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陰キャでぼっちの俺が、なぜかクラス一の美少女委員長に好かれている件〜しかもツンデレ妹まで可愛いんだが、これってもしかして俺モテ期来てる?〜  作者: 伊太利式焙煎珈琲


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エピローグ 

 あの夏祭りの夜から、私達は恋人になった。


 花火の音が響く中で、二人で顔を見合わせて笑って。

 少しだけ照れながら、もう一度キスをして。


 そのあと、鳥居の前でみんなと合流した時には——もう全部、バレていた。


「はいはいはーい! お二人さーん!」

「いや、分かりやすっ!! ひゅーひゅー!」


 美香と佳奈がニヤニヤしながら寄ってきて、逃げる間もなく囲まれる。

 工藤くん達も面白がるように肩をすくめて笑っていた。


「いやぁ……良かったなぁ。おめでとう! パパは嬉しいぞ!」

「清川さんの事、大事にしろよ快人―?」



 恥ずかしくて顔が上げられなくて、でも隣を見ると快人も同じ顔をしていて。

 それが、なんだか嬉しくて——思わず笑ってしまった。


 



 それからの毎日は、びっくりするくらい楽しかった。


 


 みんなで集まって勉強したり、夜に手持ち花火をしたり。

 海に行って、はしゃぎすぎて砂まみれになったり。


 


 何気ないことばかりなのに、全部が少しだけ特別に感じる。


 


 それに——快人と二人で出かける時間も、増えた。


 


 水族館でゆっくり魚を眺めたり。

 ゲームセンターでくだらないことで盛り上がったり。


 


 特別なことをしているわけじゃないのに。

 ただ一緒にいるだけで、楽しいって思える。


 


 ある日、公園のベンチに並んで座っていた時。


 夕方の風が、少しだけ涼しくて。

 空はオレンジ色に染まっていた。


 


「ここさ、覚えてる?」


 快人が、ふとそんなことを言う。


「……うん。小さい頃、よく来てたよね」


 ブランコも、滑り台も。

 あの頃より少し小さく見えるのに、思い出はちゃんとそのままで。


 


「奈々、あの時めっちゃ泣いてたよな」

「ちょっと! それ言う!? なら快人だって!!」


 思わず笑って、軽く肩を叩く。


 


 そんな他愛もない会話をしながら……そっと、快人の肩に体重を預ける。


 彼は驚いたみたいに一瞬だけ動いたけど、すぐに何も言わずそのままでいてくれる。



(……ああ)


 この人と、恋人になったんだ。


 改めてそう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 


 ゆっくりと目を閉じる。

 隣にいる安心感と、静かな時間。


 


 このままずっと、こんな時間が続けばいいのにって、自然に思えた。



 そのまましばらく何も話さずに並んで座っていた。

 流れているのは沈黙なのに、不思議と気まずくない。


 むしろ——落ち着く。



 ふと、指先に何かが触れた。


 

「……ん」


 

 ちらっと横を見ると、快人が少しだけ照れた顔で視線を逸らしている。

 触れているのは、彼の手。


 指先同士が、ほんの少しだけ重なっていた。


 ……どうしよう。


 離す?

 それとも、このまま……?


 ――違う。


 もっと……触れたい。

 

 そっと、自分から指を絡めた。


「っ……」


 小さく息を呑む音が聞こえる。

 でも、振り払われることはなくて。


 むしろ——

 ぎゅっと、しっかり指を絡めさせた。



 恋人繋ぎ。


 それだけで、胸がいっぱいになる。


 


 何も言ってないのに。

 何も特別なことをしてないのに。

 ただ手を繋いでるだけなのに……。


(……幸せだなぁ)

 

 自然と、そんな言葉が浮かぶ。


「奈々」


「うん?」



 名前を呼ばれて顔を上げると、快人が少しだけ困ったように笑っていた。

 


「……なんかさ」


「うん」


「こういうの、まだ慣れないね」


 その言葉に、思わずくすっと笑ってしまう。


「私も」


 そう答えると、快人も少しだけ安心したみたいに笑った。



 繋いだ手は、そのまま。 

 夕焼けが、少しずつ夜に変わっていく。


 街灯がぽつぽつと灯り始めて、公園の景色が少しだけ変わる。


 

 それでも、私達は動かない。

 ここから帰りたくないなって、どこかで思っていた。


 



「……帰るか」


 やがて、快人がぽつりと呟く。 


「……うん」


 名残惜しいけど、仕方ない。



 立ち上がっても、手は離れなかった。

 むしろさっきより自然に、当たり前みたいに繋いだまま歩き出す。



 帰り道。

 コンビニに寄り道して、アイスを一つずつ買った。


「それ、美味しそう……一口貰うね!」

「ん。じゃ、俺も」


 一口なんて言いながら、結局半分ずつ分け合って。


 

「ちょ、快人食べ過ぎじゃないー?」

「俺の一口は大きいの!」


 そんなやり取りすら、楽しくて。


 気が付けば、家の前。 




「……じゃあ、また明日」


「うん、送ってくれてありがと」


 また明日があるのに。

 別れるのが、少しだけ寂しい。


 

