマシンで抑制できるからといっても、それがないことに越したことはありません。

「対応行動としては――」

 まずは身体のうち一つで村の井戸近くに向かうとしましょう。少なくとも対処完了までは井戸は封鎖する必要があります。次は……ドライグ様を起こしましょうか。

「ドライグ様、起きてください」

 ですが、音声だけでは起きる様子は見せません。不規則な寝息を立て、脳波が少し乱れているようです……悪いシミュレーションでも行っているのでしょうか。普段なら自然覚醒まで待機するところですが、早急の事態ではありますので起きてもらいましょう。

「――」

 機械語でナノマシンに命令を飛ばします。命令は単純、ドライグ様の意識を強制的に覚醒状態にするだけ。宇宙では即座に対応が必要な場合はこれで皆起きてもらうので、問題は存在しません。ドライグ様は凄い勢いで頭を持ち上げ――あ、コンテナにぶつけました。

『あたたた……』

 ドライグ様が頭を下にして量の前足で頭頂部を抑え、うずくまっています。ぶつけた衝撃でコンテナも凹んでいるようです。当たり処が悪かったのでしょうか? あれは要修理ですね……緩衝材の層があるはずなので中身には影響ないでしょうが。まぁ、いい痛覚信号が送られるので目覚ましには丁度良いということにしましょう。

「お眠りの所失礼します。ドライグ様、早急の報告があります」

 ドライグは頭を押さえながら『どうした? 矮小なる者共でも攻めてきたか?』と聞いてきます。私はドライグ様に映像データ通信を送りながら、画面上の表情を欠片も動かさずに答えます。

「いえ、違います。只今映像を送りましたが、ヒュドラが行動を開始しました、毒性物質を水源に流しているようです。このままだとドライグ様の村に被害がでますが、如何いたしましょうか?」

 私はそれに付け加えて「許可さえ下りれば本船からのミサイル攻撃で殲滅しますが」と進言します。ドライグ様はその進言に対して顔を横に振りました。

『そこまでせずとも良い。第一、我の出番がなくなるではないか』

 映像を見ながらドライグ様は手を考えているようです。一番早いのは原因となる者の排除なのですが……許可が下りない以上、仕方ありません。

『まずは水への対処だな。水質浄化装置と――あとは村の井戸か。水生成装置はあるな?』

 私は「ございます、貨物ポッドの3番に入れています」と答えました。宇宙で遭難した時に備え、船には水を空気から得るための限定装置がありますので、当然です。なければ義務違反です。

『井戸を使用停止にして、暫くはそれで我慢してもらう。水質浄化装置は――設計データはあるな。数日以内に作成可能か?』

 私は瞬時にシミュレーションデータを走らせます。本来は水生成装置の大型版で済ませますので、旧世代の装置ではありますが……問題ないでしょう。装置そのものが少々大きいため、輸送に手間はかかりますが宇宙で組み立てて近くに落とせば問題ありませんし。

「可能です。実行しますか?」

 ドライグ様は立ち上がり、背後の貨物コンテナを漁りながら、答えました。『片づけてなかったからな……3番はどれだっけ』と呟いていたのは聞いていないことにします。

『許可する。あと、探査機をこちらに向かわせよ。生成装置を運ばねばならんのでな』

 私は『了解しました』と返答を行い、一旦通信を切りました。さて、あっちの身体――再構成機でデータを読み込んで……おっと、村人が井戸を利用するために来たようですね。こちらも止めなければ。私はプロセスの内一つを現在作業に割り当て、地上の身体に意識を切り替えました。


「何故井戸が使えないのです、眷属ぶるむつー様!」

 井戸の前では村人数人が私は詰め寄っていました。予備の水がめくらいないのでしょうか? 私は端的に「ドライグ様から『井戸の利用を禁ずる』という通達がありましたので」と何度繰り返したか分からない答えを繰り返します。

「だからその理由を教えてくださいと言っているんです! 井戸がないと我々は村を捨てるしかなくなってしまう!」

 想定した以上の大ごとですね。資料には中世では水瓶を用意しているため、すぐには大事ないとあったのですが。そうしている間にも村人は増えていきます。

「どうおっしゃられてもドライグ様の命令ですので。しばらくしたらドライグ様が来られますのでその時に直訴してください」

 ヒュドラの仕業だと言った方がよかったのではないでしょうか、ドライグ様。私は処理の裏側でそう愚痴ります。口止めをしたものもドライグ様でしたし。こうなれば、実力行使も視野に――おっと、通信が来たようですね。

『リラ、そろそろ情報を解禁する。程々に人も集まったようだからな』

 人を集めたいなら別の方法を使えばいいでしょうに。私はそう思いながらも表情を……といってもここまででも動かしているのは口だけなのでそこ以外は動かしておりませんが、事務的に答えます。念のため、武装をオンラインにしておきましょう、実力行使が必要な可能性もありますし。

「説明の許可が降りました。上流にてヒュドラが毒を流し始めたため、だそうです」

 それを聞いた瞬間、全員が井戸から距離をとりはじめました。近くにいるだけで気化した毒を吸う心配はないはずなのですが……以前の襲撃時にも近いことがあったのでしょうか。これはまた情報を仕入れる必要がありますね。

「そのような方法で……。くそっ、ヒュドラめ。我々をまた弄ぶつもりか!」

 村人が憤り、下を向いて拳を強く握っています……あ、血が。強く握りすぎではないでしょうか。その中で、突然村人の一人が私に土下座を敢行しました。詰め寄ったことを謝るつもりなのでしょうか?

