2話:記憶の影
中央の机に、突然ピン、とネームプレート入力画面が現れた。それぞれが自分の名前を入力していくよう促される。
自然と皆はその不思議な机に向かい、大き目な椅子に腰を掛け、机にある小さいモニターへ、何の躊躇もなく「ジュン」と打ち込むと、机の縁にタレント番組のような光る名前札がスッと浮かび上がった。
「わぁ、すごい!もっと可愛い名前にすればよかったなぁ~」
俊が頬杖をつきながら、自分の名前を見て不満そうに呟く。ニヤニヤと関西弁で返ってくる。
「へへ、書いたもん勝ちやな~♪」
こいつは本名ではなくあだ名を入れたらしい、それでも受理されている。
次々と名前が並ぶ。
机の並びは真ん中を正面に向いて円のようになっており、俺から時計回りに
《ジュン》《ペー君》《俊》《よーすけ》《タクヤ》《猫川》《大雅》《悠也》
これだけ見れば本物のクイズ番組みたいだ!…俺は少しテンションがあがってしまった。これでクイズ王とか決めたり、おバカキャラを決めたりとか……するのか?
――そして全員が記入を終えた時。
ガシャン!
突然、各自の椅子が大きく揺れ、鋼鉄の拘束具が出現し、文字を打ち込んでいて無防備だった俺たちを手首、足首と首をギリ、と締め付けた。まるで、「お前らはここから逃がさない」とでも言うように。
「うへぇ……マジもんじゃん。手がこってるねー」 赤い短髪の大雅が軽口を叩きながら、拘束されたまま体を左右に揺らす。どこか他人事のように、まだ現実を信じ切っていない様子だった。
その瞬間、舞台中央のスクリーンノイズが不気味な揺れを止め、MCの姿が映し出された。
真っ白なスーツ、顔の一部がノイズで隠れていて、どこか不気味だが、声だけは異様に明るく響き渡る。
「ようこそ、記憶も運命も賭けたトークバトルショー!!嘘をついて人気を勝ち取るもよし! 嘘も涙も演技力も、すべて君たちの自由です!」
背後のライトがパッと点灯し、8つの席がステージの主役として浮かび上がった。
クイズ番組の出演者になった気分だが、拘束されている鉄の冷たさが、ワクワクを感じさせない。これから何をされるのか不安だけを感じる。
「ルールは簡単。毎ラウンドごとに、“視聴者が1人を脱落者を選ぶ”。残るか消えるかは、君たちの発言と魅せ方次第!」
「さあ、今から10分間!討論ターイム!時間は短い、頭を使って、心を揺さぶって、生き返りを賭けろッ!」
ジャジャン!と耳に残る効果音と共に、スタジオが一気に明るくなった。スポットライトが宙を横切り、まるで映画のワンシーンのような照明がメンバーを包み込む。
直後、モニターに映し出されたのは、視聴者のリアルタイムコメントだった。
『この番組好きなんだよな』
『早く早くw』
『まだ?』
『話はじめろよ』
――やっぱ、マジで、見られてる?
そう実感した瞬間、背筋に冷たい汗が這った。
「なんのドッキリだよ、これ!」
何人かがセットの壁や天井を睨みながら叫ぶ。だが応答はない。代わりに、画面にはこう表示されていた。
「ゲームセンターとかで遊んでたっけ?俺ら」
猫川が言うも、そんな記憶もないし、この知らないメンツで遊ぶ事なんかない。
「VRってわけでもなさそうだよなあ?感覚は普通にあるし…」
俺はベタに自分の頬を引っ張ってみるが、痛かった。悠也も夢なのか確かめに自分の手の甲をつねっている。そして不安げに両掌を見つめていた。
『今回の推しは誰にしようかな』
『日和るなって!』
『誰が最初に落ちるかな~?』
この空間は“見世物”で、俺たちはこの変な番組の本物の“出演者”なのか…?
「んで、視聴者に脱落者が決められて……そいつは、どうなるってわけ?」
俊がいつもの愛らしさを崩さずに、さらりと切り込む。 机に頬杖もつけない状態だからなのか、首をかしげてゆらりとアホ毛を揺らす。
誰もその問に答えず、MCもモニターから消えて、視聴者の文字だけになっていた。
沈黙の中、ある人物が小さく震えていた。 俯いたまま拘束された拳を強く握りしめる、先程端で震えていた悠也だ。
その姿をタクヤは横目で見つめるが、口には出さない。代わりに関西弁のペー君が、場を和ませるような調子で声をかける。
「なぁ、アンタ……何でそんなに震えてるん?脱落者がどーとかって、信じてるん?俺は実感ないからようわからへんけど」
悠也は何度か口を開こうとして閉じ、また開く。 「記憶が」
まるで言葉を絞り出すように、ぽつりと呟いた。
「記憶、記憶が出てくる、あ、お、俺………帰り、たく、ない」
一瞬、空気が止まった。
するとモニターから消えていたMCは、明るく入り込んでくる。
「おっとぉ、このゲームの醍醐味が来ました!既に死んでいる君たちは、一定の記憶を失っています。そして!! それぞれの記憶が少しずつ戻っていくおもしろルール!人によってはすぐ思い出せるかも!?」
要件が終わるとそのモニターからすぐに消えてしまい、コメントや俺らの顔が映し出される。
… 確かにここへ連れてこられた部分は覚えていないが、それ以外で自分が記憶を失っているとは思えない。
俺はつい反応する。
「帰りたくないって、…なんで?」
「だって俺、」
「……もう、死んでる」




