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サポーターは目立たない  作者: 総督琉
サポーターの苦悩、始まります
6/9

クエスト 1

 サポーターの苦悩。

 他のパーティーは違うのかもしれないが、私たちのパーティーでクエストを選んでくるのは基本(サポーター)である。


 クエストとは、依頼者がギルドに申請を出し、報酬や依頼内容を伝えることで初めて成立する。

 難易度は様々で、釣りや農作業など専門職を必要とするものやモンスターの討伐を依頼するもの、特定の物品の採集を要請するものなどがある。


 今までダンジョンしか行っていなかった私にとって、クエストカウンターは未知の領域。

 異世界に初めて来た時に味わった恐怖心があったものの、いざ足を進める。


「よし。行こう」


 クエストの一覧が見れる場所はギルド本部の一階にある。

 驚くことに、ギルド本部は十三階建てで巨大な大きさを持つ。一階一階が非常に大きく、ギルド街では最大の建築物である。


 一階はギルドが運営する酒場、案内所、掲示板、踊り場、換金所などがある。

 二階はクエストカウンターがあり、無数のクエストを見ることができる。

 三階はギルドが運営するショップが幾つもあり、突き抜けの三層となっている。

 武器や防具、魔法道具や食料などが幅広く揃っている。


 四階には娯楽施設、五階には図書館と、ギルド本部には様々な施設が点在している。

 冒険者はここを拠点にダンジョンへ挑むのだという。


「相変わらず異世界は規模が違うな」


 常に開きっぱなしになっている入り口を通って中へ入る。

 正面には案内所、左右に酒場や踊り場などがある。


 一階には千人ほどの冒険者がいると思われるが、簡単に収まってしまう広さ。天井も十メートルは余裕であり、巨人族だって入れてしまうほど。


「ってか、二階に行かなきゃだっけ」


 酒場ではしゃぐ冒険者の姿を羨ましいと思っていた。

 私たちのパーティーとは正反対。


 彼らの姿を横目にし、長い階段を上って二階へ。

 二階には無数の板が並べられ、クエストに合う職業ごとに分類されている。


 冒険者を必要とするクエストは討伐や捕獲、護衛や指導など様々だ。


「討伐か……。さすがに今の私たちでは袋叩きだな」


 初心者歓迎遺跡(エレメンタリー)に生息するモンスターでさえまともに相手できない状況である。

 それ以外の場所でモンスターと戦えなど、拷問よりも恐ろしい。


 すると採集系か。

 だが鉱山や遠くの森へ行くほどの重労働はしたくないというのが本音だ。


「ってか全然冒険者らしくないじゃん」


 これだと異世界に来た意味がほぼないし、ってか魔法もまだ覚えられてないし、早く魔法使いたいし。

 異世界で色々やりたいことあり過ぎるのに、全部が全部ハードモードだよぉ。


 神様、何で初心者でも簡単に異世界を楽しめる方法はないんですか。

 私、泣きたいです。


 気付けば自分のネガティブに侵食されていた。

 クエスト探しは二の次になっていた。


 救世主が現れないか、とぼんやりと思っていたところ、まるで神の差し金のように彼女は現れた。


「お久しぶりですね。式凪様」


(いぬい)さん。久しぶりです」


 以前私たちのパーティーのアドバイザーをしてくれた乾さん。

 私たちが異世界に来てから数日だけ指導してくれた小さな恩人。


「今日はどうしたんですか?」


「クエストを探しに来たんですけど、色々ありすぎて迷っちゃいまして」


「では私が良いの見つけて来ましょうか?」


「良いんですか。マジ神」


 私は乾さんに全面の信頼を置いていた。

 そもそもギルドの職員になるには幾つもの試験を合格しなければならない。

 倍率は百倍では済まず、どれだけ優秀でも一発で入れる者はほぼいない。


 そのレッテルが、彼女が優秀である証拠。

 だから私は彼女を信頼し、きっと素晴らしいクエストを持ってきてくれると信じていた。


 二十分ほど待たされ、乾さんはクエスト内容が書かれた古文書の紙のようなものを持ってきた。

 クエスト名『ドキドキワクワク!!ウサギちゃん退治』


「もう三ヶ月も経ってるから、討伐系のクエストもこなせるよね?」


「ウサギちゃん……」


 なんて可愛いネーミング。一体誰が名付けたのだろう。

 名前からして高難易度のクエストではないだろう。

 恐らく小型モンスターの討伐。


 私たち弱小四人組(カルテット)でも倒せるに違いない。


