黒い靄の少年の心配事
作者の最近のツボは「はしょれメロス」。下ネタがドツボの小学生メンタルです。
モブレ未遂あります
原石直中side
菅原先生に異変が起きている。
明日からまともに授業が出来るのか心配だ。
現状、玲帑くんが菅原先生を覚えているが認識できない。そして逸辞さんが覚えていないし認識できない。
玲帑くんと逸辞さんの違いは何だ?年齢とか?…そういえば、僕はハッキリ認識できている。異変が起きる前から一緒に居たからか?
異変の原因は何だ?こんな不可思議な状況なら、逸辞さんが記憶喪失になったとか、菅原先生がいきなり影が薄くなったとかでない限り、科学的なものでは無いだろう。
何か怪異に襲われて、擬似的な神隠しにでもあってしまったんだろうか。
非科学的な不可思議現象と捉えれば、どんな不可思議現象であれ納得できる。
ミステリー小説好きには「何だそれ!そんなん言ったらどんな未知も霊関係になっちまうだろ!!」と言われるかもしれないが、生憎これは現実であり、怪異などが存在するというのも事実だ。現実には未知がたくさんで、自分に提示されているルールや事象が全てとは限らない。当たり前のことである。
さて、どうやってこの状態を解決しようか。
そういえば、菅原先生の霊力が微妙に増えているような?
そう考えていた時、神社のすぐ外から誰かが急接近してくることに気が付いた。
これは…
「マジですまん!!!」
大きな謝罪の声と共に、何かが僕と菅原先生の体に叩き付けられた。
瞬間、菅原先生から霊力の一部が謝罪の声の主に吸収されるのが見えた。同様に、自分のも。
「…先輩、今度は何やらかしたんです?」
流石先輩後輩の関係。謝罪をしてきたら真っ先に何やらかしたのか聞ける辺り、本当に仲の良い関係なんだろうな。
「いや~、自分の家にセキュリティかけてたの忘れてた!」
「セキュリティ?…お得意の結界の類ですか?」
「ああ!内側にバフもデバフも解除する結界、外側に結界に触れた者の存在をこの世にいた痕跡ごと消し去る結界を張ってた!いや~、最近解除する機会無かったから、すっかり忘れてたわ!」
「アホですか!!?普通忘れないんですよ、自分が張った結界!しかも二重ってエグいくらい集中力必要なんですよ片手間で出来るのなんて先輩ぐらいですよ!?」
Noside
「いや~、毎年家庭訪問の日には結界切ってたんだけどな~、如何せん前日に伝えられてからの急な家庭訪問だったもので…」
「ぐぅ…」
前日に家庭訪問を決めて、その翌日に家庭訪問をするのが非常識だということは、流石に秋雨も自覚していたため、ぐぅ、と押し黙ってしまった。
「マジで叔父上そこにいたんだ…」
「さっきからそう言ってるじゃん。」
「…?……!、叔父上!」
先輩後輩の空気感に入れず、取り残された玲帑、直中は先程から二人で喋りあっており、逸辞はいきなり戻ってきた秋雨の記憶に混乱しながらも、何とか処理を終えた。
「そういえば、明が帰ってきた時怪我してた理由を聞きそびれてたんだが…理由知ってるか?」
知ってるか、と聞いてはいるが、確信である。彼は獲物を精神的に追い詰める時、正論で殴るか罪悪感を抉るかのどちらかを主として使う。
「最悪な話題転換の方向性…」
「知ってるか?」
凄い圧である。
「あー、ええと……ほら、違法車を壊しても良いっていう法律があるじゃないですか…」
「…車を壊していた奴らにでも殴られたのか?」
「いえ、壊していた道具が壊れて、偶々飛んできてしまったようでした。」
「それはどこだ?」
「……………角並駐車場です。」
そしてこの三秒後、灯は道を無視して直線距離を突っ切った。
