14話 乱入者
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拙い文ですが良ければ読んで頂けると幸いです。
感想・ご指摘・ご不満などお待ちしております。
※平日は仕事で投稿出来ないと思います。
※この14話でようやく前置きが終了しました。15話より現世のお話が出てきます。
無理やり14話で前置きを終わらせたので14話が長くなってしまいました。
※一瞬編集中の文をUPしてしまっていました。お騒がせ致しました。
区域の中央に建てられた巨大な円形闘技場はセンターアリーナと呼ばれる、グレーの石材で建築された区域メインの施設だ。
外装にも内装にも至る所に威光ある戦士の姿を模った装飾が施されており、出入口や観客サイドの窓は全てアーチ状になっている。
派手に動いても大丈夫な様に、戦士達が戦う決闘の舞台はかなりの広さがあり、観客席と決闘場の間には長い筒のように透明なエナジーバリケードが設けられていた。
ちゃんと負けた戦士が砂の味を楽しめるように、決闘場には隅々まで乾いた砂が撒かれているのだ。
そしてバリケードのコントロールと、どちらの戦士が勝ったのかを審判する女性天使が観客席に挟まれた展望席で戦いを見下ろしている。
審判の女性天使は銀の神聖な装飾が施された鎧と兜を装着しており、背中には白い翼、頭上には小さな光輪が浮かんでいる。
さらに天使の左手には銀の錫杖が握られ、錫杖の先端には赤く光るオーブが嵌められているのが見える。
とここで、天使が居る展望席の上に備え付けられている無人の楽器からファンファーレが奏でられ、アリーナ中に響き渡った。
今、このセンターアリーナでは倒れ伏す戦士と、立ち尽くす戦士が見える。また、名も無き決闘が終わったようだ。
「勝者ドスパル!」
天使の審判が決着を告げる。その声は女性ながらキリっとしてハッキリしている。
続いて、天使が錫杖の下部で床をコンコンと叩くと、決闘場と戦士たちが回復した。
「オオオオオオ!!!!」
また、勝利の叫び声が鳴り響く。それにつられて観客も沸いた。
センターアリーナの観客席は常にほぼ満席に近い状態だが、ストリートの決闘エリアみたいに決闘の挑戦に来ている訳ではない。
見に来る戦士達は、技を盗み見る場合だったり、単なる好奇心だったり、野次を飛ばしたいだけだったりと様々だ。
闘志溢れる戦士たちがなぜ見ているだけで挑戦しないのかというと、センターアリーナでは常にトップ戦士100名による、勝率に応じた熱いランクマッチが行われているからだ。
ストリートで好成績を収めればランカーの中で下位戦士との入れ替え戦も行われる。入れ替え戦は有望なルーキー達も見つかるのでランクマッチ同等の熱気を帯びているのだ。
そして先ほどから決闘場で勝利の叫びを上げている坊主にボロボロの黒色ローブを着た男も、ランカーを引きずり降ろしてトップ100の戦士にランクインしたルーキーだった。
「勝ったっ!!勝ったぜオマエ等!!ヒャハハハハ!私が勝者だ!!見ろ!勝ったのはこの"呪血"ドスパルだっ!!負けるとでも思ったかオマエ等!!私がっ上だっ!!!」
ドスパルという男が勝者の特権を披露する。自分より上位の戦士を倒したのだ、勝利の麻薬は倍増しているに違いない。そしてこの勝利の雄叫びが、新たに闘志を加熱していく。
ドスパルはヒートアップした闘志の猛りに浸りながら、決闘場を去る。その間でも観客へのアピールは止まらない。
「覚えておけっ!いずれこの"呪血"ドスパルが頂点に立ってやる!踏ん反り返っているランカー共!アイドルのつもりかっ!?そのメッキで出来た名前ごとブチのめしてやるっ!首を洗って待っていろっ!」
言いたいことを言いたい放題言えるのは、勝者のみだ。これは勝者のみに許された特権なのだ。
ドスパルは初めてランカーになったこの日、この瞬間を目一杯味わっていた。
ドスパルの宣言に触発されて怒声を上げる観客、新たに誕生したルーキーに贈られる戦士達の拍手、勝利を称えるが如くドスパルを見る天使、全てを脳裏に焼き付ける。
薄暗いアーチの中を潜っている最中でも、観客の声や熱気を背中で感じ、頭に落とし込む。
アーチの中には左右に通路があり、左右の通路を入って行けば観客席とランカーの控室へと辿り着ける。ドスパルはランカーになれたのだが、控室へは行かずセンターアリーナの外へと向かう。ストリートとは違ってセンターアリーナでは毎回別の組が決闘を行うのだ。
ドスパルの頭の中には少し前まで同格だったストリートの上位戦士達の顔が浮かばれていた。
(アイツらにも教えてやらないとな。"ヴォイドマスター"ミーゴに"ジャガーノート"ハヤト、それに"カオスハンガー"バンドールだな。こういうのは人伝いなんかじゃなくて自分で言ってやるのが一番だぜっ。ヒャハッ!)
