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終末のイストリア  作者: 狗賓
出会いの章
20/43

第19話 夜明けの旅立ち

 いつもより2倍ほど多くなっております……。

 ホントはもっと短くする予定だったんですがねぇ……。

 さて、どうしてこうなった?

 結局アスティオが全快したのは、ディクシアが目覚めてから2日後の夕方だった。

 最初はパーレダスでの滞在は3日間と決めていたのだが、予定を一週間近く過ぎていてもまだ当初の目的を果たせないでいた。


 目的──それは、とある【鍵】を探すことだ。


 形も大きさも、使い道さえも不明な【鍵】……。

 アスティオはずっと、その【鍵】を探すことに執着していた。理由は分からないらしいが、本人曰く「とても大切なもの」らしい。

 そもそも、旅の目的の大部分は【鍵】探しだ。あちこちの都市で聞いて回ったが、噂の影すらなかった。

 アスティオが熱を出して寝込んでいる間、シフォンは中央通りで【鍵】についてそれとなく聞き込みをしていたが、結果は(かんば)しくないものだった。

 国内外の情報を手広く扱っているパーレダスでなら……と思って来たのだが、無駄足だったようだ。


(やっぱり、ヒントは無くした記憶の中っすかねぇ……)


 シフォンは以前にもそう思い、アスティオに催眠術をかけて記憶を引き出そうとしたことがあった。だが、そのときはアスティオが突然、激しい頭痛を訴えて倒れてしまったため中止となったのだ。

 もちろん、それ以来は一度も試してない。

 そう言えば、そのときも丸2日寝込んでいた。

(もしかして、寝てる間に記憶をしまい直してるんすか?)

 思い出しかけた記憶を無意識のうちにもう一度しまい直す……、ありえない話ではないが、そしたらなぜそんなことが起こり得るのか若干つじつまが合わない。


 なぜなら、当の本人は思い出したくて仕方がないのだから。


 シフォンはどうにかして調べられないものかと頭を悩ます。何せ、一応の知識はあるが、精神医療や心理学は全くの専門外だ。どうしたらいいかもさっぱり分からない。

 それに加え、他にも問題がある。

 【鍵】の情報を求め、あてもなく旅を続けてきたが、最後の頼み綱であるパーレダスでも何も得られなかったのだ。ルートは決めてあるが次はどこの都市に行くかも決まってなかった。

 シフォンは一人もんもんと頭を悩ませ、落ち着きもなく部屋の中をうろついていた。

 その様子を見かねたアスティオが、ぽつりと一言呟いた。


「……もしかして、イレミア……さん。なら、知ってるかも……?」

「あっ!」


 シフォンはすっかり忘れていた。

 イレミアは王族だ、一般人も知りえないことも知っている可能性が高い。

 幸い、あの一行は前の宿を引き払い、まだ隣の部屋に泊まっていた。今なら聞きに行くのも容易(たやす)い。

 善は急げ、シフォンはアスティオを引っ張って4号室へ向かった。


 部屋のドアをノックすると、柔らかい大人の女性の声が返事をした──アリスである。

「あら、お二人とも……こんな夜更けにいかがなさいましたの?」

 ギィッという音とともにドアが最小限に開かれる。

 こんなめったに人も寄り付かなそうな宿でも、徹底した警護をしていることにシフォンは少し感動を覚えた。だが、今は感心している余裕はない。

 役所に登録した滞在予定の日数は余裕を持って7日間だ。

 2日オーバーまでなら何とか目をつぶってもらえるが、最低でも明日の昼にはこの都市を出ないと、怪しんだ役人や警備兵が探しに来てしまう可能性が出てくる。それだけは避けたい。

 つまり、用事は何としても今日中に済ませなければならないのだ。

「あいつを呼んでほしい、急ぎで聞きたいことがあるっす」

「イレミア様のことかしら?あの方は今、ディーとともに出かけておりますわ。帰って来るまでこちらでお待ちください」 

 部屋に入れてもらうと、ふと違和感があった。なんというか……前に来た時よりやけに広く感じる。

 なぜだろうと首を回していると、部屋の隅にひとまとめにされた大きめのリュックサックが目についた。大した量は入ってなさそうだが、少しよれてくすんだ色になっていた。

「……あぁ、(わたくし)達は、明日この都市を出る予定ですの」

シフォンの視線に気づき、アリスが何でもないように答える。


「そのことをお伝えしたら、急にイレミア様が荷物(ガラクタ)を売ってくると言ってくださって……ようやく旅行(ごらく)じゃないと理解してくださったようですわ」


 嬉しそうに言葉を続けるアリスに、シフォンは「ん?」となったが、まさかと思いそのことは胸にしまっておいた。

──触らぬ神に祟りなし、である。

 そこでガチャリとドアが開き、イレミアとディクシアが戻ってきた。ディクシアの腕にはチャリチャリ音のするリュックが抱えられている。

「ただいま……って何でここにあなたたちが!?」

「聞きたいことあるのと、今思い出した、治療費も払ってくださいっす」

 かかった費用だけでいいっすから、そう言ってシフォンはポケットからメモを取り出した。

 余分な宿代に食費(もともと泊まる予定だった日数分とアスティオが寝込んで泊まった分は差し引いてある)、解毒薬、解熱薬、タオル、包帯、etc……。合計1アウルームと41アルジーン、3コッペルだ。

