13話 ヴァルハラ
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※平日は仕事で投稿出来ないと思います。
世界は幾つものブロックに分けられ、それぞれの区域の中央には必ず屋根の無い巨大な円形の建物が、まるで住人を見下しているかの様に鎮座している。
各区域はそれぞれ全く違う景色で、石材で出来た広場であったり、土の地面に無数の藁人形が立てられた訓練場であったり、身を隠しやすいような現代の建物が並んでいたりする。
この世界の何処に行っても勇ましい雄たけびと、耳を脅す様なけたたましい凶器の使用音が昼夜問わず聞こえてくることから、住人には狂った熱気が蔓延していることが伺える。
燃え広がった炎の様に彼らの闘志は高熱で、彼ら自身消しようの無い災害となって戦いを貪っていく。
どちらかが勝ち、どちらかが負ける。そんなシンプルでいて、奥深い決闘が永遠と繰り返される。
神々はこの世界を戦士達の遊園地と呼んだ。
本当に戦士と呼ぶに相応しい真の戦士達が死後、全盛期の肉体を手に入れて歓喜と狂気と共に円形闘技場へと吸い込まれていく姿は、ここが彼らにとってはテーマパークに過ぎないと思わざるを得ない。
「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」
そしてこの、龍の装飾が至る所で見られる区域でも勝者の雄たけびが響き渡る。
円形闘技場の外には、龍の装飾が施された小型の柵に囲まれた簡易決闘エリアがあり、4メートルはあろう上半身裸の巨漢が空高く拳を上げて勝利の麻薬を服用していた。
「テメェら見たかっ!!これが強さだ!!!これが俺様の力だっ!!来いよテメェら!来いっ!この"神体"ムバロ様に掛かって来い!!!」
ムバロという、スキンヘッドに盛り上がった逆三角形の身体、黒革のズボンに鎖のようなベルトをした男はサムズアップしながら己の強さをアピールする。勝者の特権だ。
周囲で観戦していた猛者共が、勝利に酔った愚か者をへし折らんと一斉に闘志を剥き出しにして叫ぶ。
「オレがヤルっ!オレに戦わせろ!!」「ムバロ!!今日こそお前をブチ倒してやるぜ!!」「ウオオ!!ムバロぉ!叩き潰すぅ!!」
いかつい顔の男共が猛禽類のような眼でムバロを睨み、挑戦を申し出るが、ここはヴァルハラ、決闘の相手は公平に選出される。
「エクロート出身のダン、ストリートBエリアの決闘場へ」
決闘エリアの柵に施された龍が戦士の名を告げる。ヴァルハラでは各区域の中央にある円形闘技場以外、戦士の闘志に反応して各施設がランダムに選出するのだ。
「オイオイ、大丈夫かアイツ、ガキじゃねえか」「ケッ、チビが一端の戦士ぶりやがって」「シラケちまうぜクソ野郎っ!失せろ!!」
抽選漏れした周囲の猛者が次々にブーイングする中、少年は簡易決闘エリアへと入る。
少年ダンは白い髪に黄金の瞳をしており、黒いスーツにネクタイの恰好だが、周囲のガヤが言う通り身体も顔も子供だった。
これだけのブーイングの中、ムバロだけが静かに闘志を燃やし、獰猛な眼でダンを見つめている。
「テメェ、"デビルナイト"ダンだな。ギャハハッ!コイツは大物だな。面白れぇ、ここで白黒付けてやんよ」
ムバロが興奮して体の前で左右の拳をぶつけ合っている一方、ダンは涼し気な態度で言葉を返す。
「へぇ、知ってたの?でもさぁ、ボクが君に勝つことは知らないんだ?アハハ!"神体"ムバロは負ける。今ここでね」
両者は睨み合う。
中央に少し間を空け、お互い構えた。武器なんか無い。ここは己の肉体のみを武器として戦ってきた肉弾戦士の区域、"フィジカルバトル"のブロックなのだ。
