完太の覚醒
とうとう最終話これで1部が完になります。
もし好評でしたら2部も書いていきたいと思いますので、評価していただけると嬉しいです。
荒垣の身体が硬直する。
声を無理矢理絞り出す。
「なっ、なんだてめぇ。何してんだ。」
若衆「荒垣さんですね?いや〜助かりましたよ。
我々九条会としても録音データを見つけるのに苦労してたんですよ。今日あなたが現れて…
まさか…あの女に持たせてたとは…」
荒垣(どういう事だ?九条会の人間が下の組織の稲葉会に潜り込んでたのか?顔の割れてない男を九条会が送り込んだのか?もしくは石嶺が自ら引っ張った?
どちらにせよ…
若衆「そうそう。急いだ方がいいですよ。ウチの組のモン呼んでますから。
コレ(石嶺)を片付けないとダメなので。
あなたがこのデータを手に入れて、ウチに対してどうするつもりだったのかは検証が必要でしょうけどね。」
荒垣(マズイ。まずいぞ。謀反がバレたら俺たちの組は終わりだ。どうする?どう切り抜ける?
コイツを殺るか?
いや、ダメだ。九条会に連絡した時に俺の名前を出してる可能性がある。
自分の身を守る為にも伝えてると考えた方が自然だろう。どうする?どうする?
荒垣 「あんたも下の組織とはいえ、仮にもこの男は稲葉組の若頭だぞ?どう言い逃れするつもりだ?」
「この男が麻薬ルートを勝手に開拓し白鳳会のシノギをかすめ取ってる形にする。
それに気付いた我々が直々に手を下したと。
それに麻薬ルートのシノギを半分でも納めれば、嫌でも納得するさ。」
男は拳銃を懐にしまい、ポケットからナイフを取り出すと、石嶺が握っているバッグを手に取り、ナイフで裏地を開いた。
「ビンゴ!」
中からUSBメモリを取り出すと、持っていたパソコンで中を調べだした。
若衆「ん?んん〜?なんだコレ?違うぞ。録音データじゃない。
石嶺が他に隠してたのか?いや、本物だと思ってなきゃ、あそこで逃げる必要は無かった。」
「ハッ!」
ここで男が何かに気付く
「おい、あの女は?お前の後にいた男と一緒じゃないのか?」
荒垣「あ、ああ。」
「今、女はどこにいる!?」
荒垣が完太に電話をかける。
「プルルルル」
「はい?」
「ボンか?あの女は一緒か?」
「え?あの女は泣いて、訳わからない事喚いてたので、ファミレスに置いてきましたよ。
麻布のマンションに行くとか言ってましたけど。」
「麻布のマンションに?」
それを聞いた男が車に飛び乗る。
「ウチのモンが来るまでアンタはコイツを見張っててくれ。」
そう言い残すと急いで麻布のマンションに向かって行った。
荒垣「ボン、今すぐファミレスに戻れ」
完太は急いで引き返す。
徒歩で5分とかからない距離だ。
ファミレスの扉を開ける。
「クソッ、いない……!」
完太が息を切らしてファミリーレストランに戻った時、そこには飲みかけのメロンソーダと、エミが泣きながら丸めて捨てたおしぼりだけが残されていた。
店員に詰め寄ると、怯えた顔で「さっき、急いでタクシーに乗られましたけど……」と指差す。
完太は即座に荒垣に電話を入れた。
「荒垣さん! 女がいねえ! 多分、麻布のマンションに向かいました!」
『……ボン、よく聞け。石嶺が持ってたバッグは空だった。あの野郎、俺たちだけじゃなく九条会までハメやがった……。いや、石嶺じゃない。あの女だ! エミが最初から仕組んでやがったんだ!』
「え……? 仕組みって、どういうことっすか?」
