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サポーターは目立たない  作者: 総督琉
サポーターの苦悩、始まります
7/9

クエスト 2

 一度選び間違えたせいで強すぎるモンスターと戦わされたこともあるせいか、私のクエスト選びは慎重を極め始めた。

 その時は心配で駆けつけてくれた受付嬢が一人で討伐してくれた。

 おかげで命拾いしたが、もちろん報酬は十分の一しか貰えなかった。


 さて、どのクエストにしようか。

 展示板に貼られたたくさんのクエストを見て、決めかねていた。


 私の悩む姿を見て、彼女がーー厄災を呼ぶ者が現れた。


「式凪様、今日もクエストですか」


 受付嬢の乾さん。

 前回のクエストを選んできた者。

 当然クエストの内容を確認しなかった私にも非はあり、彼女にも私たちの強さを過大評価していた非もある。


「式凪様、今回はクエスト選び間違えないでくださいね」


「ははっ。前回みたいなことにはならないようにします」


「前回みたい? まだ忘れてなかったんですか」


 穏やかな口調のはずなのに、どこか神経をくすぐるような恐怖心を抱かせる喋り方。

 私は神経まで震え、乾さんに脅えていた。


 何この人、怖い。


「おたくは今回がクエスト初めてやんな」


「はい、初めてです」


 かしこまった言い方で言う。


「では私が選びましょうか」


「い、いえ……」


「あなた方のパーティーの強さは把握しております。それとも、私の受付嬢としての腕に疑いでもあるんでっか?」


 ミノタウロスのような狂暴な眼光を放たれ、本能が思わず否定した、。

 否定しないと、この世ではないどこかへ逝かされそうな気がしたから。


「そうですよね。私に任せてくだはれ」


「は、はい……」


 前回、狂暴なモンスターと戦った時以上の緊張感が走っていた。

 乾さんは目の前に入るはずなのに、背後にもう一人誰か居て、その者に刃物を突きつけられているような恐怖。


 この人、何者!?


