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41.王国への帰路編 祭壇


 ギルバートとセフィライズの二人でガーゴイルの像があった場所、今は大穴が開いている付近まで行こうとする。彼らにをスノウは幌馬車から身を乗り出して声をかけた。


「わたしも行きます!」


 車輪の分高い幌馬車から、スノウは慌てて飛び降りた。セフィライズからそのまま乗っているように指示されるがしかし、彼女は従わず彼らの元へ向かう。


「行きます」


 スノウはセフィライズの目の前で止まり、彼を見上げた。頭一つ分上、困惑した表情をしている。わかりやすいため息を彼が吐いた。


「わかった」


 素直に折れたセフィライズを見て、ギルバートはニヤついた。馬から降りて、セフィライズの耳元で「早速尻に敷かれてるわけだ」と囁く。彼は怪訝な表情を見せた。


「何を言っても、無駄なだけだ」


 その物言いに、ギルバートは喉の奥を鳴らして笑った。セフィライズは今一度、スノウに自分たちから離れないように、と念押しする。しっかり頷いた彼女だが、彼はその同意を半分で受け取った。




 深い窪み、穴だと思っていたそれを覗くと、地下へと続く階段が見えた。奥は暗く、降りていくのは困難に思える。

 ギルバートは明かりになるものを取りに引き返そうとする。セフィライズがそれを止めた。腰ベルトに引っ掛かっている麻布の袋から、鉱石を一つ取り出した。マナを多く内包した特別な結晶、魔鉱石だった。各地で採掘されているが、アリスアイレス王国が主な産地。大きな魔鉱石を抱える山脈が王都の後ろに連なっているのだ。

 セフィライズは石を手のひらに乗せ、自身の目の前まで上げる。瞳を閉じ、息を吸った。


「我ら、世界を創造せし魔術の神イシズに祈りを捧げ、沈黙の欠片に標たる光明を灯せ。今この時、我こそ世界の中心なり」


 セフィライズの手のひらに乗せた石が少しだけ浮き上がる。彼の詠唱でその石は、仄かな光を灯した。浮いたそれを導くように手を動かし、階段の先へ。光は強くなり、周辺を照らした。


「さすが」


 セフィライズの肩をたたき、ギルバートが剣を抜く。先に階段を降りながら、闇の先を屈むように覗いた。


「念の為、剣を抜いて行こう」


 セフィライズも剣を抜き、階段を降りようと進む。後ろに立つスノウに、手を伸ばした。


「足元に、気をつけて」


 セフィライズの手を掴み返し、整わない石で作られた階段に、スノウは一歩踏み進んだ。

 セフィライズが灯した魔鉱石だけが、この暗い階段の先を照らす。灯火が彼らの抜き身の刃に反射していた。丁寧に削られた平らな壁面に光が映る。模様はどこか、あの壁に揺蕩う光を思わせた。


 彼らが深く進むと階段は途切れ、平らな道へ。足元は歩きやすい程度に整えられている。あきらかに人の手で作られたものだ。周辺の警戒にセフィライズとギルバートは意識を集中させる。

 唐突に、彼らの目の前が開けた。灯した魔鉱石の光量だけでは到底足りない大空間らしき場所。セフィライズは光を灯した石を目の前まで浮かせて移動させ、剣で砕いた。

 砕かれた石は光を宿したまま浮き上がる。セフィライズの手の動きに反応し、周囲に広がった。強く発光し、その空間をはっきりと照らす。

 彼らの目の前に浮き上がったのは、巨大な神殿だった。祭壇のように祀られた石は砕かれ、既に跡形もない。その背面には、圧迫感を覚えるほどに巨大な壁画。


「これは……」


 ギルバートが先に進んだ。祭壇の方まで上がり、壊れた石碑のあたりにくる。振り返るとセフィライズとスノウが壁画を見て呆然としていた。


「わたし、これを、見たことがあります」


 スノウは祭壇の後ろ、壁画を指差す。大樹が広く横に伸び、豊かな自然、太陽と二つの月、巨大な木が描かれている。その大樹の地面の先に描かれた根は長く伸び、円を描いたものを包み込んでいた。円の中には幾重にも花びらが折り重なり、浅く開いて咲く花。そしてその花から幹へと光の筋が伸び、大樹の葉先から世界を満たしているようだった。


「子供の、頃に。癒しの神エイルを祀った神殿の中で、見ました。月が重なる時に祈りを捧げるんです」


 スノウは隣に立つセフィライズの方を見る。彼女の話を聞いているのか、いないのか。彼は目を大きく開き、その壁画を見つめたまま立ち止まっていた。



 それは、古い記憶。

 

 焼けた建物、崩れる神殿、人々の畏怖の声、剣を振りかざす父、兄が差し出す手。

 脳裏に映る、その時のこと。



「セフィライズさん……?」


 呼ばれてふと、彼は我に返る。思い出したくもないものが、一瞬にして頭の中を駆け巡り、眩暈がした。






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