ドスパルはストリートの元同格連中にランカーになったことを自慢している姿を想像してニヤついた。
ランカーになったことをどう伝えるか、頭の中で言葉を組み立て、そしてまたニヤつく。
(さて、どいつのエリアから行ってやろうか…。ハヤトはGエリアだから後回しだ。センターアリーナから一番近いのはミーゴだが、近すぎて逆にもう知ってそうだしな。帰りに寄るとしようぜ。んじゃ、バンドールから行こうか)
ドスパルはバンドールが居るDエリアへ向けて歩みを進めた。
ストリートには整備された石材の道路がエリアを縫うようにして続いていて、一番横幅の広い道路がエリアとエリアを分けている。ドスパルは横幅の広い道路を選んで進む。
「??ん?」
だが歩き始めてすぐ、ドスパルは異変に気付いた。
(妙だ、やけに人が少ない。普段ならランプに集る虫みたいにストリートの決闘場は戦士でごった返しているはずだろ。それがどうだ、決闘すらやってねぇ。どうなってやがる)
センターアリーナに隣接しているAエリアとCエリアの間を通るが、熱気は消えていた。センターアリーナから出てくる戦士達だけが、不審に辺りを見渡している。
ドスパルが疑問に思いながら歩いていると、センターアリーナじゃない方向からこちらを横切ろうという戦士が見えた。
「あれ?クソッ、どっちがJエリアに通じる道なんだ?」
ヴァルハラ名物、迷子の脳筋だ。ドスパルは迷子の戦士に声を掛ける。
「おい、お前、Jエリアに何の用だ?Jエリアで何か起きているのか??」
迷子の戦士は何かのモンスターから剥いだ革装備を全身に装着している。モンスターの頭部から作ったであろう兜の間からギョロっと目を動かし、ドスパルを見ると立ち止まった。
「ハッ!こりゃあ、"呪血"ドスパルじゃねえか。だが、ま、関係ねぇ、教えてやる訳ねーだろ!それじゃ、さらばだ。決闘場でまた会おう戦士よ!」
ドスパルを知っているらしい迷子の戦士は、知らぬ顔で通り過ぎようとした。だが、ドスパルは呼び止める。
「Jエリアはそっちじゃないぞ。何が起きているか言えば私も近道を言ってやるが、どうする?」
迷子の戦士はまた立ち止まり、少し唸るとドスパルの提案に乗った。
「良いだろう。教えてやる。少し前に現れやがったんだ、フリーチャレンジャーがな。2人とも強者だ」
謎が解け、ドスパルから笑みがこぼれた。フリーチャレンジャーとは、決闘ではなくルール無用で暴れる戦士を指す。戦士を辞めてフリーになり、ヴァルハラ全員に喧嘩を売ったチャレンジャーという訳だ。
「フリーチャレンジャー!ヒャハハッ!!そりゃあ皆行くわけだ。勿論私も行ってやるぜ!じゃあ案内してやる、向かいながら続きを話してもらおうか。んで?どいつがやらかしたんだ?」
ドスパルが先頭を切って走りだし、迷子の戦士が後に続く。
「おお!そりゃあ助かる。俺も討ち取りたかったんだが、道がな。それで誰かと言うとな、へへっ、これが誰でもないってんだ」
ドスパルは察しがつき、納得した。こういう無茶を起こすヤツは大抵勝って調子に乗った戦士だ。だが無名だということはもう答えは1つしかない。
「新入りってわけか。ヒャハッ、私が到着するまでにくたばっていなけりゃいいがな」
遅れを取り戻そうと、ドスパルの足がさらに速くなる。
(これだけ戦士が戻って来ていないということはマジの強者だぜ。ランカーを倒した後すぐにフリーの野郎が出てくるとはなっ!ヒャハハッ!血が騒ぐぜ)
Jエリアに近づくと、目の前に人だかりが見えてきた。それも結構な数だ。前の方の戦士達は雄叫びを上げて走り出している。が、戻って来ない。
(まさかセンターアリーナの連中以外全員来ているのか?いや、そんなことよりもこれだけの人数で袋にしておいてまだくたばっていないとは…)
