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20 -こんな行商はおかしいよ

 最初の問題が発覚したのは、あれから少し……1週間ほど経ってからのことだった。辺りを飛んで散策していると、リラから通信がはいる。

「リラよ、何用だ?」

 船か装備の絡みか、それとも村関連か。後者だとしたら面倒この上ないな、まだ一週間程度ではないか。続いてリラは「ブルム3からの通信」と言っていたので、おそらくは後者だろう。また動物の群れにでも襲われたのか? 隣の蛇如きが、しつこいな……そう思っていたのだが。

『村の者より「行商に行きたいのでその相談をしたいのですか」と伝言あり。当機に権限無しのため、「権限を持つブルム1か2に尋ねてください」と返答。対応求む』

 ブルム3からの報告なので感情も何もなく端的だ。しかし、行商に行きたいと? そんなの勝手にすれば良いではないか。逃げ出すならば、相応の対応をするまでよ。そう思いながらも近場に降り立ち、間接操作を実行する。この際にブルム2に行くならばリラに対応を任せてしまおうと思ったのだが、来たのはブルム1のところだった。

「矮小なる者の長か? 何用だ?」

 ウィンドウ越し……とはいっても向こうの者にとってはブルム1が話しているように見えるだろう。脳波パターンから感情もエミュレートできる関係上、まさか遠隔操作とは思うまい。中身が同一だとはバレていないように見えるしな。

「眷属ぶるむわん様。どうか行商に行く手続きをお願いできませんか?」

 どうも「ブルム1」が名前と取られているようだ。ちゃんと名乗った方がいいだろうか……いや、他の眷属がそう言ってしまった以上、やめておいたほうが良かろう。未だに今の我の声とは違う声が出て違和感増しましだが、肩をすくめて元々用意してあった答えを出す。

「そのくらい、わざわざドライグ様に許可を求めずとも行けばよいではないか。ドライグ様もそれで咎めはせぬ」

 流石に目では確認できんが……向こうも肩をすくめて、半目で呆れたような表情を出したことだろう。だが、事はそう簡単にはいかないようだった。

「私達で行ければ行くのですが……」

 話を聞くとこうだ。普段ならこういう時、狩人だけでなく冒険者を雇っていくのだそうだ。その際、村に駐在している騎士にお願いするらしいのだが……。

「村にいた騎士様は「所用がある」と言って出かけられて以来、戻っておりません。代わりの騎士様も来られませんし、今はこのような状況。来るかどうかは怪しいところです……」

 だからこそ、街に冒険者を呼ぶこともできずそもそも我が居る場所に手を出そうとする奴らもおらぬ、と。命知らずが時折おりそうなものだがな……。いや、そういう奴らは村に寄らぬのか。

「ですので、お手数ですがどうにか冒険者辺りとコンタクトはとれぬでしょうか? 無理に、とは言いづらいのですが何分、村の食料……特に塩が心ともなくて」

 ふむ……上空から探して奇襲のような形でお願いすればとれなくはないだろうが、確実性はないな。裏切らない保証もない……ならば、やることは一つか。手間な上にちゃんと行商できるかは怪しいが。

「ふむ……ドライグ様の許可が取れれば我ら眷属がやっても良いが……冒険者を探した方が良いか?」

 村長は考えることなく「やってもらえるならば助かりますが……よろしいので? 畏れ多くて頼みます、とは言えませぬが……」と言葉を出す。。まぁ、その方が手間がかからぬし――

(堂々と情報収集できる、と考えればメリットよな)

 最悪、失敗しても我の方で用意できなくはない。手間だからあまりやりたくはないがな。他にも例のレールガンで狙われたら流石に危ないが……事前に警戒しておけば問題なかろう。

「ドライグ様の判断を仰いでからにはなるがな。後ほど連絡する故、少し待つが良い」

 まぁ、実際にはもう既にOKでているわけだけど。村長は「はい」と声を出し、その場を後にした。さて、次はどれを連れていくかだが……。画面には表示しつつ、脳波による同期を切り、リラに通信を開く。

「リラ、聞いていたな」

『もちろんです、ドライグ様』

 安心した。しかし、今いる数は10機。内、ブルム5とドレイク5は巣の警備だから実質8機。そこからとなると……。我は前爪で顎のあたりを掻きながら、リラに聞く。

「派遣戦力はどの程度がいいと推定する?」

『周囲の魔物レベルから推察するにドレイクタイプを1機とブルムタイプを2機でよろしいかと。それに、これで不足としても近隣の現住種族住居密集地帯までとなれば、最悪ドレイクタイプなら到着にさほど時間を要しません』

 となると、守りとして残るのはブルムタイプ2機――リラ機と我の機体で、後はドレイクタイプが3機か。我は思索する。現状あり得る最大の敵勢力がこの前のスタンピード。もし、あれが来たとして大丈夫な戦力なのだろうか? 