言うなれば
「走れトモリ」
である。直中は丁度三文字であるのをいいことに、メロスの各場面を灯に置き換えてみた。
「こーら!年上を呼び捨てにするんじゃありません!」
秋雨は注意した。必ず、この少年を社会に出ても粗相をしないように矯正せねばならぬと決意した。直中は粗相が分からぬ。直中は、中学三年生である。
「角並なぁ…明怪我させたならシメる。」
灯は激怒した。必ず、その破損した道具の持ち主を詰めねばならぬと決意した。灯は善悪が分からぬ。灯は、一児の父親である。己の気分に則り、息子と楽しく暮らして来た。けれども息子の怪我には、人一倍に敏感であった。
角並駐車場に残る違法車関係者たちの、地獄の幕開けであった。
「…、」
夜樺はその日、気が付けばベッドにいた。
「まぶしっ…」
外は暗く、右手で目覚まし時計のライトを付けて時刻を確認すれば、午後11:30だった。
ライトの光が強く、目に強い刺激を与えた。
再び寝ようと布団に右手を滑り込ませるも、今度はやけに物音が気になる。
風の吹き荒ぶ音が凄まじく、寒い、と感じた辺りで、夜樺は違和感に気が付いた。
「かげくんかげくん、おきてる?」
『…ぅうん?』
眠たげな声が返ってきたが、どうやら意識はあるらしいことに安堵し、次の問いを重ねた。
「まど、誰か開けたの?」
『…まど…?…しあない…』
では、父親だろうかと考えた辺りで、それも無いなと考え直す。灯は学校の先生のように換気だなんだと言って夜中に窓を全開にするやつではない。
風邪をひかないように、という配慮もあるが、そもそも窓を開ける必要がないからだ。
一般家庭は淀んだ空気を入れ換えるために換気を行うことで、体調管理をしたりするが、現在一階は常に換気状態となっており、空気が淀んでいる状態にならないためだ。
その上夜樺は気づいていないが、未だ灯は帰宅していない。
では、誰が何故、窓を開けたのか。
「…不法侵入。」
夜樺はベッドから降りて何もない空間に顔をくるりと向けると、そう言い放った。
「あ、流石にバレた?」
そこは空からの星明かりも月明かりも射し込まない一角だった。何もない空間…否、誰かがいる空間から、存外軽快な声が返ってきた。
「うん。」
「そっかー…あ、ちょっと待ってね。」
侵入者が何かをすると、スーッと姿が顕になった。身長は夜樺と大して変わらない、童顔で、プリン頭、そして尖った耳が特徴の容姿をしていた。
月明かりが射し込む窓まで近づけば、プリン頭がバラバラと風に煽られて口に入ったのが少し面白いと夜樺は感じた。
「なぜ窓をわざと全開にしたまま、何もしなかった?」
そう、侵入者は敢えて、窓を開けたままにしていた。
「だって、閉めたままだと気づいてもらえないかもでしょ?」
「普通侵入者は気づかれないようにするものでは?」
「いやいや、そうとも限らないよ?心の準備をさせるの。不意打ちだとビックリさせちゃうから。現に今がそう。謝罪をしに来たんだ。私の上司が君に失礼なことをしたようだから。」
「…上司…」
「ほら、君の友達の命を狙ったでしょ?」
夜樺はまず、友人の辺りからしっくり来ておらず、うんうんと唸っていた。
「…それ、僕じゃなくて狙われた子に謝罪しに行ったら?」
一先ず、全くもって誰のことかサッパリ分からなかったが、真っ先に夜樺が思ったのはそれだった。もしかしたらもう既に行ったのかもしれないが、念のためだ。
「え?何で?」
しかしそれに対する返答は、素頓狂な声と非常識なものだった。
「…??」
「私はボスから君に害を為すことを禁じられているだけで、その他の有象無象については何も言われてないよ?」