「ではしばらくお待ちください」


 だが恐怖心が一瞬で消えた。

 彼女の感情のオンオフの切り替えが極端すぎる。

 先ほどまでの恐怖の権化はいなくなり、今目の前にいるのは優しい乾さん。


 あの恐怖は気のせいだったのか、と思わせるほどの二面性。


 待たされること十分、前回よりも速くクエストが書かれた紙を持ってきた。

 私は固唾を飲む。


「今回のクエストは初心者でも攻略できるものですよ」



 クエスト名『ぴょんぴょんの尻尾が欲しすぎて☆』

 報酬、金貨二枚

 依頼内容、星一上位モンスターである"ぴょんぴょん"の尻尾を十本集めよう



 全てのモンスターは星一から星十まで分類され、数字が増えていくほどに強くなる。

 つまり星一モンスターは最弱で、駆け出しの冒険者でも十分倒せるレベル。


 一つ気になるのは、星一モンスターを狩るにしてはやけに報酬が高い気もするが……


「ちなみにぴょんぴょんはどこにいるんですか?」


「ダンジョン領域にあるトランポリン平原です」


「変な名前。まあ簡単っぽさそうですし、それにします」


「分かりました。では目的地まで案内いたしましょう」


 私は一階の酒場で待機していた煌星、蛇木楽、氷雨を連れてトランポリン平原へと向かう。


「着きましたよ。トランポリン平原です」


 障害物のない平原。

 草がくるぶし辺りまで生えているだけで、周囲は快晴の空のようにはっきりと見える。


 平原の奥には巨大な山があり、頂上には真っ黒な雲が不気味さを醸し出し、漂っている。


「なんか、ヤバー」


「凛々ちゃん、今日は大丈夫なんだよね?」


「う、うん。多分大丈夫……」


 ギルド職員の彼女は優秀なはず。

 乾さんは二度も同じミスは繰り返さないと言っていたし、大丈夫なはず……。


「乾さーー」


「ぴょんぴょん狩り、しましょうか」


「は、はい」


 乾さんの圧に負け、私たち四人はトランポリン平原に足を踏み入れた。

 途端、足場が名前の通りトランポリンのような弾力が生まれ、その後反発する力によって宙へ吹き飛ばされた。


「り、凛々ちゃあああん」


 と言いながら氷雨も宙に投げ出されていた。


「ひ、氷雨ぇええええ」


 と言いながら蛇木楽も宙を舞う。


「皆ぁあああああ」


 と言いながら煌星は平原前でコケていた。


「何しとんねん」


 だが私、蛇木楽、氷雨の三人はトランポリンの地面に翻弄されていた。

 同じくトランポリン平原では、サッカーボールサイズの丸い体に尻尾が生えたモンスターが跳び跳ねている。


「あれがぴょんぴょんか」


 標的は目の前にいるにも関わらず、地面がブヨブヨしているせいで標的の近くまでたどり着けない。

 平原の外から遠距離で狙えればどれだけ楽か。だが私たちのパーティーに遠距離で戦える者はいない。


 諦めるしかない。


「このクエストは辞退しーー」


「ーーまだだ」


 蛇木楽が叫ぶ。

 トランポリン平原を上手く活かし、胴体サイズの盾を構えたままぴょんぴょんの近くまで飛んで近づく。


「あいつ、あんな才能が!」


 蛇木楽はぴょんぴょんの真上まで飛び上がり、盾を下に向けて構える。

 そのまま盾で押し潰すつもりだろう。


「行けええ、蛇木楽」


 パーティーの期待を一心に背負い、蛇木楽はぴょんぴょん目掛けて降下する。

 だがぴょんぴょんは尻尾を盾目掛けて振るい、蛇木楽の左方向へ大きく跳んだ。


「くそっ、逃がした」


「まだだ」


 ぴょんぴょんが逃げた先には私がいる。

 ぴょんぴょんが間近に来た瞬間、すかさずぴょんぴょんを抱き抱えた。


「よしっ。捕まえた」


 まずは一匹。

 残り九匹捕まえればクエスト達成。


 私はぴょんぴょんを抱えたままトランポリン平原を跳び跳ねながら脱出する。


「乾さん、捕まえました」


「この子は私がばっちり確保しておきますので安心してください」


 私は乾さんにぴょんぴょんを手渡す。

 乾さんにぴょんぴょんを渡したーーまさにその時、ぴょんぴょんは乾さんの手を尻尾で叩き、空高く舞って逃げていく。


「ーーえっ!?」

「ーーはっ!?」


 私と乾さんは顔を見合せ、静まり返る。

 静寂を破り、乾さんは言う。


「忘れてくれなければ、どうなるか分かりまへんよ」


「無理無理。今のは完全に無理無理」


「私、エリートなんです」


「は、はい?」


「経歴に泥は塗れません。ですので忘れてくれまはれ」


 乾さんからは笑顔ながらも、背筋を震わすような恐ろしさが感じられる。

 ーーと思っていたが、乾さん自身も自分の過ちに驚いているのか、あの恐怖心を促進させるオーラが全くない。


「乾さん、テンパってます?」


「それより式凪様、多分、今すぐ逃げなきゃ死にますよ」


 乾さんの視線をたどり、後ろを振り返る。

 トランポリン平原の奥にある巨大な山から、禍々しい漆黒の暗雲が降りてきている。とある龍とともに。


「凛々ちゃん、逃げるよ」


 氷雨はトランポリン平原を飛び出してダンジョン領域の出口へと走っていく。

 蛇木楽も煌星も、龍の恐ろしさに脅えている。


 体長三十メートルはあり、全身が漆黒の鎧に包まれている。眼は真っ赤に染まり、激しい鼻息で飛んでいる。


 煌星たちはすっかり遠くまで逃げている。


「式凪様、私たち二人、出遅れましたね」


 また二人で顔を見合せる。

 二人で轟々しい雄叫びが上がる方を向き、手を伸ばせば触れられる距離にいる龍と目が合う。


「式凪様」

「乾さん」


「「うわああああああああ」」


 二人で命懸けの徒競走が始まった。

 頭の中で運動会徒競走の時に流れる名曲が鳴るはずもなく、心臓がバクバクと鳴る鼓動だけが聞こえる。

 鼓動に混じり、龍の吐息が時々響く。


「乾さん、例のスナイパーライフルは?」

「ありまへん。今回は失敗しないと思ったさかいに」


「あんた方言的な喋り方と敬語の喋り方、何で二つあるんですか」

「敬語はお客様と接する時、普段は方言だからこういう時はでちまうの」


「何弁なの」

「オリジナルよ」

「オリジナル!?」


 奇天烈な会話を繰り広げる間にも、龍は走る私たちに迫っていた。


「湖があるよ」

「潜れと?」


「おおきに」


 龍の口が地面をえぐりながら近づいている。

 私と乾さんは叫びながら湖へ飛び込む。

 龍の口は空を切る。


 私と乾さんは二人で海の底へ沈んでいく。


「ばばばっばっばばばばば」


 叫んで飛び込んだせいか、開店直後の店のように口の中に水が続々と入ってくる。


「びぶびぶびぶびぶびぶびぶ」


 だずげで……


 意識が遠退く寸前、乾さんが私の手を掴む。


「水中呼吸付与」


 水が口の中に……と思ったが、突然口内の水が気体へ変わる気持ち悪い感触が走る。


 水中呼吸。

 口や鼻から飲み込んだ水を空気に変えることができる。

 おかげで水中でも呼吸が可能になる。


 長い間水中に隠れると、龍は遊び道具を失ったように子供のようにそっぽ向いて帰っていった。


 ようやく外の空気を吸える。

 湖を上がり、その場で横になる。


 水中でも呼吸はできるとはいえ、しばらくしないと慣れない気持ち悪さがあった。


「外の空気はやっぱうめえ」


 今日は一日中疲れた。


「乾さん、もうクエストはーー」


「次こそは良いクエストを見つけますので」


 難易度が低そうなクエストでも近くにあんなモンスターがいることもある。

 もし難しいクエストを受けてしまった時、乾さんがいた方がまだマシだ。


 私が選ぶ選択は一つ。


「……おおきに」





 ダンジョン領域を出て仲間と合流する。

 愚痴は吐きつつ、四人で家へと帰る。


 家に帰ると、一匹のモンスターが玄関前をうろうろしていた。

 私たちに気付くと、すぐに柱の後ろに隠れた。


「あれって……」


「うん。ぴょんぴょんだね」


 逃げたぴょんぴょんはどこへ行ったのかと心配になっていたが、まさか私の家に来るとは!


「皆、どうする?」


「私の答えは決まってるよ」


 氷雨はぴょんぴょんへ歩み寄り、手を差し伸ばす。

 最初、ぴょんぴょんは差し伸べられた手に脅えていたものの、ずっと手を差し伸べ続ける氷雨を信頼したのか、ぴょんと胸元へ飛び込んだ。


「名前はどうしよっか?」


 氷雨が聞く。


「ぴょん吉で」

「不採用」


「ぴょんぴょん吉」

「不採用」


「ぴょん丸」

「不採用。ってか名前安直過ぎ」


「じゃあ氷雨が決めてよ」


「初めから決めてるよ」


 氷雨はどや顔で言った。


「USAピョン」


「「「アウトだろ」」」



「じゃあうさピョンで」


「まあ……良いか」

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