 アリスが目配せすると、ディクシアは多少もたつきながらリュックの中を探り、全額ぴったり返した。

「まいどありっと、あとは聞きたいことの方っすけど……」

「……それは、僕に、言わせて……?」

 シフォンが言いかけたのを、アスティオが眠たげな声で(さえぎ)る。

 眠気を振り払うようにぎゅっと目をつぶり、一気にパチッと開く。

 軽く首を回して全員の視線が自分に向いたことを確認すると、アスティオは静かに語り出した。

「……前にも言ったように、僕には記憶がない。……それでも、一つだけ、忘れなかったこと……いや、“知っていたこと”があったんだ……」

 この話をするたび頭の片隅に、ふわりと長い髪の少女が現れる。

 あの子が知っているはずもないのに、初めて出会ったときのどこか泣きそうな顔でこちらを覗き込んでいたあの顔が、ありありと思い出されるのだ。

──今にも(こぼ)れそうな涙を(こらえ)えているような、金色の双眸(そうぼう)が……

「……それが、【鍵】……どんな物なのかは知らない。けど……とても、大切だった気がする……」

 だから、探さなくては。そう言い結ぶと、完全に話に聞き入っていたイレミア達はポカンとした表情(かお)になっていた。

「……何か、知らないかい……?」

「はぇ?──いや、ごめ……あっ!そういえば!!」

 アスティオの問いに生返事を返したイレミアは、そこではっと思い出す。幼い頃のおぼろげな記憶だが、昔そんなお伽話を聞いたことがあったのだ。

「そうだ、母様が昔話してくれた『名もなき英雄』の話!あれのどこかに【鍵】って言葉があったはずなんだけど……」

 必死に記憶の糸を手繰(たぐ)り寄せるが、ギリギリのところで思い出せない。

 イレミアは魚の骨が喉に引っ掛かったような歯痒さを感じていた。

 今度はそのイレミアを見ていたアリスが、あっと声をあげた。

「『名もなき英雄』?それならばこの都市から西に向かったところにある第一学園都市・キトに原本があったはずですわ!」

 第一学園都市・キトはギリギリ【大地の王】領に属し、帝国内最多の蔵書数を誇る図書館を保有するいわば【本の大森林】なのだ。

 そして、他の学園都市にいる者達にとって一生に一度は訪れたい、憧れの地……いや、聖地でもあった。

 ゆえに年齢的に30代~50代が多いのが特徴だが、都市内では歳の差に関係なく、優秀な者は認められる個人実力主義の傾向が強い。

 アスティオはキトという名を聞いた瞬間、ぴくりと反応した。その様子に気づけたのはディクシアだけだ。なぜなら──

「キトっすか!?俺、前から行ってみたかったんすよ!アニキ、次の目的地はキトでいいっすよね!!」

「……あ、あぁ。そこに【鍵】のヒントがあるのなら……」

「決まりっす!」

 やけに興奮したシフォンが行き先を決めてしまったからだ。アスティオは少し困惑していたが、素直に頷いていた。


「じゃあ、一緒に行きましょう!!」


 イレミアも負けじと(競う必要はないのだが)声を張り上げた。その言葉の意図が分からず、シフォンとアスティオは首を(かし)げる。

 視線を向けるとアリスが「はあぁ……」とため息をつきながらも理由(わけ)を話してくれた。

私達(わたくしたち)もキトに向かう予定でしたの、どうしても調べたいことがありまして……ね」

 最後にディクシアに同意を求めると、静かに頷き返していた。

 シフォンは少し考え込んでから答える。

「でも、俺達は今日中にここを出発するっすよ?」

 外は夜だ。

 本来ならこの時間に出掛けるのは不自然だが、アスティオの光の魔法のおかげで外に出ても安全なのだ。

「問題ありませんわ。私達(わたくしたち)はイレミア様を待っていただけ、もう出るつもりでしたの」

 ここでシフォンは「あ!」と気づく、アリスの魂胆が透けて見えたのだ。

(この人、俺達を利用するつもりっすね)

 夜は【呪い(フルーフ)】が危険だが、代わりに盗賊などのはぐれ者に襲われる可能性が低い。

 ベテランの旅人が夜に移動することが多いのもこのためだ。

 この人(アリス)達は夜はアスティオの(リィト)に、昼間はシフォンの戦闘力に頼ろうとしているのだ。

「衣食の保証は(いた)しますわ」

 シフォンの心を読んだようなタイミングでアリスがにこやかに微笑む、そこには逆らいがたい圧があった。

「……いいっすよ」

 そもそも行き先を明かした時点でおかしいとは思ったが、すでに後の祭りである。

 それにお金にも余裕がないのは事実、等価交換でなら助けてやってもいいと思ったのだ。


──この際、王族うんぬんは置いておくっす


 シフォンはそう心に言い聞かせた。

 アスティオはニコニコとして、新しい仲間ができたことを純粋に喜んでいた。



 彼らがパーレダスの守衛門を越えたのは、夜明けのことだった。

 少し赤みを帯びた太陽の光を背に受け、西南西の方角に歩き出す。

 この先で得るものが、彼らに何をもたらすかは誰も知らない。

 だが、たった一つ言えることがある。それは……


「……さぁ、行こうか」


 ──彼らは希望と栄光への道を歩き出したのだ。


 出会いの章、完結です!

 次の章は『帰郷の章』、ぜひご覧ください。



 ちなみにこれを投稿した時点では1話も掲載されておりません。

 つまりまだ7月です。頑張りました……。

 次の章に入る前に2、3個出しますので、そちらもよろしくお願いします!

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