「石嶺は殺された。詳しいことは後だ。九条会の殺し屋もそこへ向かった。先にエミを捕まえて、何が何でも録音データを見つけるんだ!」
荒垣から送られてきた住所は、麻布十番の入り組んだ路地の先にそびえ立つ、要塞のような高級タワーマンションだった。
完太は急いでタクシーを捕まえて、麻布のマンションに向かう。
(ふざけんなよ……。あんなに泣いてたのに、全部演技だったのかよ)
頭に血が上る。
4.2秒でAirTagを入れたあの時、目が合った0.5秒の沈黙。
あの時の彼女の瞳に宿っていたのは、恐怖ではなく、自分たちを嘲笑う「確信」だったのか。
(石嶺が大事に抱えてたエルメスのバッグは、ただの囮だった……。本物はマンションのどこかに、最初から隠してあったんだ)
完太がマンションのゲートに辿り着いた時、エミを乗せたと思われるタクシーが走り去るのが見えた。
そしてその直後、黒塗りのセダンがタイヤを鳴らしながら、エミを追うように地下駐車場へと滑り込んでいく。
「待てよ、エミ……!」
完太はエントランスの自動ドアが閉まる寸前、身体を滑り込ませた。
「ちょっと。なによ!」
エミの腕を掴んだ完太の手を振り解く。
「お前が持ってるのかよ。あの録音データ。」
「そんな事より、今さっき地下に降りて行った車、石嶺のじゃないの?何があったのよ!」
「石嶺は殺された。今の車で来たやつだ。エミ。あの録音データを渡さないとお前も殺されるぞ」
エミは驚いた表情を見せたあと、爪を噛みながら完太の方を見つめる。
その目は邪険な目をしている。
「あんた、来な!」
急いでエレベーターに乗るエミ。
「早く!」
訳が分からないままエレベーターに乗り込む完太
「石嶺が殺されたって事は、佐伯は九条会の人間だったってことね。」
「佐伯ってだれだよ!」
「あの、今追いかけてきてる男よ!最初から石嶺を探る為に送り込まれたんだ。」
エミが誰かにLINEを送っている。文字までは完太からは見えない。
エレベーターが止まる。
降りて直ぐの部屋に入る。
「佐伯は自由にこのマンションに出入り出来た。鍵も持ってるはず。あと数分で入ってくるわ。」
そう言いながらキッチンの食洗機の中からテープで壁面に固定された録音データを取り出す。
「そんなところに…」
「石嶺は料理なんかしないからね。それこそ食器なんて洗うはずもないし、一番安全だったのよ。」
「あんたはそれを持って逃げて。エレベーターに乗らずに非常階段から降りるの。そうすれば出くわさないわ。」
「じゃあ、お前はどうなるんだよ!殺されるぞ。」
「私は殺されるかもしれない…。でも、それだけは奪われる訳にはいかないの!早く行って!」
完太からしたら何もせずに録音データが手に入った事になる。今すぐ逃げれば黒金親分をトップに上げる足ががりになる。
(オイ!何を迷ってるだ完太!こんな女放っておいたらいいだろ?早く逃げろ!その場から離れるんだ!)
完太の心の本能がそう叫ぶ。
「うるせぇな〜。」
完太の顔つきが変わる。
「よくよく考えたら、何で俺が逃げなきゃいけない?はぁ?段々腹たって来たぞ。
クソみたいな俺でも、流石に女が殺されるって分かってて置いていけねぇよな。」
エミ「ちょっとあんた!何ぶつぶつ言ってんのよ!佐伯がもう来るわよ」
完太は急に落ち着き出して椅子に座り込んだ。
「ちょっと、」
エミが何かを言いかけたが完太が遮る。
「お前は奥の部屋で隠れてろ。俺が何とかする。」
その時!
