大学生が透明人間になる方法
ちょっとエッチで普通の大学生が透明人間になる方法を発見。この能力を使って、お金儲けの為に歌舞伎町に出かけるが、ひょんな事からヤクザの親分に気に入られてしまう…
2026年、某日。
「あ〜、眠た……」
まだ半分も開いていない眼筋を無理やり引き上げながら、俺は大学のキャンパスをのっそりと歩いていた。
この男こそが今回の主人公――。
名前を、山崎完太という。
まあ、どこにでもある平凡な名だ。
「コラ! 完太!」
鼓膜を突き刺す第一声。朝っぱらから、こいつは本当にうるさい。
声の主は、幼馴染の三浦里帆。
あ、読んでくれている方には申し訳ないが、先に断っておく。
こいつとの甘ったるい恋愛物語……なんて展開を期待するのはナシだ。
そういうのは他所でやってくれ。
これは、もっと血生臭い。そう、任侠ヤクザの物語。
「さあさあ、散った散った」
ここからは、仁義なき戦いの始まりでござんす――ってな。
「あんたね。また昨日、夜遅くまで麻雀してたんでしょ」
隣に並ぶなり、里帆がオカンさながらの説教をカマしてくる。
「ちげーよ。昨日は……透明人間……いや、なんでもない」
「今日の授業は落とせないって、自分であんなに言ってたじゃない」
「だからこうして来たんじゃねーかよ。オカンかよ」
何かとお節介を焼きたがる女だ。もしかして俺のことが好きなのか?
……なんて、そんなサービスシーンも一切ないから安心してほしい。
教室に入ると、いつもの麻雀仲間が三人がかりで先に席を陣取っていた。
こいつらの名前は、二郎、脩、賢治。
わざわざ名乗らせたが、こいつらの誰かが里帆といい感じになって、俺が「ぐぬぬ……」と歯噛みするようなエピソードも、もちろん用意していない。
ただ「名無し」のままじゃ可哀想だから、記号代わりに名前を振ってやっただけだ。
里帆は教室に入るなり、少し離れた女子グループの中へスッと消えていった。
(なぜかこっちのグループには入ってこようとしないんだよな……。まあ、どうでもいいけど)
教授の「え〜、であるからして……」という、睡眠を誘う声が響き渡る。
「今日どーする? 麻雀?」
賢治が小声で聞いてきた。脩も乗り気な顔をしている。
「あ〜、俺は今日パス」
「バイトか?」
「いや、今日は里帆とデート」
「「「はぁ?」」」
三人の声が揃った。
「ハハハー、嘘嘘。でも、メシ行く約束してるのはホント」
「珍しいな」
二郎が意外そうに呟いた。
俺は「そう、そうなんだよ……」と適当に返しつつ、里帆の背中をじっと見つめる。
(少なくとも、こいつらとジャラジャラ打ってるよりはマシなはずだ……たぶん)
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
*
その日の夜。
「珍しいね。完太の方から誘ってくるなんて」
里帆が俺の顔を覗き込んで言った。
こいつとの付き合いは、小学校の頃まで遡る。
当時、俺の一家が今の家に引っ越してきた時のことだ。
まだ学校にも通い始めていない、右も左もわからない時期。
俺の親が隣の三浦家へ「初めまして。なんちゃらかんちゃら……」と挨拶を交わしている最中、隣の家の娘だった里帆がいきなり俺たちの家に上がり込んできた。
『あんた、名前は?』
『ん? 完太……』
『カンタか〜!』
自分の名前も名乗らず、俺の部屋を見渡して「Switchあるーーー! やろやろ!」とはしゃぎ出す始末。里帆の母親が「これこれ」と申し訳なさそうに注意していたが、本人はお構いなし。
結局、こいつの名前も知らないまま、俺は三時間ぶっ続けでマリオカートをやらされる羽目になった。
第一印象は最悪。けれど、知らない土地で不安だった俺が、次の日から学校に馴染めたのは間違いなくこいつのおかげだ。
それだけは、少しだけ感謝している。
まさか、それが二十歳になるまで続く腐れ縁になるとは思わなかったが。
俺という人間を自己分析するなら、こうだ。
スポーツはダメ、勉強もダメ。
顔は中の上(だと信じたい)。
身長は現在一七四センチ。
普通に女の子が好きで、ちょっとエロいことに興味がある。
スペック的には、まさに「ザ・平均的日本人」といったところだろう。
ただ、そんな俺にも一つだけ、飛び抜けた才能があった。
「数学」だ。
そろばんも公文も経験はない。だが、数字に関することだけは、なぜか瞬時に答えが脳に浮かぶ。
「ねえ、今日は何食べる?」
里帆の声で現実に戻る。
(目的はメシじゃないから、なんでもいいんだけどな)
「ん? なんて?」
「なんでもねーよ」
「マックでいいんじゃね? それが目的じゃないし」
「え?」
里帆が、首に巻いていたマフラーに顔を埋めるように窄めた。
(……なんか、変な感じになってきたな)
「違うんだよ。今日の夜、ちょっと実験に付き合ってほしいんだ。それが今日のメイン。だからメシはチャッチャと済ませようぜ」
「ふ〜ん……」
里帆が少し不機嫌そうに答えた。
その後、マックでハンバーガーを胃に流し込んだあと、里帆が改めて問い詰めてきた。
「ねぇ。実験ってなによ? どこで何するの?」
「実はな……」
俺は声を潜めて言った。
「透明人間になれるかもしれないんだ」
「アハハハハ!」
里帆が盛大に吹き出した。
「馬鹿じゃねーの?」




