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44.王国への帰路編 冬景色


「すごいですね、雪って」


 嬉しそうに笑うスノウ。

 しかしセフィライズにとってはもう慣れきってしまった雪。彼女の反応が初々しく見えた。


「最初だけ。そのうち、もういいかなって、思うから」


「セフィライズさんも、最初はそうだったんですか?」


 問いかけられ、セフィライズは初めてアリスアイレス王国に来た事を思い出す。まだ、六歳ぐらいだったように思う。その時に見た雪は……故郷で見た白い大地と、とても似ているのに全く別物だった。指先が悴んで、手に吐きかけた息が目の前でかすかな霧のように広がっていく。酷い空腹で体は悲鳴を上げていた。そんな記憶だった。


「どうだったかな」


 はぐらかすように笑ってみせる。しかしスノウには、物悲しげな表情に見えた。


 アリスアイレス王国はフレイヤの豊穣期とも呼ばれる、比較的安定した暖かい気候だった。降る粉雪は軽く周囲を化粧する程度に積もっている。

 セフィライズは幌馬車の外側から周囲を確認すると、ギルバートが魔物の群を相手していた。それらは巨大なうさぎに見えるのに、二本の長い牙を持って向かってくる。

 セフィライズは幌馬車に積み込んだ弓を手繰り寄せた。迷いなく放つ矢は見事に獲物へと命中し、流れるようにもう一本、矢を取り狙う。スノウは横で、そんな彼の姿を眺めていた。


「お上手ですね」


「弓は微妙かな。扱いが難しい」


 スノウは、いつの間にか彼に自然と話しかけられる様になっている事に気がついた。そして彼もまた、自然と返事をくれる。いや、セフィライズは元々、寡黙ではなかった。スノウが勝手に、見た目からか、決めつけていただけかもしれない。


 アリスアイレス王国側には、かなり高頻度で休憩できる建物が整えられている。今はフレイヤの豊穣期だが、猛吹雪になり、前に進むのが困難という時期がある。ヨトゥンの寒冷期だ。移動する人達が遭難したり、困難な場合に備えて一時的に凌ぐ場所は一定間隔に整えられているのだ。


「かわろうか」


 セフィライズは馬に乗るギルバートへ、少し声を張り上げて言う。


「いや、いいよ! そこから援護してよ」


 ギルバートは馬をよせ、声が届く様に言った。


「それに、一応アリスアイレス王国のお偉いさんだし、僕達が護衛だから、ね!」


 ギルバートの言葉に、セフィライズは困ったように笑った。





 アリスアイレス王国側での移動は、寒さもあって進みが悪い。安全のため、日が落ちる前に休む。少しずつ少しずつ移動し、四日という時間をかけてなんとか到着した。


 遠くからでも目立つ、赤い煉瓦で作られた高くそびえ立つ城壁。何人もの兵士が警備に当たっているが、皆とても寒そうにしていた。

 アリスアイレス王国の門番は、質素な幌馬車に少人数で帰ってきたセフィライズに驚いていた。彼らの畏まった声が、幌馬車の中でひざ掛けに包まっているスノウに届く。

 王国内には先にセフィライズとレンブラントが入り、部外者であるギルバート達は詰所で一旦待機となった。


 詰所にいる何人かの兵士が、スノウの姿を物珍しそうに見る。この世界での一般的な髪色は黒から茶色、薄茶色がたまにいるぐらい。綺麗な金髪はかなり目を引く。そしてそれは、女性として価値のある色なのだ。スノウ自身もそれを理解している。だからこそ、彼女は髪を伸ばしたことが無かった。幼少期は、母親に丸刈りにされていたぐらいだ。

 それに加え、スノウの透明感のある翠玉色の瞳も珍しい。この世界の人達は黒から茶色。たまに青が濁ったような人もいる程度。

 噂をするように、小さな声で話す言葉がスノウの耳に届く。あまり気分のいいものではなかった。詰所にいるのが辛くなり、外へ出る。城壁に沿って停めた幌馬車の近くで、雪を集めるためにしゃがんだ。


 彼女は思う。自分はまだ、少し変わっているだけ。でも、彼は、どうだろうかと。スノウも初めて会った時に驚いた。その見た目から勝手にこんな人だろうと想像した。決めつけていたわけではないし、差別意識があったわけでもない。でもやはり。

 きっと、こんな気持ちなのかな。と、スノウは雪の上に残った自身の足あとを見ながら思った。

 ギルバートもいつの間にか幌馬車にもたれて外の景色を眺めている。すごい景色だねーなんて、独り言のように呟く。スノウが振り向くと、視線が合った。


「スノウさんは、これからどうするの?」


「わかりません。セフィライズさんのお仕事が終わったら、自由って言われたんですけど」


 どこか行く場所があるわけでもない。どうしたらいいか、なんていうのは、スノウが一番聞きたいことかもしれなかった。


「じゃあさ、よかったら僕を訪ねてきてよ」


「え?」


「ほら、治癒術師ってすっごい貴重だからね。みんな欲しいんだよ。変なところで働くぐらいなら、僕と一緒にどうかな」


「えっと、はい……考えておきますね」


 必要とされている。その事実はとても嬉しいと感じたのに、何故かスノウは喜べなかった。


 したいことってなんだろう。やりたいことって、なんだろう。

 自由になって、どこにでも行けて。でも本当はずっと、あの場所にいたかった。故郷で暮らしていたかった。だというのに、無理やりに自由という選択を迫られる。

 選びようもないものを目の前にして、選ぶという事から逃げる気持ちしかなかった。














本作品を読んでくださり、ありがとうございます。

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小説家になろうで活動報告をたまにしています。

Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。

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