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12.オークション編 鑑定


 スノウは石造りの薄暗く狭い居室に入れられていた。扉は鉄板と下部に大きな格子窓。壁の高い位置には、人の頭ほどもない小さな穴がひとつ開いていて、そこからかすかな光と砂埃が落ちてくる。その穴が地面に通じているのだと気づいた時、ここが地下だと悟った。何に使われたか想像をしたくない鉄の鎖や拘束具が乱雑に床に落ちている。どこからともなく水滴の音が響き、スノウは扉のすぐそばに身を寄せ、膝を抱えて小さくうずくまっていた。

 涙はとうに枯れてしまったのか、もう声すら出なかった。閉じた瞼の闇の中では、懐かしい故郷の砂漠が広がっていた。当時の彼女には特別でもなかった場所だ。そのカルナン連邦砂漠地帯の風景。体を飾り、芸を披露しては日銭を稼ぎ、次の町へと移動する。旅芸人のような暮らし。幸せかと問われれば答えに迷う、決して恵まれた日々ではなかった。

 それでも今となっては、あの風の匂いも、砂に焼けた空気の感触も、胸が痛むほどに懐かしかった。


 石階段を降りてくる足音が、地下に重く響いた。スノウは顔を上げ、鉄扉の格子越しに暗い階段を見つめる。

 姿を現したのは、彼女をここへ連れてきた男と、そして、その後ろにもう一人。

白いフードを深くかぶり、顔を影に隠した人物だった。無骨な石壁に囲まれたこの地下牢の中では、ひどく場違いに見える。フードの裾には赤い布地、その上に金糸で幾何学模様が刺繍されていた。淡い光の下でも、その繊細な輝きははっきりとわかるほどで、いやがおうにも上質さを主張していた。


「こちらです、こちらの……そう、こいつです。白き大地(フヴィートル)の民」


 その声に、スノウは白き大地(フヴィートル)の民の子供が同じように捕まった、というギルドでの話を思い出した。

 鉄扉が開く音。男が中にいた小さな子供の頭を掴み、ローブの男に見せるように顔を持ち上げている。その子供の髪は白く、肌は汚れいていた。力が入らないのか、それとも意識がないのか、体はゴムのようで何をしても声すら出さなかった。


「銀髪に、銀の瞳。白い肌を持つ種族。白亜は最近偽物もよく出回るので」


「……残念だが、その偽物だ」


 白き大地(フヴィートル)の民の蔑称である白亜。彼らの髪と目は銀色だ。しかしその子供は、髪は確かに白いが、白すぎる。白髪なのだ。視力を伴っていなさそうな虚ろな瞳も濁った灰色だった。


「そうですか、やはり。もう二十年ぐらい前でしたっけ。流石にこんな小さな子供が、すんなり捕まえられるわけないとは思っていましたよ」


 生き残った人々が、まったくいないわけではない。だが、その数はごくわずかだ。

 リヒテンベルク魔導帝国は、かつて彼らを惨殺しておきながら、今になってその特別な存在を必要としている。そんな噂が流れている。実際、帝国が彼らを集めているという話もある。

 さらに帝国は、稀有な力を持つ異端者たちにも強い関心を示していた。少数民族を弾圧し、「神の名のもとに選ばれた我らが導かねばならない」と世界中に宣言しているのだ。


「ありがとうございました。あと、こちらも見て頂けますか」


 鉄扉を閉めた男達がスノウの方へ振り返る。彼女は慌てて顔を俯かせ背を向けた。革靴が石造の床に当たる音が近づいてくる。スノウの鉄扉の前に立ったのがわかり、彼女は身を引いて頭を膝に抱えた。


「ここにいる娘は、癒しの力を使うとのことですが……」


 鉄扉を開けようとする金属の擦れる音に、スノウは耳を塞ぎたくなった。何をされるか分からない恐怖で震え、体を小さくする他ない。


「開けなくてもいい、彼女は……本物だ」


「そうですか、それはよかった」


 扉は空ききってはいなかった。スノウの姿は、彼らには闇にまぎれた白い布切れの上に蒲公英(たんぽぽ)が乗っているようにしか見えなかっただろう。

 何も確認せず、男達は去っていく。スノウは恐る恐るその後ろ姿を見た。

 ふと、長いローブを纏いフードで顔を隠す細い影が、カイウスに見えた気がした。しかし、それは絶対にないと首を振る。

 スノウは膝を抱え、まだ俯くことしかできなかった。





 





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