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10 空と大地の太陽

7月の後半、夏が始まった頃のお話しです。

 梅雨が明けて一週間が経った。

 陽射しは一気に温度を上げ、空冷バイク乗りはオーバーヒートに気を(つか)う季節の始まりだ。

 私は気持ち良くバイクに乗るため、家族がまだぐっすりと眠っている時間にベッドを抜け出す。

 手早くヒゲを()り、着替えをし、そぉっと玄関のドアを開けて家を出た。

 まだ外は暗い。なにしろ時計の針が示す時刻は午前3時45分だ。

 駐輪場からライムグリーンの車体を引き出し、静かに押しながらマンションの敷地を離れる。

 東武線の線路脇まで行ってからキーを(ひね)り、スタートボタンを押した。

 キュキュ、ババン、バババババ…‥

 スーパーシェルパは私よりも(はる)かに寝覚(ねざ)めが良かった。

 ヘルメットを(かぶ)り、グローブをはめてシートに(またが)る。

 クラッチレバーを握り込んでチェンジペダルを踏み込んだ。

 朝…‥というよりはまだ夜といった暗さ。

 しかし、陽が昇る前のこの時間の空気はまだ熱を()びていない。

 クラッチを開放してアクセルを開いていくと、風が気持ち良かった。

 今日の目的地まではシェルパなら1時間かからない程度の距離。

 栃木県南部の小さな街の、畑が広がる一角。

 土曜日のこの時間に走っているクルマはほとんどいない。

 私は急ぐでもなく、心地良い風を楽しみながら、薄く白んでいく東の空へ向けて相棒を走らせた。

 利根川を越える橋を渡り、国道を()れて小学校の脇を抜け、畑が広がる場所に出る。

 だいぶ明るくなってきた。

 東の空がオレンジ色に染まっていく。

 畑の真ん中を通る道の(はし)にバイクを停め、ヘルメットを脱いだ。

 カメラと三脚を取り出し、明るくなってきた畑の中で構図を考える。

 相棒と、東の空と、目の前に広がる畑。

 大きく伸びをした。

 畑の向こう側、東の空の(はし)が赤くなる。

 ゆっくりと、ゆっくりと、オレンジ色をした夏の太陽が姿を現す。

 畑に光が射した。

 相棒の向こう側、背中に太陽の光を浴びて、畑に立ったシルエットがモノクロからカラーに変わっていく。

 そこには、小さな太陽が一面に空を見上げていた。

 向日葵(ひまわり)

 最も夏が似合う、地上の小さな太陽。

 私は広大な向日葵畑(ひまわりばたけ)の真ん中に(たたず)む相棒をファインダーに収め、シャッターを切った。

 オレンジ色の光を浴びた黄色い花が鮮やかに浮かび上がる。

 私はゆっくりと昇っていく太陽の下、ライムグリーンの相棒と黄色の小さな太陽の姿を、カメラのレンズで切り取っていく。

 ふとシャッターを切る手を止めてカメラから視線を上げる。

 いつの間にか周囲の光が朝陽の色から見慣れた夏の太陽の色に変わっていた。

 ふう。

 小さく息を吐いて、額にジンワリと(にじ)んだ汗を(ぬぐ)った。

 液晶画面で数分前の景色を確認する。

 向日葵(ひまわり)が相棒の向こう側で、太陽と同じ色の笑顔で笑っていた。

「夏だね」

 (つぶや)いてカメラと三脚を片付ける。

 ヘルメットとグローブを身につけて相棒の背に(またが)った。

 良い天気だ。少し遠回りして帰るとしよう。

 今日もまた、暑い一日になりそうだ。

ヒマワリには夏の鮮やかな色の光がよく似合いますね。

大きな花を一生懸命に太陽へ向ける姿には元気をもらえる気がします。

夏が一番似合う花ですね。

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