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27.宿場町コカリコまで編 到着




 次の日彼らは馬車に乗り出発した。途中、馬を休ませる以外は宿場町までまっすぐ。寄り道をする事なく進む。ごくたまに、コンゴッソへ向かう人達とすれ違うこともあった。


 揺れる馬車。スノウはゆっくりと顔を上げる。目の前にいるセフィライズは窓の外をぼんやりと眺めているようだった。昨日まではこの、会話のない空間が気まずかった。しかし今日は、なんだか平気だと思う。

 セフィライズは他の人とは違う雰囲気をまとっているように見える。他とは違う色の髪、目、肌。彼の特別な見た目。生きているのだけれども、生きていないような。

 スノウ自身も無意識にセフィライズのことを、特別な人として見ていたのかもしれない。でも、彼は多分、普通の人。ほかの人達とそんなに変わらない。そう思うのだ。


 ふと、彼と視線が合った。窓の外に向かっていたセフィライズの、透き通った瞳。スノウは不意にドキリとして、体を強張らせた。困ったように目を泳がせている。何か話そうとしたのか、その薄い唇がゆっくりと開くも、セフィライズは何も言わずにまた視線を外に戻していた。

 伏し目がちな瞳に、銀色のまつげがかかっている。


 なんだかとても、寂しそうな目をする人だなとスノウは思った。





 スノウは次の野営から準備の手伝いを申し出た。セフィライズは何も言わず、また彼もスノウと共に手を貸してくれる。そんな2人を、レンブラントが黙って見つめていた。


 ギルバートと仲間達は最初こそ慌てていた。どうしようかと全員で困っていたようだが、彼らはすぐに打ち解けることができた。

 世間知らずで周りを困惑させるスノウは、どこか抜けていてバタバタと忙しそうに手伝う姿が微笑ましかったから。男ばかりの中に唯一の女性ともあって、彼女がいると雰囲気が和む。

 逆にセフィライズは、まるで野営を幾度となく準備してきたのかと聞きたい程に手際が良かった。それに関して、ギルバートが何か聞きたそうにしていたが、気が付かないふりをして会話を避けているようだった。


 ギルバート達と打ち解け、この雰囲気がずっと続いたらきっと楽しいだろうに。そうスノウが思う頃、予定していた通り宿場町コカリコに到着した。町で、移動中に減った分の装備を補填する。しかし翌日にはもう出発だった。午前中の門を通る予定だ。

 スノウは、明日にはまた集まるというのに、一旦は解散してしまうもの悲しさを感じていた。


「君はどうする?」


 ギルバートと明日までの別れを挨拶していたスノウは、唐突に聞かれて驚いた。どうする、と言われても。彼女にとっては初めての町だ。


「どうする、とは……。どうすれば、いいでしょうか?」


 心の底から戸惑う彼女に、セフィライズは少し笑ってしまう。彼もまた少し考えたあと「一緒に行こうか」と聞いてくれた。それは何処へなのか、スノウには分からなかったが、何処かに行きたかったわけでもない。「はい」と、素直に彼に従った。


 壁へ一番近い経由地点だけあって、多種多彩な物資が集まっている。道沿いの露天でも店が開かれ物を売り買いし、多くの人がすれ違う。黄色い土壁の建物が、ずっと通りの向こうまである。そのほとんどが宿というのだから、驚いたものだ。街の中央には巨大な石像がある。何の変哲もない、大きなガーゴイルが四匹。各方面を向いている。そしてその四方向に向けて道が走り、町が形成されていた。


 セフィライズはフードを目深にかぶり、人を少し避けるようにして歩く。しかしその白いフード付きマントは、わかりやすくアリスアイレス王国の紋様があしらわれている。スノウが着ている服も一緒で、それはこの町では酷く人目についた。


「君だけでも、服を用意しようか」


 セフィライズが気を使ってくれるが、共に行動するなら一緒だろうと断った。やはり髪色を見られたくないのだろう。何度かフードの端を引っ張り気にする素振りを見せる。確かに、彼という人を知らなければ、きっと特異な目で見られてしまうだろう。スノウが知らないだけで、どうやらとても有名人のようだし、それが尚更、人目を避ける理由かもしれないと彼女は思った。


 セフィライズはとりあえず露天で飲み物を購入し、スノウに手渡してくれた。この町でも有名な果実をすりつぶして出来たものらしい。甘酸っぱく、独特な何かが鼻を抜ける。なんともいえない風味。


「独特ですね」


「あぁ……」


「飲んだこと、あるんですか?」


「いや、」


 何か続けようとした言葉を飲み込んだように見えた。風がふくと、彼はフードの端をまたつまむ。


 彼は何か他に必要か聞いてくれたが、かといってスノウ自身はあれもこれも、なんて言う性格でもない。

 しばらく町を歩いた後、レンブラントが手配していた宿に行くことになった。


「気にされているんですね」


 スノウがフードを指摘すると、下を向き気味だったセフィライズが顔を上げた。


「その……まっすぐこちらに来られても、よかったのではないでしょうか」


「君が……いや……なんでもない」


 君が、きっと町を見たいだろうと思ったから。セフィライズはそう続けたかったが、やめた。彼女に確認をしてもいない。ただそう、セフィライズが思ったからだ。それは少し、彼女に失礼な気がした。





本作品を読んでくださり、ありがとうございます。

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小説家になろうで活動報告をたまにしています。

Twitter【@snowscapecross】ではイラストを描いて遊んでいます。

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