『いるにせよいないにせよ、あれが来た場合はドライグ様が来るまでの時間稼ぎ程度になるだけです。問題ありません。最悪、本船から支援射撃を行いますので』

 ……待て。それは本当に大丈夫か? 粒子砲は積んでいないから、レーザー砲にはなるが……ミサイルなんて撃ったら普通に焦土だぞ。だが、リラからの返答はない。思考は読めるだろうから、わかっていそうなものだが……やれやれ。こんなにリラは過激だったか?

「……どうしてもという場合以外は惑星爆撃は行うな。最悪でも船にまだいる戦闘ロボットの出撃にしておいてくれ」

『了解しました、ドライグ様』

 先が思いやられる……それをやってしまってはドラゴンの凄みが薄れてしまうではないか。自重なくやれば我が運ぶかドレイクタイプに運ばせれば良いのだが……ドラゴンがそこまで手間をかけてしまっては矮小なる者共が甘えきってしまうだろうからな。我も面倒故、そこまでは避けたい。向こうが交易を断らねば良いのだがな……。

(まぁ、最悪は力に訴えるとしよう。それでもドラゴンらしくはある)

 矮小なる者よ。そこまでの愚は侵すなよ? 我は衛星映像で見た街のある方向に向けて、そう思っていた。

『ドライグ様、現住種族住居密集地帯はその視線から方位西へ35度ほど外れています』

 リラよ、細かいことまで気にするでない。居心地の悪さを感じながら、我は両の前足をだらんと下げてため息を目を瞑って吐いた。



「こんなのを気軽に狩るんだから、ほんとドラゴンっておっそろしいなぁ……」

 おいらは目の前に積み上げられた――BランクかCランクの魔獣素材を見て、感嘆の息を吐いていた。人族の子供くらいしか背丈がないこともあり、その威容は――あのドラゴン程とは言わなくても圧巻の一言に尽きる。

(売りさばけるかは微妙だけど、看板としては十分か)

 信用がないから、売れるかどうかは……いや、売れはするか。捨て値だろうけど。おいらはそう思いながら、頭の中のそろばんを弾く。元々、おいらは小人族の商人だ。店はもうなくなってしまったけれど……商人としてのノウハウはある。だから、おいらは冬の少し前には行商を頼まれていたし、ある種喜んで引き受けていた。まさか、こんな大商いを請け負うとは思わなかったけど。

「護衛は少ないけれど……」

 こんな素材であれば、正直なところ冒険者が2パーティ、それに加えて傭兵団が欲しい。ただ、冒険者は今の状況で村まで来るかは微妙だし、傭兵はどっちかというと相手側だろう。なんせ――ドラゴンの支配下だからね、ここ。実際、護衛兼監視として居るのは眷属だという蜥蜴族に似た人が二人と魔獣が一匹。それだけだ。とはいえ、あのドラゴンの眷属だ。ただの蜥蜴族と魔獣じゃないだろうなぁ。もっとも――

(蜥蜴族も御伽噺に出てくるだけで、実際に見たことはないけどね)

 昔居た――魔王、だったかな? その関連の御伽噺に配下として出てくるくらい。だから、ほんとに蜥蜴族なのかは知らないんだよね。蜥蜴というには翼ついてるけど、実際についてたかついてなかったかもわかんないし。

(ただ――)

 今回は一部、メンバーの指名があった。一人はゴラ村から逃げてきた奴。いい加減、追い出せとのこと。もう一人は――

「なんでオレがこんなことを……」

 何もせず御者席で愚痴っているトム。村長の代わりとして村がドラゴンの支配下に入ったと伝える。そういう役割らしい。しかし、それなら村長でも村人でも良かっただろうに何故こいつ? おいら、あいつがトラブルを引き起こす未来が予測できるんだけど……。あとは、村人が一人いるくらい。だから、全体としては6名と2匹ってことになるのかなぁ? あ、一匹は村のロバね。あの子いないと荷車引けないし。

(もっとも……蜥蜴族の人は人と数えればいいのか、魔獣と考えればいいのかよくわかんないけど)

 安全を取りたいとは思う。けどね、今動かなきゃ、全てが運任せになっちゃう。それだけはどうしても避けたいんだよね。確かにこの開拓村ははあぶれ者が追い出されるようにしてできた村なんだけど――。

(開拓者精神が、ないわけじゃないし)

 伊達に最悪の運から云十の開拓村の中で唯一生き残ったわけじゃない。なぁに、盗賊も魔獣も、ドラゴンやヒュドラに比べればマシさ。ドラゴンにいたっては今は、という注釈がついても味方だしね。おいらは小さな手で頬をパチンと叩くと、商品の取りまとめに集中することにした。ちなみにゴラ村の人は手伝ってくれるけど、トムは駄々こねてただけだった。いつから貴族になったの、あの子。もうちょっと勤勉だったはずなんだけどなぁ……。