ドスパルと迷子の戦士がとうとう狩りに合流した。一体何がどうなっているのかと戦士達が向かって行く先に目を向け、ドスパルは武者震いした。
圧倒的だった。2人居るうち、戦士たちの相手をしているのは1人だけだった。1人で一度に何千人も押し寄せる屈強な戦士達を相手していたのだ。
ズゥゥゥーン
1撃だった。たったの1撃。片手で見たことも無いエネルギーの波を放つと、エネルギーに当たった全てが消し飛んだ。地面には消え損ねた戦士たちの足や背が高かった戦士の頭などの残骸が夥しいほど落ちている。
だが、ヴァルハラに臆病な戦士など一人も居ない。千人ほどの戦士が目の前で成すすべなく死んで行ったというのに、後ろで順番待ちをしていた戦士達は全くひるむ様子も無く向かって行く。そして散って行った。
ただやられているわけではない。後ろで待っている戦士は十分に己を強化し、勝利を確信して全力で向かって行く。空中へ飛んで襲い掛かる者、地中に潜って地下から奇襲を掛けようとする者も居る。だがいくら強化していても、いくら奇襲を試みても、凄まじい速さで男の左手が動き、あっけなくエネルギーに消し飛ばされるだけだった。
(とんでもねぇ上玉だぜありゃあ。しかし、ホントに新入りみたいだな、見たことねぇ2人だ)
ドスパルは問題の新入りを観察する。
戦士達を相手にする男は赤褐色の肌で顎髭があり、青白く目が光っている。黄色のフードを付けていて、フードから左右に紐が垂れており、紐の先には髑髏のシルバービーズがぶら下がっている。さらにこのフードには複雑で読めない文字が書かれてあった。
エナメルの半袖コートを着ていて真紅とオレンジで炎をデザインしている。インナーは無く、前が開けた半袖コートからは膨れ上がった筋肉が見える。金に輝く半ズボンに、腰当と間違えるようなやたら大きなベルトを撒いている。
そして両手には指空き赤グローブを装着していた。
何もしていない女の方は、女性用の全身フルプレートだ。禍々しい漆黒の鎧、漆黒の剣を持っていて、兜の間から長くて美しいブロンドの髪が出ている。唯一見える褐色の地肌は口元だけで、唇は薄いピンクだ。
スタンバイする前の方の戦士達から、ひと際大きな声が聞こえてきた。
「見てろお前らっ!あの野郎は"神体"ムバロ様がブチ殺してやる!!」
(ムバロ…、確かBエリアに居る奴だったか、いや、Dエリアだったかな。どっちにしろ全然知らないな。私がハッキリ覚えていないということは気に留める戦士じゃないってことだ)
ドスパルはどうでも良さそうな表情でムバロを見る。ムバロはスキンヘッドで上半身裸の巨漢だ。
ムバロは己を強化し始めた。白くて眩いオーラがムバロから放出し、筋肉が盛り上がる。
(白いオーラか。十中八九、超過系統の強化だな。ヒャハッ、どの程度かねぇ)
ドスパルは幾多の経験からムバロの強化を予想する。このヴァルハラには様々な世界から戦士がやって来るので、初見では戦士がどんなことをするのか皆目見当がつかない。
だが、数々の戦士と戦う内におよそのパターンというものが分かってくる。オーラを出して戦う戦士には色々なタイプがあるが、オーラの質、放出される範囲や放出後の身体をみれば、どういうタイプのオーラなのか見当がつく。
ドスパルは経験上、ムバロの盛り上がった筋肉を見て超過系統のオーラだと判断した。超過系統とは力の底上げをするタイプで、純粋に力が増す。トリガーは自身に隠された何かの解放だったり、形式に沿った武術の奥義だったり様々だ。
超過系統以外にも多数のタイプがあり、単にオーラが出ていると言っても多種多様なのだ。
こういった知らない世界の知らない技や力に出会えるのも、ヴァルハラの楽しみの一つだった。
