表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/384

18.コンゴッソの夜編 再会


「何をしている……!!」


 スノウの手を引いて建物と建物の隙間に押しやると、セフィライズは感情を露わに声を出す。スノウはただその暗闇に飲まれているような瞳を見つめ返すことができず、言葉も発することができなかった。いきなりのことで、混乱していたのだ。


「……すまない、スノウ。なぜ、こんなところに?」


 彼女の戸惑いや驚きに気がついたセフィライズは、胸へ手を当て息を整える。頭がクラクラするとでも言いたげに、額に手を当てた。大きなため息まで出てしまう。


「す、すみません。わたし……明日すぐ、この街を出ると聞いたので、最後になると思って。その……あなたに、会いたくて」


 会いたかったなどと言われると思っていなかった。すみませんと言葉を重ねるスノウに、再び大きくて深いため息をつくしかない。


「会いたかったって……君を売ったんだぞ?」


「はい、でも……」


 言葉を続けたかった。しかしスノウは続けられなかった。心の声を、気持ちを、表現する方法がないと思ったからだった。

 心が取り出せればいいのに、出した心を直接見せて、説明できたらいいのに。スノウは胸に手を当てて目を閉じる。言葉にできないのだ、彼に対する想いを。助けてくれた、あの時の会話も全て。

 金の為に助けただけかもしれないとわかっている。でも、彼女にはそう思えなかったのだ。事実であったとしても、心の中で違うと思っていたいだけなのかもしれない。それでも。


「……夜に、出てきて……見張りか何かがいたんじゃないのか」


「窓から、その……屋根の上を歩いてきました」


 その返事に、セフィライズは腹を押さえ顔を下に向けた。不思議そうにスノウが顔をあげると、彼はクックっと喉を振るわせている。


「窓から、出たって……君が……? ハハッ、案外やんちゃなんだな」


 セフィライズが声をだし笑うものだから、スノウは段々と恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。やめてくださいと顔を両手で隠した。それでも笑っている。


「いや、すまない……笑うことではないな、しかし、すまない」


 笑いを抑えようとするセフィライズは、口元に手をあて隠す。しかし最後の笑顔はとても優しそうで、茶色の瞳がとても温かくて、スノウの胸にろうそくが灯るかのような感覚が広がった。


「一人でうろうろするのは危ない。いくらアリスアイレス王国の庇護下にあるとはいえ、特に、私に会いに来るなんて、危険過ぎる」


 ひとしきり笑ったセフィライズが、気持ちを落ち着け直してから冷静に指摘する。


「宿まで送ろう、その後は、わかってるね?」


「はい」


 宿から出るな。という事が言いたいのは、百も承知だろう。歩き出したカイウスの後ろに、彼女はついていく。あの時と同じように。しかし、あの時と違い足場の悪くない道、彼は手を引いてはくれなかった。それを、どこか寂しいと感じている自分に、スノウは恥ずかしくなった。


 手を、引いてもらいたい。と、思うだなんて。


 裏路地は薄暗い。二つの月が蒼白い光で照らしてくれるものの、はっきり見えるものではなかった。日中は暖色の街を冷たい色に染める。

 彼の隣に並んで見ようかと、スノウは少しだけ足を早めた。その時、セフィライズの手が、彼女を止めた。

 スノウが彼の名を呼ぼうとする声を「シッ!」と静止する。彼の張り詰めた雰囲気に何かを察した。


「そこにいるだろう。出てこい」


 静かで、しかし鋭く低い声。睨みつけるように一点を見つめている。建物の影から男が2人出てきた。そっとスノウを守るように手を広げる。


「まさか気付かれるとは思ってなかったけどなぁ。あんたが、黒曜の霜刃か?」


「おおっと、隣にいるのはギルドで見た女ですぜ。どうします、こいつは殺ったら揉めますぜ」


「確かに、女は想定外だ。手ぇ出すな」


 ケタケタと嫌な笑いをする男は、背がわざとらしく曲がり腕をぶら下げているような立ち姿だ。手には程よい長さの剣を握っている。その剣をわざとらしく振るうと、また嫌な笑みをこぼした。


「黒曜の霜刃さんよぉ、あんた確か、金貨10枚……持ってったよなぁ?」


「あんなに見せびらかされちゃ、狙ってくれって言ってるようなものだと思わないのか?」


 男2人が抜身を構える。セフィライズはスノウに後ろに下がっているよう指示をした。

 しかし、スノウが彼の服の裾を掴み首を振る。自分に何かできるわけでないとわかっていても、黙って下がることなどできなかったのだ。


「問題ない。そこの壁のそばで、待っていて」


 裾をもつ手に、セフィライズの手が重なる。彼女の肩を軽く押した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