決闘エリアを囲む柵と柵の間に透明な壁が現れ、装飾の龍が機械的に開始を宣言する。
「─ファイト─」
開始と共に無音でムバロが消えた。
刹那、落ちる影に気付き一瞬早くダンは後ろへバックステップした。
ドゴォォォォォン
ムバロは空振り右の拳で地面に突きを放つこととなった。地面は隕石が落ちたかの如くボコッと抉れ、衝撃で小石や瓦礫が吹き飛ぶ。
ダンはすかさず反撃に転じ、右手に炎のエネルギーを込めてムバロへと瞬身する。
が、ムバロが突きの体勢から一切無駄の無い動作でタックルした。
ドガァッ
ダンが壁のようなムバロの巨体にブチ当たる。
だが、吹き飛んだのはムバロの方だった。
ダンは今や、頭の角と蝙蝠の翼と尻尾を生やし、大人の身体になってスーツがピチピチになっている。
さらに、暗黒の湯気がダンの全身から吹き出し、周囲を威圧している。
吹き飛ばされたムバロは何事も無かったかの様にすくっと起き上がり、ダンの姿を見ると白くて眩いオーラを身体の周りに放出させ、筋肉を一層盛り上がらせた。
ダンも黙って見ている訳ではなく、出せる力を解放していく。額に第三の眼が開眼し、赤いオーラが立ち込め始めていく。
まだ2人の強化はつづく。
ムバロの身体には白く輝く模様が浮かび上がり、両腕にバチバチと白い電流が纏わりつく。
同時にダンの足元に不可思議な円陣が現れ、紫のオーラが赤いオーラに混じって拡大していく。
今度は二人同時に消えた。
ドドドドドドドドド
目にも止まらぬ超高スピードで両者がぶつかり合う。両者が衝突したであろう際に発生する、大気を揺るがす衝撃音が機関銃の如く連続して鳴り響く。
決闘エリア内の地面は吹き飛ばされ、どんどんメチャクチャになる。だが、柵は健在だ。
そしてとうとう音が止んだ。
両者はボロボロだった。ムバロの身体からは白い模様は消え、弱々しい白いオーラだけ残っている。さらに左腕が折れてダランとぶら下がり、頭から血を流している。
ダンの翼はボロボロでスーツは破け、第三の眼は閉じ、右肩が抉り取られそこから大量の血が流れだしている。そしてダンには微弱な赤いオーラしか無くなっていた。
「ハァハァ」
両者の乱れた呼吸が聞こえる。体力も残りわずかといったところだ。
不屈の闘志でお互い睨み合った後、両者は雌雄を決する最後の攻撃に出た。
赤と白のオーラが激突する。ムバロの右拳がダンを捉えた。が、ダンの尻尾がムバロの脇腹を貫く。
ズザァァァ
ダンは吹き飛ばされ、ムバロはその場で倒れこむ。
シーンと静まり返る中、両者の内1人が立ち上がった。
使い物にならなくなった左腕をダランと下げ、貫かれた脇腹を抑えながら、ムバロがヨロヨロと立ち、意識を失ったダンを見下ろす。
柵の装飾から決着のファンファーレが鳴り響き、機械的な声が告げられる。
「─勝者ムバロ─」
周囲から歓声と狂気の声がドッと沸き上がった。勝者の名前が告げられた後、決闘エリアと2者の戦士は速やかに回復される。
「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」
そしてまた、名も無き決闘が終わり、勝者の雄たけびが響き渡る。強者を打ち負かした喜びが麻薬の如く全身に巡り、また新たな強者を欲して闘志を焚きつける。
ここはヴァルハラ。死してなお、闘志が消えるまで戦い続ける狂乱の世界。
──と、そんな世界に、招いていない2人の男女が姿を現した。
フッと現れた2人の内、男はムバロ達が居る区域を見渡した後、この世界の全存在に向けて言い放った。
「皆殺しだ」
時間って何なんだろ。