さらにムバロは強化する。ムバロの身体には白く輝く模様が浮かび上がり、両腕に白い電流が纏わりついている。
(へぇ、身体に刻印ということはさらに超過系統を重ねたなぁ。で、腕のアレは恐らく部分超過だな。エンチャント系じゃない)
ドスパルが刻印を超過系統と見定めた理由は、刻印から出る光にあった。刻印系の技も色々種類があるが、ムバロの身体を覆うオーラと刻印から漏れ出る光は質が同じである印象を受けるため、超過系統だと判断した。
腕の電流も特殊な効果を持つエンチャント系の強化などではなく、腕のみ追加で力の底上げをした、部分的な超過系統の強化だとにらんだ。理由は電流の質と、不規則性だ。
(なるほど、ムバロはパワーファイターのファイトスタイルだぜ。ヒャハッ、実に分かりやすい戦士だ)
そして強化し終えると無音でムバロが消えた。が、ドスパルの眼はムバロを捉えている。
ドスパルは眼で追えているが、実際ムバロがどれほどの力を持った戦士なのかはほとんど分からない。他の世界で力の基準やエネルギー自体違うため、実際に戦ってみないと強さは分からない。
だが結果はどの世界でも共通の情報を教えてくれる。そしてその結果がドスパルの耳に入って来ていないという事は──
音速を超えたムバロは右拳を振りかぶりながら猛スピードで男に接近する。
ズゥゥゥーン
足と頭部を残してムバロは消え去った。
(やはり知らない奴ではダメか。ん?アイツは)
また次にスタンバイする戦士達の中に、先日までドスパルと同格だった者の姿があった。
その者は筋骨隆々とした灰色の身体に緑色の模様が描かれており、眼球は真っ黒で何一つ衣服は着ていないが、人間ではなさそうだった。そしてその者は常に全身が残像か幻であるかのようにブレている。
(ヒャハハッ!"ヴォイドマスター"ミーゴじゃないか。ミーゴの虚無がどうなるか見ものだな)
ドスパルがミーゴを見ていると、視界にまた強者が映った。
(あれは、"ジャガーノート"ハヤト、それに"カオスハンガー"バンドールまで勢ぞろいとはな。ヒャハハッ!こりゃ私も急がねぇと先にパクられちまいそうだ)
ドスパルももうすぐで前が空くので、己を強化する。
"呪血"ドスパルはその名の通り、万物の呪いに掛けられた肉体を持ち、様々な呪いの効果を操るテクニカルファイターだ。
ドスパルは狂った異教徒によって作り出された実験体だった。それぞれ違う呪いを持った者同士を交配させる実験が行われ、ドスパルは先祖10代から全て違う呪いを受け継いだ最高傑作だった。
ドスパルは目を閉じ、荒呪の狂言を呟く。すぐに何重にも重なるドス黒い呪いの怨念がドスパルの周囲を覆い尽くす。
ブシュウッ
ドスパルは黒く尖った爪で自身の腹や足を切り裂き出した。真っ黒な血が吹き上がり、すぐ蒸発すると黒い蒸気は怨念に吸い込まれていく。怨念が何倍にも膨張し、奇怪な音を出すようになった。途端、ドスパルの身体がバッキバキに肥大し、傷口は塞がった。
「ヒャハハハハッ!黒呪の秘術も全て出してやるぜぇ!楽に成仏出来ると思うなよルーキー!呪い殺してやるっ!!」
ドスパルの影が独立して動き、エネルギーを放つ男に忍び寄る、と同時に最前列の戦士たちが一斉に動き出す。
ミーゴはパーフェクト虚無形態で直進し、ハヤトは全身から火花を撒き散らしながら回転させて猛進、バンドールは身体が半透明になるまで蒼黒いカオスエナジーを放出させて突っ込んで行く。
男は左腕をひと薙ぎさせた。
ブゥーンという重低音と共に流動する赤くて綺麗な力の波が戦士達に向けて発進する。
ズゥゥゥーン
圧倒的な力に飲まれる重々しい音が聞こえ、周囲に戦士は居なくなった。
