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43.王国への帰路編 目的


「仮にそうだとして。どうして永遠の神ヨルムを甦らせる必要がある?」


 ギルバートは単純にセフィライズの話を聞き、疑問に思った。どう考えても、二人の話していた失われた物語からは、蘇らせる理由がわからない。何もいいことがなさそうに思う。


「魔術の神イシズはその身に膨大な量のマナを保有し操れたという。だとしたら、永遠の神ヨルムも」


「膨大なマナを持っている?」


「そう。そして今、この世界は深刻なマナ不足だ」


 大地から徐々にマナが薄れ、作物は育たず、気候は荒れる。唐突にはじまったものではない。ずっと昔から、ゆっくりとゆっくりと、失われていっているのだ。

 かつてはこの世界にも、マナを無限に供給する世界樹があった。しかし神々の時代にいつしか地表部分は枯れ、地下深くに眠る根のみとなった。供給されるマナの量は激減。そして二十六年前……突如として現れた壁が世界を分断すると、マナもまたその壁内部でそれぞれに減少している。今やこの世界からしてみれば、喉から手が出るほどほしいものだ。人が生きるためにも。


「セフィライズの推理通りなら、目的ははっきりしたわけだ。だからって、どこの誰だか知らないけど僕達の故郷をこんなふうにしていい理由にはならない」


 ギルバートは怒りを感じていた。目的は理解できる、しかしその手段に納得がいかなかった。しばらくの間、三人は沈黙する。考え出された答えを、それぞれが思案しているかのように。


「……とりあず、もうここに用事はないだろう。戻ろう」







 降りてきた階段まで戻り地上に出ると、スノウは太陽がとてつもなく眩しく感じた。乾いた風に金色の髪が乱れる。セフィライズ達はレンブラントの待つ馬車まで戻ると、アリスアイレスとの境界壁に向けて出発した。




 スノウは壁画の前で話した内容を思い出しながら馬車に揺られていた。乾いた大地の黄土色の砂が舞う。スノウには世界のマナ不足というのは実感がない話だった。馬車から見る景色は、荒廃している、とまではいかない。しかし、緑豊かで生命に溢れているか、と言われればそうではなかった。

 スノウがいた地域は、元々が砂漠でオアシスを中心に栄えている場所。最初から食料も何もかもが少なく、そして流浪の民が故に、作物を育てるということもなかった。マナがない大地では確かに何も育たない。


「お、見えてきた!」


 馬に乗ったギルバートの視界に壁の揺らめきが映る。魔導人工物(アーティファクト)が設置された門の手前までくると、多くの荷物や馬車の残骸がまだ残っていた。昨日、壁が荒れた時に残された物だろう。取り残された荷物は、既に誰かに荒らされた後のようで、かなり散乱していた。人の姿は無く、静まり返っている。


「ここの門が通れるようになるまで、時間かかりそうだね」


 彼らはそれぞれにレンブラントから受け取った防寒具を着込んだ。まだ、こちら側で着るには暑くて仕方ないが、壁を超えればすぐ冬国。セフィライズいわく、今はまだ暖かいらしく、雪はさほど積もっていないらしい。

 防寒具を着込み終わり、いつもの癖なのかフードを目深に被ったセフィライズが馬車から降りてくる。その姿に、ギルバートは苦笑しながら声をかけようかと思った。しかし先に声をかけたのは、スノウだった。


「フードは、しなくて大丈夫ですよ」


 セフィライズは指摘されると素直にフードを外した。やはり慣れないように顔を下に向ける。彼は壁の目の前まで移動し、門に設備されている魔道人工物(アーティファクト)の位置を確認した。壁に向かい、手をかざす。


「我ら、世界を創造せし魔術の神イシズに祈りを捧げ、我の前に立ち塞がりし残痕を払う力を我に。今この時、我こそが世界の中心なり」


 セフィライズから発せられた言葉に反応しマナが集まり、目の前の壁に穴が開く。馬車も、人も、余裕で通れる程に巨大な穴の向こうから、冷たい風と雪が吹き込んできた。セフィライズが壁の間に立ち、手を上へと高く突き上げる。その間に、彼らはアリスアイレス王国側へ通り抜けた。


 スノウにとっては、初めての雪。アリスアイレス王国が寒くて、雪がとても冷たい、というのは知っていたが、ふわふわした見た目に彩られた世界は、彼女にとってとても新鮮なものだった。幌馬車から落ちんばかりに身を乗り出し、降り続く雪に手を伸ばす。握りしめると、それはすぐに消えてしまった。スノウの吐く息で視界の前に白い靄が浮きでる。目新しさに、何度も何度も息を吐く。


「寒い……」


 呼吸をしすぎて、取り込んだ冷たい空気に体が冷やされてしまった。スノウは震えながら体を抱きしめる。

 幌馬車が通り抜け終わったのを確認し、セフィライズは壁を閉じる。幌馬車に戻り、取り付けた小瓶の形の魔道人工物(アーティファクト)に触れた。起動の為に魔術の言葉を紡ぐと、すぐに幌馬車内がふわっと暖かくなる。


「大丈夫か?」


「はい、ありがとうございます」


 セフィライズは彼女に用意していた膝掛けを渡し、隣に座った。







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