「傭兵団も冒険者もいらなかったよ……」

 出発前の発言、撤回だよ。おいらは乾いた笑いを浮かべながら、目の前の惨情を見ていた。いや、ここに来るまでも酷かった。今はスタンピードの影響か、魔獣が活発化しているんだと思う。普通なら村に逃げかえるところなんだけど――

「Glーー」

 最初に出会った狼。アサシンウルフといって、Cランクの魔獣。確か、コートにすると魔獣の残り香で、ぼやけて見えるようになって旅にオススメって奴。だから、こいつはその能力を持っているんだけど……。

「害獣発見、排除」

 宣言するなり、突然として蜥蜴族の二人からボウガンのような魔道具が展開されて、森を撃ちまくっていた。最初、魔獣も見えなかったから何事かと思った。この後も何度かあって、おいらはそのたびにびっくりする羽目になった。その時、味方の魔獣も翼をしきりに光らせていたとおもう。何の魔物を狩ったのと聞けば、「名称不明。対象物はこれです」と出してきた。見に行くとそれが10は死んでた。

「Fuーー」

 次にであった巨人。オーガ、だったと思う。群れないはずなんだけど、それ6体か7体……道に陣取っていた。道中に出会った魔獣で、ちゃんと生きている容姿を見れた唯一の集団だったと思う。

「障害物発見、撤去」

 蜥蜴族の一人がそのまま向かっていって、短剣だと思ってた魔道具から刃が出てそれをバラバラにしてしまった。そして路傍の石のように脇に放り捨てて「撤去完了、そのまま進攻を推奨」とこっちに言って、何事もなかったかのように護衛へ戻った。ちなみにこん棒は振り上げてたけど、遅すぎて話にならず。振り上げた時には真っ二つだった。

「おi――」

 そして今は盗賊。割といい装備はしていたように思う。というか……何か討伐団の紋章をつけていたような。それも20人くらい。

「武装勢力発見、敵対意思確認。鎮圧開始」

 護衛に蜥蜴族一人を残し、突貫してしまった。ただ、矢も槍も剣もあのウロコに阻まれ通じず、武器をバラバラにされていたように思う。木の上から矢を撃っていた奴らも居たように思うが……木ごと倒されてた。木ごとってなんだよ、木ごとって。ちなみに戻ってきた時にウロコには傷一つなかったように思う。

「捕縛完了。対処を推奨」

 対処をって、おいらにどうしろってんだよ……。彼ら、顔が蜥蜴だから表情があんまり読めないし……なんとか読もうとしたけど口が欠片も動かない。道中だって表情を動かさないし……。

「とりあえず、あいつらが壁にしていた馬車にでも放り込んで街についた時に通報かな?」

 そう言うも、蜥蜴族の人は無表情……なのかな? そのまま端的に「非効率」と言われた。いや、推奨っていったの君たちでしょ。指摘する前に、続けて彼らが言葉を続ける。

「馬車毎連行した方が効率的。許可が下りれば行います」

 あいつらが持っていたのは二頭立ての馬車だよ? ロバ一匹じゃ引けないっての。そう思いながらも「可能ならそうするところだけど……」と言葉を濁した。三人くらいでやって、ようやくだろうし。苦労するだけだよ、それなら騎士団に任せたほうが言い。だけど、蜥蜴族の人は馬車の馬を引くところに手をかけた。

「可能です」

 蜥蜴族の一人がそのまま引っ張る。すると、相当重い馬車なのに、まるで猫車のごとく、手軽に動いていた。……嘘でしょ?

「このまま、連行を推奨。ドライグ様の許可は下りています、行いますか?」

 ぇー。ってか、いつ連絡取ったの? おいらはただただ呆れるしかなかった。普段、魔獣相手に冒険者とはキズだらけだったんだけどなぁ……。おいらは「できるのなら、お願いするよ」と許可とやらを出しながら、改めて眷属の異常さを思い知っていた。ただでさえ、道中寝た様子もなかったし、食事はと聞いたら「ドライグ様からのエネルギーで賄っているため、不要です」と返すし……。

(街についた時に騎士団返り討ちにしないよね……?)

 行商に来ているのだから、それだけはやめてほしいけど。ちょっと不安になりながらも、おいらは先を急いだ。ちなみに、ゴラ村の人はずっと呆然としていたし……トムはずっとムスっとしていた。ただ、おいらはあの盗賊にかけよろうと一歩踏み出したのを見たのは、忘れないでおこうと思う。こんなんで、使者が務まるのかねぇ? ホント。

 ついでに言っておくと、馬車を引っ張っている蜥蜴族の人は最後まで疲れを見せず平然としていた。むしろ表情を変えなかった。ドラゴンの眷属ってほんと、恐ろしいなぁ。これから先、おいら達を見放さないことを祈るばかりだよ。


次の更新予定は8月4日となっております。よろしければ、感想・評価などおねがいします。


8月1日追記

申し訳ありません、都合により更新を1週間延期させていただきます。

次回更新は8月11日にさせていただきます。

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