「それでお願いします」


 私はクエスト名から先を見ず、そのクエストを引き受けることにした。



 私は煌星、氷雨、蛇木楽の四人であるダンジョンへ赴く。

 ダンジョン領域へ入って一時間、乾さんに案内されてしばらく進み続けた。


「あれ? 想像以上に遠いのか?」


 一時間も歩き続け、目的地へ到着する。


「着きましたよ。ラビットちゃんがいる場所へ」


 見た目は広い草原。

 障害物は大きな岩や木々が少しあるだけで、水平線のように周囲がはっきり見える。


「あなた方には、ここでラビットちゃんを討伐してもらいます。今回のクエストの内容は討伐、及びドロップアイテムの回収。依頼者はラビットちゃんの毛皮をご所望ですので、なるべく毛皮は傷つけずにお願いします」


 乾さんがクエスト内容を説明している。

 その間に、地響きが鳴り始めた。


 まさか……


「来たようです。ラビットちゃんです」


 乾さんが目を向けている場所には、私が想定していた小型の兎はどこにもいなかった。

 いるのは、十メートルはある巨体を持つ兎。

 眼は真っ赤に染まり、歩くだけで地響きが鳴る。


「乾さん」

「はい」


「あれが、ラビットちゃん?」

「はい」


「可愛い名前ですね」

「はい」


「その割に……ちょっとでかすぎないですか?」

「大丈夫ですよ。ラビットちゃんはある町ではマスコットキャラクターなんですから」


「いや、これは……」


 目の前にいたのはラビットちゃんなんて呼べるモンスターはいない。

 そこにいたのは正真正銘の化け物だ。


「凛々ちゃん、ちょっとヤバいね」


 氷雨は冷や汗を流し、小さな笑みを浮かべながらラビットちゃんを凝視していた。

 煌星や蛇木楽は、勝てないと確信しているからか一歩一歩後退していた。


「ねえ式凪、末代まで恨むよ」


「私も私を恨んでる」


 固唾を飲む。

 だがモンスターは待ってくれない。

 無慈悲にラビットちゃんは大きく跳び跳ね、私たち四人の中心に割って入る。


「逃げろ」


 私たちはそれぞれ四散して逃げる。

 ラビットちゃんは巨大な体躯と素早さを活かし、私たちを追い詰める。危機的状況の中、氷雨は笑いながら私の横を走っていた。


「ははっ、なんか面白いね」

「氷雨、笑える状況じゃないって」


「でも良いよねこういうの。なんか青春っぽくね」

「どこかだよ。もう春を迎えられないかもなんだけど」


「迎えられるよ。土でね」

「不謹慎だよ」


 氷雨は突然足を止めたかと思うと、ラビットちゃんに向かって走り出す。


 私たちのパーティーにあんなクレイジー子ちゃんがいたっけ!?


 さすがの奇行に他のメンバーも騒然としている。

 氷雨は振り下ろされるラビットちゃんの両腕をかわし、僅かな隙間がある股下そスライディングで通り抜けた。


「ええええええええ!?」


 破天荒すぎるよ。


「ふう、楽しかった」


 氷雨は満足げに仁王立ちしていた。

 ラビットちゃんは振り返り、氷雨をガン見していた。鋭い眼光にも臆すことなく、氷雨もラビットちゃんをガン見する。


「何の意地! さすがに死ぬって」


 ラビットちゃんの腕が振り下ろされ、氷雨へ直撃するーー僅か手前、ラビットちゃんの動きが止まった。

 動きが止まる直前、ラビットちゃんの背中には電気のようなエフェクトが見えた気がした。


「どうやら私のミスですね」


 乾さんの手にはスナイパーライフルが構えられ、銃口はラビットちゃんを指している。

 引き金が引かれ、弾丸が放たれる。命中したラビットちゃんの背中には、再び電撃のエフェクトが走る。

 ラビットちゃんは気を失ったように倒れた。


「つ、強ぇぇ」


 たった二発の弾丸であの化け物を沈めた。

 さすがは超倍率の突破者(アブノーマル)


「これは完全に私のミスです。報酬は十分の一差し上げますので、今回の事態はなかったことにしていただけますよね」


 不敵な笑みを浮かべ、乾さんは可愛らしい仕草で言った。

 私たちは皆静かに頷いた。

 従わなければ、弾丸によって命を奪われる、皆錯覚した。


「じゃあ帰りましょうな。式凪はん」


 お、おっかねえ。


 謎の威圧感に気圧され、私たちは黙り込んだ。


 私たちはこの日、銀貨一枚を受け取って家へと向かう。

 今日の冒険は私たちにトラウマを植えつけた。



「やっぱり冒険、したくねえ」

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