3話
予め宿で身体強化の魔術を使い、支部へ向かう。
騎士団への入団試験は戦闘実技試験の配点が高いそうだ。
美人な受付嬢に案内された支部の3階は広い訓練所になっていた。
試験会場の第3修練場の扉の前には若い二人の女性がいた。
フードを厚く被ったローブを着た魔女と、長剣を腰に下げた剣士。
2人とも受験者だろうか。
扉をノックすると声が返ってきた。
「入っていいぞ」
中に入ると焦げた臭いが鼻を突いた。
床に広範囲の焦げ跡がある。
まだ新しいものだろうから、外にいる魔女がやったのだろうか。
修練場はただの広い部屋というわけではなく、ところどころ遮蔽物となるようなオブジェクトがあった。
「よく見ているな、修練場は単なるトレーニングルームじゃない」
「支部が襲撃を受けた際に迎撃戦を行う決戦場でもある」
修練場の中央に立った大剣を背負った男が声をかけてきた。
青髪の引き締まった体の剣士。
身につけた服は端々が焼け焦げ、切断の形跡もある、外の2人の相手もしていたのだろうか。
そもそも炎の魔術を受けて無事だったのか、はたまた避けたのか。
「俺はケイン・カーラー、試験官だ」
「お前の実力を見せてみろ」
僕も返事をする。
この世界、カタカナの人名多いからなあ。
「僕は竜道、裕雨・竜道です」
「レイン・ドラゴンロード、Dragon Lord・・・?」
竜道裕雨という名前だが、この世界ではそう名乗っている。
「まあいい、始めるぞ」
「お願いしますッ」
ケインとは3メートルは離れている。
獲物は相手の方が長いが、接近すれば小回りの効く僕のショートソードが有利になるはずだ。
僕は腰のショートソードの柄に手を伸ばし、剣を引き抜こうと・・・
「ッ・・・」
「遅い」
一瞬で間合いを詰められ腹を蹴られたことに気づいた頃には僕の身体は2メートル飛ばされていた。
床を転がる僕に大剣使いが話しかける。
「武器使いは構えるまで無防備になる。覚えておくんだな」
事前に身体強化をしていた僕はなんとか立ち上がる。
「意外とタフじゃねぇか」
再び瞬く間に距離を詰められるが、今度は抜剣が間に合い、ショートソードと大剣が火花を散らす。
不恰好な姿勢で大剣を受け止めることになったが、今の僕は熊と取っ組み合いできるレベルに強化されている。
そう簡単には力負けしない。
「以外と腕力がある・・・」
「ッ」
大剣使いは僕を右脚で蹴り飛ばすと、大剣を大きく振り上げる。
いくら大剣でもここまで切先が届くはずが・・・
「飛斬」
振り下ろされた大剣から、衝撃波がこちらに向かってくる。
僕の腕力から、遠距離戦に切り替えたのか。
まさか大剣使いが飛び道具を持っているとは・・・
この世界では魔術と同様に、武人も摩訶不思議な技を使うらしい・・・僕が横に跳んだあと、僕の立っていた床は抉れていた。
僕も遠距離から応戦しなくては・・・
「上級魔術、炎槍」
炎で作られた槍が一直線に大剣使いへ飛び、男は避けるそぶりも見せずに炎に包まれた。
「やるじゃないか」
服が軽く焦げているものの、あまりダメージはないようだった。
「避けもせずに!?」
「避けたらお前の実力がわからないだろう」
「もっとも・・・いくら上級魔術でも詠唱もせず、魔道具も使わずに俺を倒すのは難しいと思うぜ?」
確かに僕は魔道具を使っていない。
剣士に憧れていたこともあるのだが、なにより魔道具は高価でとても買えやしないのだ・・・
「飛斬」
再び斬撃が飛んでくる。
ケインは技を放つと同時に僕の左脇へ跳躍し、僕の動きを誘導する。
ショートソードで剣を受け止め、ケインの蹴りによって後退し、飛斬や高速の跳躍に苦しめられる。
「中級魔術、障壁」
魔術で盾を作り、大剣の一撃を受け止める。
「隙ありッ」
「ンなもん、ねぇよ」
僕がショートソードを大剣使いに叩きつけると、彼は左手で剣を受け止めた。
「真剣を素手で・・・!?」
驚いていると大剣で横薙ぎにされ、数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「お前、神技は使わないのか?」
「シンギ・・・?」
なんだシンギって。
「そうか・・・」
大剣使いは軽く剣を振る。
さっきの飛ぶ斬撃か?
「中級魔術、障壁」
透明な障壁が出現し、豆腐のように切断された。
「ぐっ・・・」
障壁で威力が殺されていなければ、身体強化がなければ僕の身体も両断されていただろう・・・
「まあいい、レイン。合格だ。治療をしてもらってこい」
初の異世界バトルで手も足も出なかった僕はなんとか内定が取れた・・・
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