「……」


「……」


 お互いに何も言わずに、少しだけ立ち止まる。 


 その空気が、くすぐったくて。



「……あのさ」

 

 快人が、少しだけ真面目な声で言う。


「うん?」


「その……」


 言いかけて、やっぱりやめたみたいに視線を逸らす。

 

 その仕草が可愛くて——


「快人」

 

「——ッ!」

 

 不意打ち気味にキスをする。



「……ズルいな」


「へへ……。また明日」



 少しだけ安心したみたいに笑う顔を見てから、ドアを開ける。


 玄関に入って、快人が見えなくなるまで見送って、ドアを閉める。

 


「……はぁ」


 


 思わず、大きく息を吐いた。


 胸が……ずっとドキドキしてる。



(……本当に、今日も楽しかった)


 そう思いながら、私はゆっくりと部屋へ向かった。



*   *   *



 寝る前に日記を書きながら、ふと思い出す。



 あの夏祭りの日以来、白井くんの姿を見ていない。



 夏休みに入ってから、毎日あの物陰にいた気がするのに。

 でも、それもなくなった。



 家の前を通る時も、何もない。


 視線を感じることもないし、誰かが立っている気配もない。

 

 ……うん。

 それでいい。 


 正直、ほっとしている自分がいた。


 あのまま、ずっとあの感じが続いてたら——少しだけ、怖かったから。



 でも、もう大丈夫。

 隣には快人がいるから。


 

 頭の片隅に残っていた、白井くんの睨むような細い目の視線を追い出すように軽く頭をふり、今日の快人との思い出を日記に記した。


 ——とても楽しくて、幸せだって。




*   *   *




 この日は美香や佳奈。工藤くんに富樫くん。

 それに快人と一緒に遊園地に行った。


 ジェットコースターやお化け屋敷。

 いっぱいはしゃいで、いっぱい叫んで。


 楽しくて……ついクタクタになるまで遊んでしまった。


 

 地元の駅でみんなと解散して、お土産を抱えて快人と一緒に帰路につく。

 

「今日も楽しかったね!」


「ああ、奈々の迫真の顔も見れたし」


「あれはっ!! ……お化け、怖いし」


「ぷ……知ってる。ずっと一緒だもんな」


「もぉー……」



 こんなやり取りも心地良い。

 心が弾んで、きっとまわりから見たら幸せそうだねって言われちゃうかも。



 ……ううん、幸せだもん。

 だから、そういわれたら、満面の笑顔で「幸せだよっ!」って言ってあげよう。





 ゆっくり歩いていたはずなのに、あっという間にもうすぐ私の家に着いてしまう。


「ごめんね、荷物重いよね」


「いや、全然。それより奈々、疲れてない?」


「う~ん。ちょっぴり? でも楽しかったから!」


「……だな」



 視界に家の屋根を捉える。もう……終わってしまう。


「……ね、快人」


「んー?」


「……大好きだよ」


 そう言うと、快人は照れたように笑った。

 その顔が……大好き。


「ああ、俺も奈々が大好きだ」


「ふふ、嬉しい」


 私は、本当に幸せだった。

 


 家の近くで、晴れているのにレインコートを着ている人が靴紐を結び直している。

 

 私も快人もそれに気付いていた。

 でも疲れと幸福感もあって、視界に入っていたその人の事に、何も注意を向けなかった。


 

 もぞもぞと何度も結んでは解いてを繰り返す、その人の隣を通り過ぎて、門を開けようと私達は立ち止まった。


 

「——奈々ぁ」



 ぴくりと、身体が硬直する。

 今の……声?


 さっと快人が私の前に立ち、庇うようにして不審者を睨みつけた。




「今。助けてあげるからね」



 走り出して風を受けたレインコートのフードが捲れる。

 その下にある素顔は——



「白井……くん?」





 

 夕方の日を受けて赤く染まった道に――さらに濃い赤が、静かに広がっていった。


『自分の世界しか見えない人間は、悪意なく他人の人生を踏み荒らす』



タイトルを見て、よくある逆転ラブコメだと思った方もいるかもしれません。

その予想を裏切るために、この物語を書きました。


優しさは誤解される。

好意は暴走する。

そして——誰かの幸せは、誰かにとって都合の悪い現実になる。


この作品は、

「もし物語の主人公だと思い込んだ人間が、現実を生きていたらどうなるか」

という発想から生まれています。


誰しも一度くらいは、

「自分は特別なんじゃないか」と思ったことがあるはずです。


人生は、誰もが主人公であり、特別です。それは間違いありません。

しかし、違うのはこの世がご都合主義な創作の世界でない。という事です。


読んでいて不快に感じたなら、それも正しい反応。

悠太に恐怖を感じたなら、それもまた正しい。


そしてもし——

どこかで彼の心が「分かる」と思ってしまったなら。


この物語は、きっとあなたの中にも残る事でしょう。



悠太は、決して特別な人間ではありません。

誰もが、悠太になり得る可能性を秘めているのですから。


それでは、また別の物語でお会いしましょう。


濃厚圧縮珈琲

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