夜樺は軽く眩暈を覚えた。何やら正体不明のボスとやらに気に掛けられているのもそうだし、なおのこと謝罪に来た訳が分からなくなったからだ。
「…一先ず、僕に罪悪感を抱いているのは君じゃなくて、そのボスって人な訳ね?」
「うん、そう。」
「じゃあお引き取りください。あなたが来たところで意味がない。」
今度は侵入者が瞠目する番だった。事前情報として渡された資料には、物分かりがよく他者への関心が薄い少年と記されていたからだ。こんな、いかにも誠実をコピーしたようなことを言う人間とは思っていなかった侵入者は、
「ボスは忙しいから来れないよ。謝罪を受け取らないならこの菓子折りは要らないね。」
と言って、侵入してきた窓からさっさと帰ってしまった。
「…中身はヘドロか。要らね。」
『いつ見たんだよ…』
「窓の明かりの下に出る前。」
影が夜樺の領域であることは、侵入者とて事前資料で分かっていた。分かっていた上で、敢えて影に潜んでいたのだとしたら…
(あいつ、余程度胸があるのか、単に命が惜しくないのか…)
少し考えたところで、夜樺は思考することを諦めた。考えたところで分かる問題ではなかったからだ。
夜樺は影を実体化させて窓を閉めた後、寝床に再び潜った。
「…かげくん、寝ないの?」
しかし、いつまで経っても黒い靄の少年は、夜樺の影に潜ろうとはしなかった。
『…アキラ……おやすみ。』
「うん、おやすみ。」
夜樺が眠った後も、月明かりの下に黒い靄の少年はいた。
薄く、細く、儚い、月明かりの下に___
それは二日後の夜明けまで、現実に顕現でき無い時間を取り戻すようでもあったし、夜樺の暴走に対する警戒でもあった。
つい先程まで気にするのをやめていた事柄が、頭の大半を占めていく。
胸中を、不安が渦巻く。
夜樺が想定よりも早く暴走しない保証など、何処にもないのだから。
結界を破るのが早くなった今なら、尚更。
(じゃあお引き取りください、か…明に抵抗や反抗の意思が芽生えたことを、喜ぶべきか、はたまた封印の緩みに危機感を抱くべきか…両方なのかな。)
〖俺には何もできないの?〗
昔灯にそう聞いたことがある。
暴走部品が表に出る時、黒い靄の少年は決まって意識が無かった。当然今使っている黒い靄だって、平時ならば実体を保てるが、暴走部品が表に出る時はそうもいかない。
呼び掛けも無駄。顔見知りであろうと容赦はしない見知った顔。自分も見たことがない部分。
〖アキラ!〗
【?…かげくん。】
灯が暴走部品を封印してから、夜樺は何かを欠落させた。悪漢複数に取り囲まれ、路地裏に大人しくついていく。夜樺が床に押し倒された辺りで、黒い靄の少年は現状の何がヤバいかを、一端だが理解した。
〖逃げて!〗
【どうして?】
〖~!〗
経験の浅い知識では、すぐに危機的状況を同い年の子供に説明する言葉が見つからず、よく歯痒い思いをした。
〖危ないから!〗
【ごろんしてるだけってゆってたよ?】
【おう、坊やはごろんしてればいいからな?】
〖すっぽんぽんにされそうじゃん!〗
【うん。】
【よし、いいこだ。静かにしてればすぐに終わるからな…】
〖いや、抵抗は!?〗
【?…どうして?】
【すぐに終わんない方がいいか?】
【そりゃいい!丁度試してみたい玩具があったんだ…!】
〖すっぽんぽんにされそうだからだよ!〗
【いつもお風呂ですっぽんぽん…】
【?…ああ、そうだな~、だから何も悪いことなんか無いからなぁ。】
黒い靄の少年の声は、暴漢には届かず、夜樺しかそれには返さない。お陰で端から見れば、暴漢と会話が成立しているように聞こえるが、実際はそちらとは会話していない。