男の後ろに居た女はつまらなそうに声を出した。
「ゴドロス、なぜ一気に一掃しないのだ?」
ゴドロスと呼ばれた男は、黄色いフードの中で光る青い目を女の方へ向けてドスの効いた声で答えた。
「リリアもやってみろ。こうして群がる虫けらを少しずつ消していくと面白いぞ」
ゴドロスはフードの下でニヤリと笑った。
「フン、遊ぶのも程々にすることだな。崇高なる御方へのご報告が遅れるではないか」
リリアの表情は兜で分からないが、声でイライラしているのは伝わって来る。
「オイ、リツ様にはチクるんじゃねぇぞ」
その名前に反応し、リリアがビクッと震えた。
「ば、馬鹿者!す、崇高なる御方の御高名をこんな下らない話に気安く出すなど無礼だぞ!!」
リリアがゴドロスに指をペシペシ指して注意し、さらに言葉を続ける。
「ちょっと待て、さてはゴドロス!、お前は崇高なる御方が地獄耳であらせられると知らないな!?御高名をトリガーに会話をお聞きになられていらっしゃるのだぞ!」
リリアは口元に手をやるとワチャワチャと慌てだした。
「…お、オレは何も言ってない」
ゴドロスは何も無かったことにして、胴体を失った戦士達の残骸を踏み倒しながら、センターアリーナの方へ歩き出した。
「なっ!貴様という奴はぁ!」
リリアはブリブリ怒りながらゴドロスの後を追い、2人同時にセンターアリーナへと転移した。
決闘場ではランカー同士の真剣勝負が繰り広げられていた。
1人は毛皮の道着に奇妙な木のお面を被った戦士だ。そしてもう一人は青い帯で目を完全に隠して全身に紫の刻印を刻み、幾何学模様をしたノースリーブの衣装を着ている。
テクニカルファイター同士の決闘は長期化する傾向にあり、今まさにこの2人の戦士も長時間戦っている。
お互いの攻撃を避け合い、中々攻撃がヒットしない。2人の戦士は凄まじい速さで動き回る。
そんな中、フッと2人の乱入者が現れた。黄色のフードにエナメルの半袖コートのゴドロスと、漆黒の鎧と剣を帯刀したブロンドヘアーのリリアだ。
センターアリーナが時が止まったかの様に一瞬静まり返る。と、センターアリーナの展望席に居る鎧を着た天使がすぐさま声を張り上げる。
「決闘は汚された!チャレンジャーに戦士の鉄槌を下せ!!」
天使が声を上げると同時に、リリアが情報収集の天力"フラグメンツオブメモリー"を発動させる。リツの"オートハッキング"とは違い、繊細な感覚を必要とする天力を扱えない配下は断片的な情報収集をする"フラグメンツオブメモリー"を使用している。
"フラグメンツオブメモリー"ですら非常に難しい感覚が必要なため、一部の貴族以上の配下でないと発動できない。
「"フラグメンツオブメモリー"」
リリアから白い閃光が発せられる。が、そんなことお構い無しと言わんばかりに天使によってエナジーバリケードが解かれ観客席の戦士は怒声を上げて決闘場になだれ込み、中央で戦っていたランカー2人はリリアとゴドロスに飛び掛かる。
「面倒だ、ゴドロス伏せて居ろ」
そういうとリリアは帯刀していた漆黒の剣を抜いて空に掲げる。剣にリリアの黒い波動が纏わりつき、巨大な刀身のように波動が伸びていく。流動する黒き波動はまるで無理やり捕まえられた夜の様に暴れながら形状を維持している。
ブゥィーン
リリアの剣が1回転する。ズゥゥンという物凄い低く鈍い着弾音と共に黒き波動が当たる全てを消し去り、センターアリーナを輪切りにした。
無くなった空間を埋めようと切られたセンターアリーナの上部が落下するが、落ちるよりも早くリリアの剣があり得ないスピードで乱舞した。
ブゥィブゥィブゥィブゥィブゥィブゥィーン
リリアとゴドロスを残して全てが消し飛んだ。
