18.コンゴッソの夜編 再会
「何をしている……!!」
セフィライズはスノウの手を引いて建物の間へと押しやった。薄闇に包まれた場所で、彼は抑えていた感情をそのまま声に乗せる。スノウはただその暗闇と同じ色の瞳を見つめ返すことができず、言葉も発することができなかった。いきなりのことで、混乱していたのだ。
「……すまない、スノウ。なぜ、こんなところに?」
彼女の戸惑いや驚きに気がついたセフィライズは、胸へ手を当て息を整える。頭がクラクラするとでも言いたげに、額に手を当て大きなため息を吐く。まさか、夜に一人で出歩いたりするなんて想像もつかなかったからだ。
「す、すみません。わたし……明日すぐ、この街を出ると聞いたので、最後になると思って。その……あなたに、会いたくて」
会いたかったなどと言われると思っていなかった。すみませんと言葉を重ねるスノウに、セフィライズはなんと返事していいかわからなかった。
「会いたかったって……」
どう考えても、奴隷商の護衛でしかなかったはずだ。それなのに、どうしてそういう考えに至るのか、全く理解できない。
「はい、でも……」
スノウは言葉を続けたかった。しかし続けられなかった。心の声を、気持ちを、表現する方法がないと思ったからだった。
心が取り出せればいいのに、出した心を直接見せて、説明できたらいいのに。スノウは胸に手を当てて目を閉じる。言葉にできないのだ、あの時の会話も全て。
金の為に助けただけと理解している。でも、彼女にはそう思えなかったのだ。そう思いたかっただけかもしれないけれど。どこか、違う気がした。
「……夜に、出てきて……見張りか何かがいたんじゃないのか」
「窓から、その……屋根の上を歩いてきました」
その返事に、セフィライズは口元を押さえ顔を下に向けた。不思議そうにスノウが顔をあげると、彼はクックっと喉を振るわせている。
「窓から、出たって……君が……? ハハッ、案外やんちゃなんだな」
セフィライズが声をだし笑うものだから、スノウは段々と恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。やめてくださいと顔を両手で隠した。それでも笑っている。
「いや、すまない……笑うことではないな、しかし、すまない」
笑いを抑えようとするセフィライズは、口元に手をあて隠す。しかし最後の笑顔はとても優しそうで、茶色の瞳がとても温かくて、スノウの心にろうそくが灯るかのような感覚が広がった。
「一人でうろうろするのは危ない。いくらアリスアイレス王国の庇護下にあるとはいえ。特に、夜は危険過ぎる」
ひとしきり笑ったセフィライズが、気持ちを落ち着け直してから冷静に指摘する。
「宿まで送ろう、その後は、わかっているね?」
「はい」
宿から出るな。という事が言いたいのは、百も承知だろう。歩き出したカイウスの後ろに、彼女はついていく。あの時と同じように。しかし、あの時と違い足場の悪くない道、彼は手を引いてはくれなかった。それを、どこか寂しいと感じている自分に、スノウは恥ずかしくなった。
手を、引いてもらいたい。と、思うだなんて。
裏路地は薄暗い。二つの月が蒼白い光で照らしてくれるものの、はっきり見えるものではなかった。日中は暖色の街を冷たい色に染める。
彼の隣に並んで見ようかと、スノウは少しだけ足を早めた。その時、セフィライズの手が、彼女を止めた。
スノウが彼の名を呼ぼうとする声を「シッ!」と静止する。彼の張り詰めた雰囲気に何かを察した。
「そこにいるだろう。出てこい」
静かで、しかし鋭く低い声。睨みつけるように一点を見つめている。建物の影から男が2人出てきた。そっとスノウを守るように手を広げる。
「まさか気付かれるとは思ってなかったけどなぁ。あんたが、黒曜の霜刃か?」
「おおっと、隣にいるのはギルドで見た女ですぜ。どうします、こいつは殺ったら揉めますぜ」
「確かに、女は想定外だ。手ぇ出すな」
ケタケタと嫌な笑いをする男は、背がわざとらしく曲がり腕をぶら下げているような立ち姿だ。手には程よい長さの剣を握っている。その剣をわざとらしく振るうと、また嫌な笑みをこぼした。
「黒曜の霜刃さんよぉ、あんた確か、金貨10枚……持ってったよなぁ?」
「あんなに見せびらかされちゃ、狙ってくれって言ってるようなものだと思わないのか?」
男2人が抜身を構える。セフィライズはスノウに後ろに下がっているよう指示をした。
しかし、スノウが彼の服の裾を掴み首を振る。自分に何かできるわけでないとわかっていても、黙って下がることなどできなかったのだ。
「問題ない。そこの壁のそばで、待っていて」
裾をもつ手に、セフィライズの手が重なる。彼女の肩を軽く押した。