〖ここ風呂ちがう!〗
【確かに…】
【よし、それじゃあカメラ回せ。高く売れるし、こいつの母親あたりでも揺すれれば万々歳だ。】
〖カメラですっぽんぽんとられんの嫌!一応俺の体なんだからね!?〗
【かげくんが嫌なら…しかたない。】
幸いなのは、黒い靄の少年の心情や要望を第一に考える心が残っていたことだろう。
【今更抵抗してもおそ…】
【お、おいーー氏!なんか黒い靄が…うわ~!?】
【ぐあぁぁぁ!!!??!】
黒い靄の少年がいなければ、あわや貞操の危機である。
『…』
封印の欠陥は深刻で、だからこそある程度の改良を重ねたものの、怒りや焦り、恐怖、不快の類いを解放すると、今度は必ず封印は新月を待たず解けてしまう。
新月はどんなに封印を強めても暴れるので、息子の感情をこれ以上抑えるくらいなら…と灯の妥協案で新月だけは封印を諦めている。
そしてその新月の度に、無数の傷を作っている父親の姿を、灯自身と黒い靄の少年だけが知っている。
灯は黒い靄の少年が見られる前に治しているつもりなので、その事は知らないのだけれど…。
『…殺してくれるな、死んでくれるな、怪我してくれるな、何もできない俺を許すなよ、アキラ…。』
そうひとりごちた辺りで、すぐそこからラッチボルトの滑る音がした。
「あれ?起きてたのか。」
『…玄関音立てないようにした?』
「ああ、風呂にも入ってきた。」
『忍者みたいなことしてるな…』
「後輩に会って、一寸昔の気分にな。」
そう言う灯は、どこか楽しそうだ。どんな状況になれば後輩と忍者みたいな行動が結び付くのか聞きたかったが堪えた。学園に興味を持つような行為は、灯に罪悪感を植え付けるだけだと思ったからだ。
『あー…えっと…結界の効果を解除しに行っただけだよね?何でこんなに遅かったの?』
「ああ、明に怪我させたやつをボコりたかったんだが、ちょっと込み入ったことになっててな。バット持ってたやつと車の持ち主が警察に事情聴取されてたんだが、秋雨も関係者ってことで時間取られた。俺は誰の足を折ったかをあやふやにしてきただけだが、秋雨に明の足のことを誤魔化すよう伝えるタイミングがなかなか取れなくてな。それで時間がかかっちまった。」
『菅原先生は警察に何聞かれたの?』
「状況のどの部分見てましたか~とかだ。」
因みに、息子が怪我をしたことへの腹いせも含まれていることは言っていない。もう治してしまったせいで、病院とか行っても変に困るだけだからだ。
「もうねみー。」
『そっか、俺はもうちょい起きてるよ。おやすみー。』
「おお、おやすみー。」
そう言うと、灯は部屋から出ることなく、そのまま窓辺に近づき、黒い靄に寄り掛かるようにして寝息をたて始めてしまった。
「…ぐぅー…Zzz」
『ここで寝るのかよ!?』
起きたらどうするんだ、という心配もあれど、しっかりと灯に触れられているという事実が、黒い靄に実体があることを証明していて、それに安心を覚えるのも、また事実であった。
『…おやすみ…』
これならば、暴走すれば即座に灯が対応してくれる。その安心感を胸に、黒い靄の少年は、漸く眠りにつくことができた。
「おやすみ、俺の____」
俺の…何でしょうね。まあお察しください。ていうかこのセリフ入れたくて灯に言わせたのに、キャラがキャラだから違和感ある?…まあ、彼は懐に入れるととことん甘いです。ストーリー中でそういう場面を描けていたらいいな…。(そうでなければ灯は秋雨と直中が結界の効果にかかっていれど放置です。)
一応始めに出したウェルカムヘブン、幹部なんだぜ…。




