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魔界・将軍様失礼します。

 大理石の机に頬杖をつき、魔界の将軍は唇をきつく結んでいる。右側頭部に微かな違和感を覚えるのだ。

 彼は予知能力とまではいかないが勘がかなり良い。特に悪い予感は絶対に当たる。

 ちょっと気になってるんだけど~気にし過ぎるから鬱が入っちゃってるのかなあって――みたいな簡単なノリではない。

 絶対に当たるのだ。


 将軍はため息をつき、何度も足を組み替える。その度に黒髪と身につけている黒の鎧が揺れた。鎧といっても戦闘に行くためのものではなく、正装として魔界神殿に在するためのものだ。ゆえにスーツに近い。

 ネクタイはないが金色のネックレスを幾重にもしている。それが紅い目を引き立てている。美しさと強さが共存しており、将軍としてのカリスマ性は絶大だった。

「ちっ」

 小さく舌打ちをした。

 将軍の苛つきは王の間にいる魔王にも伝わっているようで、エンシェント・ドラゴンという古代種の中で、一番古株で貫禄のある龍なのに身体を縮め震え始めた。




「――もしもし。魔王様はいますか? 私はリュミエール・アルベルト・ジュウと申します。略して」

「略すなリア充」

「これからはリュミ神官と呼んでくださいね。コンフォード・ミュウ将軍。略して――」

「だから略すなっつてんだろうがっ」


 当たった。

 絶望的に当たった。


 魔界は独立自治をしている。しかし大陸の根底が樹木であり、この世界を支えているため、魔界の立場は弱い。大家と店子の関係だ。

 あちらの神族はやたらと理屈をつけて魔界に介入して来る。

 確かに魔法の結界が弱くなっていないか気にしているだろう。魔法が暴走すれば大陸の被害は甚大になるからだ。

 しかし魔法の種類は少ないが、魔力の量は神族の方が多い。大陸の維持に使っているくらいだから桁違いにあるはずだ。その気になったら魔界など消してしまえるだろう。心配という大義名分は鼻くそに等しい。


 一度将軍は尋ねたことがあった。「魔界など無くなった方が良いのではないか」と。

「いいえ。あった方が良いです。楽しいですから」

 そうあっさりと言ってのけたのがリュミエール・アルフレッド・ジュウ。〈神〉直属の神官だ。


 奴は無理矢理に水晶宮と魔王殿・王の間に電話回線を繋いだ。そのため、宮殿そのものが受信機となり声が響く。

 独立自治はどーした。これでは居留守も使えない。彼の声がした途端に魔王は部屋の隅で泡を吹きだした。


「何の用だ?」

 聞きたくない声だ。

 早く終わらそう。

「大したことではありませんが、この前、一人男を押し付けたでしょう。確か白井晃でしたっけ、ちょっと考えの足らないチャラいの」

「やけに酷評するな」

「少し将軍に似ているので」

「――どういう意味? ねえ、それどういう意味?」

「別に。単なる確認です。ちゃんと学校に転入して登校していますか」

 

 リュミ神官は冷酷無比なことをサラッとやつてのける。彼がやるとなぜか正道な気がしてしまうから不思議だ。

 将軍も目つきが怖いと恐れられているが、あの無慈悲な顔の前では調子が狂う。

 また今回も理性を飛ばす所だった。


「……こほん。ああ。ちゃんと登校している。最初は渋っていたようだが、冥府府立小学校一年のみんなが誘いに行って折れたみたいだ」

「登校するまで部屋の前で名前を呼んだのですね。目に浮かぶようです」

 うふふ、と奴の含み笑いが聞こえる。

「当たり前だ。うちの小学校はイジメと不登校は許さない友達思いの生徒ばかりだ。お前の所とは違う」

「一年生でも転移魔法くらい使えるでしょう。わざわざお出迎えとはね」

「一年生に誠心誠意の心ある友情を教えるのは良いことだろう。安易な魔法に頼ると身を亡ぼす。彼は今、三組の生徒達と手を繋いで集団登校しているぞ」

 白井晃だったか……日に日に衰弱して無気力になっているという噂もあるが、あくまで噂にすぎない。

 そう――噂だ。

「彼もご愁傷様ですねえ」

「えっ」

 血の気が引いた。まさか見破られたのだろうか。それとも清廉潔白な魔界が疑われたのか。

「だだだ大丈夫だ……」

「ふふ。きっと素晴らしい大魔法使いになってくれるでしょうね。なれたら」

 リュミ神官はどうしてだか面白そうだった。

 奴がこんな声を出す時は何か妙なことを考えている時だ。

 確か魔王が電話で「最近太っちゃって」と言った途端に鉈持って乗り込んで来た。「余計な部分は引き取りますよ」と優しく微笑んだ時がこんな声だった。

 あれ以来、魔王は電話に脅えるようになった。この世界で一番恐ろしいのは曇りなき真っすぐな優しさに包まれた闇だと将軍は思う。


「そういえばあの男は転生者だろう。なぜわざわざこっちに呼んだ。魔界に押し付けたのは何か理由があるのか?」

「まさか」

「この前も魔王殿の秘密の会議室に盗聴器仕掛けたろ。あいつはもしかしたらお前のスパイなのかっ」

「やだな。お遊びと一緒にしないでくださいな。スパイならもう少し頭の良い者を送りますよ。将軍に似た奴が諜報活動なんてできるはずないじゃないですか」

「うーん」

 確かに事情を知らない転生者には無理だろう。たいした才能もなさそうだし。

「……安心したが、何か腹立つ」

「電話をしたのはただの確認です。暇だったので」

「はあ? 暇で電話掛けてくんな。こっちの都合を考えろ」

「ではまた。コミュ将様」

「あ、人の気にしてることを。待て、リュミ公――このナチュラルど畜生! 魔王様の尻尾を返せ! 勝手に切るな、だから待てッ!」



 

 ブッ。ツーツーツー……

 



読んでいただきありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界転生、転移で楽しもうって異世界にきたはいいものの、そこは異文化ですからね、ついていけないばかりか、帰りたくなるでしょうねー。 (◎-◎;)
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