「眷属ぶるむつー様、どうにかなりませんか? 我々には、他に行くところがないのです!」

 違ったようです。周りから「おねがいします」という言葉が連呼され、土下座する人数が増えています。この世界にも土下座の風習があるのですね、これはまた一ついいデータが得られました。しかし、必死ですね……他にも人型現地生物はいるでしょうに。私は「ドラゴン様が何か対処するとおっしゃっていたので暫く――」と説明していたところに遠方に赤い影がありました。背後に光学迷彩の反応もあります。来たようですね……運ぶだけで何故光学迷彩をつけているのかは気になるところですが。

「皆様、場所を開けてください。ドライグ様がいらっしゃいました」

 村人が「え、どこ!?」と空を見渡し、いつもの人間詐称者……銀髪の少女が指をさして「あれじゃないかしら?」と声を出します。あなたはもっと前から気づいていたでしょうに。ですが、その言葉を聞いて、赤い影を見て、村人が慌てて場所を開けます。

「ふむ、ご苦労」

 わざとらしくドライグ様が家が軽く揺れるような音を立てて着地します……あ、振動で壁一面にあった薪が前に崩れました。辺りに散乱する様子を見て村人の一人が露骨に顔色を変えましたが、大した損害ではないので気にしないことにしましょう。

「……」

 器用に縄と取り、その先についているバケツを井戸の底に下ろします。ん、毒だと分かっているはずですよね?

『ドライグ様、先ほどまで許可を出されなかったこともそうですが、そのようなことをなされなくてもいいのでは?』

 ドライグ様は一瞬だけ顔をこちらに向けます。そして、少し牙を見せ、邪悪に笑っている様を見せつけてきました。

『なぁに、こういうのには演出というものが必要なんだよ』

 通信だけでそういう答えをします。それならば前にした映像で十分ではないでしょうか? そう進言するも、少し苦々しい表情を浮かべて作業を続けます。……あれは「すっかり忘れてた」って顔ですね。

「ふむ、まだ影響は出ていないか」

 ドライグ様がどこから……いや、あれは捕まえてきましたね。小さな鳥型の魔獣をバケツに放り込んでいます。溺れているようではありますが……腐る様子はないのでここまではまだ届いていないでしょう。さすがに今朝の出来事で、その後すぐに来たので当たり前ではありますが。

「ドラゴン様、何を――

「黙って見ておれ」

 そのままドライグ様は言葉を紡ぐようです。上には既に探査機と、水生成器が光学迷彩をかけて待機しているのでやることは明白ですが。ドライグ様はこういう時、何かとかっこつけたがるのが非効率的ですね。私にはまだ理解しきれません、以前のドライグ様はこうではなかったはずなのですが。

「我が持ちし装――ゴホン、我が持ちし財よ、いでよ!」

 その言葉と共にドライグ様の脳波操作により、水生成装置のステルスが解除され、探査機が固定アームを外しました。その場に青と水色の四角形が折り重なった形状をした装置が井戸の傍に物凄く重々しい音を立てて落ちました。大きさとしては2m四方の正方形、でしょうか。確か太平洋連邦、美津郭(みつかど)重工製の水生成装置ですね。

「ドラゴン様、これは……?」

 村人の一人が聞きます。ドライグ様は尻尾でこっそりホースを井戸の中に下ろしながら回答するようです。

「これは我が財の一つ、空気から水を生成する装――魔道具である。その機能以外にも、水を浄化し飲用軟水……生活に適した水にする力も備えておる」

 矮小なる者たちにはこれをしばし貸し与える。ドライグ様はそう宣言しました。周りの人は事態を飲み込めずに呆然としていますし、人間詐称の人は「まーた魔法じゃないし……何処から出したのよ、アレ」と半目で見つめながら呟いている。光学迷彩くらい見抜けなくてよくやっていけますね。

「説明はブルム2、任せる」

 あ、ドライグ様、こちらに説明丸投げしましたね? そのまま村の入り口に行くようです、何をするつもりなのでしょうか……? 私はそのまま前に出て「この財の使い方を説明します」と解説を開始しようとしました。

「あ、そうそう。矮小なるものたちよ。盗もうと考えるでないぞ? その装置は小さな太陽をエネルギー源としておる。それが暴走したら、村が一瞬で消えるでな。まぁ――」

――やったら最後。我がゆっくりと調理してやるから、その覚悟があるのならやるが良い。挑戦として受け取ろう。

 あ、爆弾投げましたね、ドライグ様。私が初めて表情をゆがめて少し牙を見せ、あの人間詐称と同じように半目でそのドヤ顔を睨みつけるとそっと、その顔を逸らしました。まったく、あの人は。まぁ、あまりに完璧すぎたら私のいる価値がなくなってしまうので良いのですがね。その方が、仕える価値があるのでよいのですが。これが与えられた意義だとしても、今が良ければそれで良いのです。

次回更新は8月25日予定です。よろしければ、感想・評価などおねがいします。

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