パラパラと細かいセンターアリーナの破片が落ちて来る音がすると、障害物の無い見晴らしの良い景色が広がっていた。
「もういいぞゴドロス」
姿勢を低くしていたゴドロスは起き上がった。リリアは波動を切って剣を納刀する。ゴドロスは納刀しているリリアの剣を横目に不機嫌そうな顔でリリアにクレームを言う。
「その剣を使う程の奴らじゃないだろ。なぜリ…あの御方から頂いたアイテムをこんなところで使う!」
ゴドロスの不機嫌そうな顔を見てリリアの口元が緩んだ。
「勿論、貴様とこの世界に向けての自慢だが?」
何の言い訳もせず、ストレートに言い切るリリアにゴドロスは余計腹が立った。
リツが作成した一部の特別なアイテムはリツの魂力を元に作成されている為、本人より強い魂力を持つ存在にも効果を発揮する。よって普通は強敵と対峙した時以外使わないのが配下達の常識だった。
「調子に乗るなよリリア!オレもあの御方から褒美に頂いたこのフードとグローブがある!次はオレがアイテムを使っている姿でも見てろ!」
「別行動にしようゴドロス」
リリアは間髪入れず即答し、ゴドロスを無視して歩きだした。
「オイ!逃げるなコノ野郎!オマエだけ気分良くなってんじゃねぇ!!」
ゴドロスが喚き散らすとリリアはクルっと振り返って涼し気に言い返す。
「逃げるだなんて人聞きの悪い。まだまだこの世界の人間は沢山残っているんだ、手分けして消すのが当然じゃないか」
リリアは何を言っているんだという雰囲気を醸し出す。対してゴドロスは正論を言われてぐうの音も出ず悔しそうにリリアを睨んだ。
プイっと2人は別方向に歩き出し、それぞれ別の区域を消し飛ばすべく転移したのだった。
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地獄の中に浮かぶ、天空の巨城の城壁付近ではリツが下の地獄を見下ろしていた。
「後は待つだけか」
リツは天力で自分以外の配下達に召喚の紐づけをし終えた。
どれ位掛かるか分からない。だが、待つしか無いのだ。獲物が釣れるまでこの地獄で鍛錬を積み、誰かが召喚されるのを待つしか無かった。
どれだけ三元力を鍛えようが、いくら地獄の鉱石を吸収しようが、地獄から出ることは出来なかった。
当然と言えば当然の話だ。部屋が分かっても住所が分からなければ辿り着けようが無い。リツは三元力で途方もない範囲を把握できるが、最大限に範囲を伸ばしても地獄以外の世界は検知出来なかった。
さらに神の罪人まで調べても神界の位置情報は入手出来なかったし、他の冥界世界にもめぼしい情報は無かったらしい。
他の冥界等は罪人を辿ることで黄泉を割り出し、黄泉を調べることで他の冥界世界には行き来できるようになった。だがそれはルートが割り出せたからだ。
罪人の記憶にある世界へ転移とはいかないという訳だった。
こちらから特定出来ないのであれば、あちらから特定してもらうまでだ。
配下を召喚させ、現世の位置情報を入手する。欠点は何時呼び出されるか分からいということと、リツの配下達は地獄に落ちてくる罪人たちを基準に考えると相当高位の存在であるため、相応の力が必要だということだった。
もしかしたら永遠に召喚されないかもしれない。だが、信じて待つしかない。
リツにとっては奇跡の、現世の人たちにとっては悪夢の瞬間を、ただ待つのだった。
──そして400万年程後
何時もの様に地獄では、ヘルボーンズ達が罪人を捕まえて、《煉獄》を採取する為に拷問を執り行っていた。
突如、拷問していた1人のヘルボーンズの足元に意味不明な文字が浮かび上がる。
そして1人のヘルボーンズは次元の彼方へと消えて行った。
14話までは正直前置きなので読み飛ばしてもらっても構いません。




