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42.王国への帰路編 壁画


「大丈夫か、二人とも」


 ギルバートが二人の様子を見て不思議そうに首を傾げた。

 我に返ったセフィライズが「なんでもない」と発し、彼の元へ進む。ギルバートが指差す、破壊された祭壇の中央。崩れた石碑の欠片を拾い上げた。何か文字が書いてあるも、バラバラになっているそれらからは読み取る事ができなかった。残った一部の短い単語をセフィライズが見るに、どうやら普段彼らが使う文字ではなさそうだ。


「……古代語、か」


「僕にはさっぱりだけど、セフィライズは読める?」


「……単語なら少しは」


 白き大地は古い遺跡が多く、重要な歴史を記した石碑なども数多くあった。それらはほとんど今は使われていない文字だ。教養の一つとして、セフィライズもそのうち覚える事にはなっただろう。ただ、彼が六歳の頃に戦禍に沈んだ故郷。本当に、触りしかわからない。

 セフィライズは膝をつき、剣を地面へと置いた。文字の書かれた欠片を集めて並べる。


「マナ、こっちは穢れ。結ぶ……これは眠る、かな……」


「もう崩れてるし、どの順番で読むかもわからなかったら、単語が読めてもさっぱりだね」


 ギルバートはあたりを見渡しながらため息をつく。周囲には、この祭壇以外何もなさそうだ。この場所が行き止まりなのか、再び周囲を歩いてみる。しかし、どこにも続く道はなかった。危険はなさそうだと手に持つ剣を鞘に戻し祭壇に戻ってくる。

 スノウはゆっくりと壁画へと歩み寄り、それを見上げていた。目を細め、自身の記憶を呼び起こすかのように。彼女の記憶の中の壁画と、全て一緒なのかどうかは判断つかなかったが、限りなく似ているそれ。


「で、こっちの壁画は?」


 ギルバートがスノウの横まで来て並び、一緒に壁画を見上げてながら腰に手を当てた。巨大すぎて上の方は見えにくい壁画。首が痛くなりそうだと彼は思った。


「世界樹……神々の時代には、まだ地上にあった」


 セフィライズは壁画から目を逸らしながら言った。ギルバートが感心したように「ヘぇ」と呟く。


「つまり、ここはそれだけ古い遺跡ってことか。そういえば、白き大地の民も、長く魔術の神イシズの遺跡を守ってきたんじゃなかったっけ。信仰の中心地だったと思うんだけど」


 ギルバートは、膝をついて石碑の欠片を見たままの状態でいるセフィライズに問いかける。彼は話題を振られ、言葉に詰まっている様子。


「わたし……この壁画ととても似たものがある神殿で、母がよく語ってくれた物語があるんです」


 唐突に、スノウは祈りを捧げるように手を合わせた。子供の頃、この壁画に似たものがあった祭壇に祈っていたように。

 大昔、神々と世界樹が地上にあった時代の話。しかしもうほとんどが、失われている。

 彼女は母が話した物語を紡いだ。


「いと暗き、道に落ちた神も人も、救うことはできない。永遠は、人を惑わす幻想。神はそれを永久(とこしえ)に眠らせる。人の子よ、今を見よ……母が昔、教えてくれたお話です。何事も終わりが来るから、目の前の人を大切にしなさいって意味だと、教えられました」


 人の間で長く口伝いに残されたお話は、どこかで歪んで、そして後の世に伝わっていく。スノウが話したそれも、まさしく口伝いに残された、失われゆく物語。


「私も、見たことがある。この壁画を……白き大地で……」


 スノウの話に感化されたのか、セフィライズも思い出を辿るように声を発する。

 白き大地、セフィライズが生まれ育った場所。そして、無くしてしまった故郷。それは白い山脈に囲まれ、白い砂と白い石で作られた過去の遺跡が立ち並ぶ場所だ。魔術の神イシズを祀り、信仰していた民族。神々の時代に地上にあったとされる世界樹もまた、その場所に生い茂っていたと言われている。


「魔術の神イシズを祀る祭壇の壁画と一緒だ、そして私も、伝えられた話を知っている」


 セフィライズは記憶の糸をたぐるように、言葉を選ぶ。口伝いに残された、失われゆく物語を。


「永遠は人を惑わす幻想。求めるが故に争い穢れ、そして死ぬ。永遠の神ヨルムは人を惑わし、飲み込む。魔術の神イシズは穢れた神を七つに裂き眠らた。二度と蘇らせてはいけない。この神は、人に幸福をもたらさない」


 セフィライズが語るのは、白き大地の民が信仰していた魔術の神イシズの逸話。しかし、彼女の話す物語と酷似しているように、彼らは感じていた。


「スノウは、癒しの神エイルを信仰していたな」


「はい、母も祖母も、ずっと昔から。眷属である一角獣(ユニコーン)と契を交わして、癒やしの力を得たと教えられました」


 信仰の残る地域に伝えられる物語。神を祀る祭壇近くに住んでいた民族。スノウが神殿で見たものと、セフィライズが見たものは、おそらくは同じ壁画。

 タナトスの群れがコカリコの街を襲い、大きな穢れの塊のような生き物がこの穴に潜り込んで何かをしていた。「足止め終了」といっていた、黒衣の男女。デューンとネブラの言葉。この場所で何かをしていたのは明らか。最初に壁から出てきた時は、頭と左腕だけが実体化していた怪物、ウロボロス。そしてセフィライズ達が今いる祭壇から出てきたそれは、右腕が実体化していた。

 セフィライズの中で、何かが結びつく。


「これは、永遠の神ヨルムを封印していた場所、なんじゃないのか」


 彼らの目的は、永遠の神ヨルムを蘇らせる事ではないのだろうか。そして、あのウロボロスと呼ばれた怪物は、七つに裂かれた体を取り込んでいる。





 


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