エピローグ――そして、次はもっと面白い小説を
ここまで、AIを使って何本かの小説を書いてきた。
最初は「今のAIなら小説くらい書けるんじゃないか」という、かなり軽い気持ちで始めたものだった。
ところが実際にやってみると、そう簡単ではなかった。
長編を書かせればプロットを見失い、文章にはAI特有の短文や一語文が並ぶ。設定を与えすぎれば扱いきれず、逆に情報を減らせば物語の整合性が崩れる。
そこで私は、普段のシステム開発と同じように考えることにした。
マスタープロットを作り、執筆に必要な情報を分離し、幕ごとに詳細プロットを用意する。さらに文体上の問題を品質ゲートで検出し、必要なら修正する。
いわゆる「ハーネス」を小説執筆にも持ち込んだわけだ。
その結果、少なくとも最初に書いた作品と比べれば、かなり安定して小説を出力できるようになった。長編でも大きくプロットを見失わず、文章もそれなりに読みやすい。
「AIを使って、一定品質の小説を書く」
という最初の目標については、ある程度達成できたと思っている。
しかし、完成した作品を改めて読み返してみると、当然ながら次の問題が見えてきた。
世の中には、ページをめくる手が止まらなくなる小説がある。
この先どうなるのだろうとワクワクする。危機が迫ればドキドキする。何気ない会話なのにキャラクターが生きているように感じる。文章を読んでいるだけなのに、その場の光景が自然と頭の中に浮かんでくる。
そうした傑作と自分の作った小説を比べれば、まだ足りないものはいくらでもある。
そして、おそらくここからが小説を書くことの本当に難しいところであり、同時に面白いところなのだと思う。
これはAIによるシステム開発でもよく似ている。
AIを使って「動くもの」を作るところまでは、かなり簡単になった。しかし、そこから品質をさらに一段、二段と引き上げようとすると急激に難しくなる。
小説も同じだった。
破綻しないようにすることはできる。
読みづらい文章を減らすこともできる。
プロット通りに最後まで書かせることもできる。
だが、破綻していない小説と、面白い小説は同じではない。
さて、どうしたものか。
残念ながら、私には突然すばらしい文章を書けるようになるほどの文才はない。
ならば、ここもシステム屋らしく攻略してみようと思う。
そもそも「面白い小説」とは何なのか。
なぜ続きが気になるのか。なぜワクワクするのか。なぜキャラクターを好きになるのか。なぜ同じような出来事を書いているのに、ある作品は情景が鮮明に浮かび、別の作品はただ文字を追うだけになってしまうのか。
まずは、それを分析する。
面白さを構成している要素を分解し、可能なものは評価基準に落とし込み、スコアリングする。そして、その結果を使って改善し、もう一度評価する。
要するに、ここにも改善ループを作る。
もちろん、小説の面白さを数値だけで表現できるとは思っていない。
それでも、今まで感覚や才能の領域だと思っていたものを可能な限り言語化し、分析し、AIと人間が扱える形にしていけば、今より少しは良いものが作れるかもしれない。
少なくとも、試してみる価値はある。
AIを使えば小説は書けた。
ハーネスを作れば、一定の品質で書けるようにもなった。
では、その先――
AIとハーネスを使って、「面白い小説」を作ることはできるのか。
次は、それを試してみようと思う。