玄関の鍵が開けられる。佐伯が来た。
エミはその音を聞いて、完太を見つめる。
瞳の奥に、深い喪失の影を宿している。
「白鳳会が乗り込んでくるって言えば、佐伯は出ていくかもしれない。」
それだけを伝えると、エミは奥の部屋に入って行った。
佐伯が拳銃を構えながら入ってくる…
ゆっくり、慎重に。
完太と目が合う。完太は微動だにしない。
「エミは何処だ?録音データは?」
「ガタガタうるせー。バーカ。」
完太が立ち上がる。ゆっくりと佐伯との距離を詰める。
佐伯は拳銃を完太に向ける。
「何だお前?死にてえのか?」
「打ってみろよ。石嶺を殺ったんだろ?興味あるな〜。拳銃で撃たれるってどんなんだろうな〜。」
より距離を詰める完太にたまらず発砲する佐伯
「パシュ」
完太の動きを止める為に足を打つ。
一瞬痛みが走ったように感じたが、完太は止まらない。
「違う違う。そこじゃないだろ〜。ここだよここ。」
「なんなんだ…お前…」
「パシュ、パシュ」
佐伯が二発、完太の胸の辺りに撃ち込む。
完太、撃ち込まれた威力で後ろに倒れる。
(何だったんだこいつは…)
周りをキョロキョロとエミの居場所を探す佐伯。
奥の部屋に狙いを定める。部屋のレバーハンドルに手を掛けた瞬間、
「ガバッ!」
後から完太が襲いかかる。
「何でお前…生き…」
佐伯の首を、右腕で、後から思いっきり締め上げる。
佐伯、肘や足を使い、引き離そうとする。
扉を蹴って後に倒すも、完太は離さない。
次第に佐伯の動きが鈍くなり、遂に気を失ってしまう。
「はぁはぁ。」
「エミ!もう大丈夫だ。今のうちだ逃げるぞ」
恐る恐る扉を開けるエミ。
「え?え?どうやってんの?君撃たれてんじゃん。なんで?え?え?」
「俺は死なねーんだよ。服は破れたけど。早く早く。コイツが目を覚ますぞ!」
ほぼ同時刻、荒垣の方はというと…
佐伯が現場を離れて数分後…
真っ黒なセンチュリーが現れる。
荒垣(オイオイ。センチュリーなんて1人しかいねえじゃねぇか。)
車から降りてきたのは荒垣の読み通り、とんでもない大物だった。
九条会、組長 重松 善蔵 (しげまつ ぜんぞう)
直々のお出ましだ。
死体となった石嶺を冷ややかに一瞥し、その視線は凍り付いたように立ち尽くす荒垣へ向けられた。
「……黒金のところの荒垣か。なぜ、お前がここにいる」
重松の声は低く、周囲の空気が重く沈む。
荒垣は背筋に走る冷や汗を飲み込み、あえて不敵な笑みを作った。
「……お揃いで。親分、石嶺さんの最期、きっちり見届けさせてもらいましたよ。……ですが、あんたのところの若い衆、仕事が早すぎたんじゃないですか?」
荒垣は、車の中のパソコンを指で刺し、
「そのUSBは空だった。……石嶺を殺せばブツが手に入ると思ってたんでしょうが…
あんたのところの若衆、今ごろ血眼になって女を追ってマンションに向かってますがね……」
重松の目が細まる。
「……それがどうした」
荒垣は一歩前に出た。周囲の九条会組員が色めき立つが、重松が手でそれを制す。
「あの女は、ただの愛人じゃない。……何も知らないフリをして石嶺を出し抜いたんだ。石嶺はあの女を俺に投げつけて逃げた。あの時点で女は石嶺に見切りを付けたはずだ。そうなれば仲間に連絡を取ってるだろう。」
荒垣は一気に畳みかける。
「俺の予想では、女が1人でこの計画を実行出来たとは思えない。必ず誰かが後ろで糸を引いてるはずだ。データもコピーがあると考えるべきだ。今、女を始末してしまうと、それこそたどり着けなくなりますよ。」
重松は無言で荒垣を凝視する。
数秒の沈黙が、荒垣には数年にも感じられた。
重松「……おい、佐伯を止めろ。」
組合員の1人に声をかける。
その時、荒垣のスマホが振動する。
「ブーブーブー」
LINEを開くと完太からだ。
「録音データゲットしました。」
組合員が首を横に振り、
「……佐伯、出ませんね。」
荒垣 (録音データはこちらの手の中にある…何とかこの場を取り繕って逃げねーとな。)
「重松親分。今さっきウチの若いモンから連絡が入った。」
荒垣はスマホの画面をわざとゆっくり傾けた。
「今、女と一緒に録音データも手に入れたと…。女は石嶺が殺された事を知り、このデータを持って白鳳会に逃げ込むと言っている。
どうします?コレを止められるのは今一緒にいるウチのモンだけだ。
そして、その若いモンも俺の言う事しかもちろん聞かない。
分かりますよね?」
重松 「荒垣〜。なんだそりゃ、交渉のつもりか〜?
……だが、石嶺のガラも出ちまってるからな。
上が納得する理由も探さんならん。
ここらが落とし所かの……」
「プルル……」
「ガチャ」
「あ〜ボンか…よくやった。
今か?今は車の中で美酒ならぬ、美煙を吸ってるところだ。
「うめぇな〜」
この19話で第一部が完になります。
もし好評でしたら2部も書いていきたいと思います。
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