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25.宿場町コカリコまで編 本気



 スノウは2人の気迫に圧倒され、何故か胸に痛みを感じた。心音が耳元で聞こえるようだ。

 2人が持つのは本物の剣。相手に届けばどうなるかなんて、想像に容易い。怪我をしてしまうかもしれない。いや、もしかしたら……。それが、自らの合図で始まるのが怖いと思った。それでも。


「お願いします!」


 スノウの声とほぼ同時、再びギルバートが先に動いた。彼の振るう剣に殺気が籠もっているように見える。

 相手を、本気で切り落とすつもりなのだろうか。


 シュンッ−−−−


 ギルバートが切ったのは空気。そしてセフィライズが立っていた場所の大地だった。セフィライズは軽々しくそれを避けていた。しかし、ギルバートには見えていたようだ。先程と同じ避け方、位置。


 「見えているぞっ!」


 ギルバートは剣を片手で持ち、地面の砂を握りしめセフィライズに向かって投げた。それに一瞬怯んだ彼に向けて、次は剣ではなく足を使い、その腹を蹴り上げる。

 セフィライズは背に当てていた左腕を使い、咄嗟にギルバートのその足を受け止めていた。自身のその行為に、一瞬戸惑っている様子だった。

 ハンデのつもりだった。片腕を使わないつもりで腰に回していたのだ。しかし、咄嗟に使ってしまった。

 その戸惑いに漬け込むかのように、ギルバートが再び攻める。


 大地の砂を捻るように足を踏み出す。振り上げが大きければ隙が出来やすい。セフィライズの速さを実感していたギルバートは、最小限に剣を上げ、しかし出来るだけ高く。そして勢いよくそれを振り下ろした。

 セフィライズは気迫に押され、自身の持つ剣を使ってギルバートの刃を受け止める。


 キィイインとお互いの剣が干渉し合う。耳を(つんざ)く音が響いた。


 セフィライズは体勢を低く、片手を地面につくとその腕を軸に体をねじり、その場から宙を浮くかのように離れていった。




 −−−−行ける。相手を押している。


 逃げるように離れたセフィライズを見て、ギルバートは確かな実感を得た気になった。しかし、すぐにその確信は揺らぐ。

 セフィライズの雰囲気がまた変わったのだ。うっすらと浮かべる笑みは薄く、そして鋭い。明らかに先ほどまでとは違う。彼の周りに冷気が見えるかのようだ。痛みを伴うような空気が漂っている。



 セフィライズは大きく息を吐く。自身の体全てに、何かを行き渡らせるように。先程とは違う形で剣を持つ。片手はもう、背中ではない。


「やっぱり。さっきまでは、舐められていたわけですか」


 セフィライズはなんとなく、少しだけハンデをつけたほうがいいかと思っていたのだ。彼は弱くはない。しかし、力量を考えれば必要ではないか、と。

 黒髪に染め変装をし、ギルドを使って何かしら行う時。黒曜の霜刃としてのセフィライズはギルバートと幾度か共に依頼を受けた。その時のギルバートの姿から考えた結果だった。



「結果的にそうなった。それはすまない」


 謝罪の言葉を口にした瞬間、セフィライズはギルバートに仕掛けるべく走り出した。ギルバートもまた剣を振り応戦する。白刃が何度も何度もぶつかり合った。


 ギルバートの攻撃を、まるで浮いた雪が風で舞うかのように軽々しく避けている。それを、地面にしっかりと足をつけながら旺盛するギルバート。


−−−−これが、氷狼(フェンリル)ッ……


 ギルバートには見えた。はっきりとだ。

 まさしくセフィライズの銀髪が、肢体が、冷気をまとっているのだ。


 そして、その絶対の、牙と爪を。


「速いッ……」


 ギルバートは体を捻り、その勢いで剣を横に薙ぎ払い攻撃する。しかしセフィライズが軽々しくその太刀を避けていた。剣先が、その銀髪の端にすら掠らない。

 もう相手を怪我させてしまう、などという甘い感情はギルバートからは消え去っていた。どこでもいい、顔でも、肩でも、胴でも。剣を相手に突き立てる、刺し殺す勢いで。


 2人の本気に、いつの間にかギルバートの仲間達はみんな起き上がっていた。誰も声を出さない。それにスノウが気が付きあたりを見渡すと、真後ろにレンブラントも立っていた。


「あ、あの、あの、、レンブラントさん、これは」


「結構ですよ。ああなってしまいましたら、止めようがありませんから」


 レンブラントは珍しく深いため息をついた。


「でも、もしもの事があったら……」


「もしも、ですか? あの方に限って、もしもなんてことはあり得ません」


 レンブラントのあまりに確信したような言葉に、スノウはただ戸惑うしかない。本物の剣で切り合っているのに、怪我を負うどころか、死、すらあり得るかもしれないというのに。


「もう終わります」


 レンブラントの言葉で、スノウは再び視線を戻した。

 ギルバートが何度目かの剣を彼に振り下ろすも、幾度となく弾かれる。その度にセフィライズの華奢な腕が押し返して来ているとは思えない衝撃が伝わった。すでに剣を持つ手が痛みだしている。この力に耐えきれない。

 ギルバートの一瞬の隙に、セフィライズは体を極限まで下げ、ギルバートの足を蹴り回した。


――――チッ! 転けるっ……!!


 そのまま視界が揺らぐ。転倒を免れるために無茶に剣を振り回した。それすらも、セフィライズの一太刀によってあっさりと弾かれる。ギルバートの既に耐えきれなくなった手が剣の柄を離してしまうと、回転しながら地面に刺さった。

 倒れ込むギルバートは最後の悪あがきに剣へと手を伸ばす。届けばまだ、いけるかもしれない。

 突き刺さった剣の柄を掴む。そのギルバートの背後をセフィライズが取った。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 本格的な戦闘シーン! 初手目眩ましから始まり、剣戟が繰り広げられるのは熱い展開です! こういうの大好物です。
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