第二十六話 燃えろイイ女ぁ
再び荒野を進む
左手には例の渓谷が近くに見えて来る
辺りまで来た時、馬車が減速した。
「・・・・一台いるわ」
馬車を停止させると
腰に装着したバッグの中から
望遠鏡を取り出し覗き始めるソフィ。
ゲカイも前に出るが
直ぐに引っ込んでしまった。
肉眼で人物が特定出来る距離で無いと
判別不可だそうだ。
望遠鏡を覗くのを止めると
ソフィは言った。
「報告にあった一台と特徴が合致するわ。
ただ、妙・・・よね」
その馬車は周囲に何も無い場所で停車していた。
何より奇妙だったのは馬車を引く為の
馬が居なくなっている。
水を飲ませる為に一時的に外す事はあるが
近くに川も無い。
「まぁ調べるしか無ぇワケだが・・・。」
ヨハンはそう言って
ソフィに慎重にその馬車に接近させていく
様に指示した。
中の面々は臨戦態勢を取った。
「何か変な感覚です・・・仲間?」
ストレガがそう言った。
彼女が言う仲間とは
「体温を持つ者は居ない!」
20m付近まで接近した時
ゲカイが叫ぶ。
デビルアイを起動させている状態だった。
ストレガの仲間。
体温を持たない者。
ゲカイの叫び声が合図だったかのように
馬車から人影が数人転がり落ちて来た。
落ちて来る誰もが受け身を取らずに
地面に叩きつけられるも
痛がる様子も無く
ゆっくりと起き上がった。
「やりやがったな・・屍人だ」
「腐って無く無く無いっすか」
「出来立てほやほやなんだろ」
男子二人のやりとりに構わず
ストレガは窓から飛び出した。
「念の為に聞きます。助ける方法は」
着地と同時にそう叫ぶストレガ。
「無いわ!!馬車に戻って
奴らの足は遅い。振り切るのは簡単よ」
ソフィはそう答えて
手綱を操作し馬車の向きを変えた。
「放置出来ません。始末します」
そう言って
こちらにヨタヨタと向かってくる屍人に
向かって走り出すストレガ。
2~3mの距離まで接近すると
左手を構える。
「----!!」
小さめの鉛を複数装填すると射出した。
偽装の為の呪文も叫ぶ。
派手な炸裂音が響き
屍人は下半身を残し
挽肉になって吹き飛んだ。
御者の席から立ちあがったソフィは
太ももに括りつけたホルダーから
短い棒状の物を取り出すと
片手で素早く広げる。
扇だ。
アモンが好んで使用していた文字が
書かれている。
「火傷するわよ」
ソフィはそう言って
扇を横に払った。
中空構造になっている扇の支柱から
針が飛び出し、まだ距離の離れた
屍人に刺さる。
ヨハンは興味深く彼女を見た。
屍人は痛みも恐怖も感じない。
あの程度の攻撃では威嚇にもならない。
元冒険者で今は政府の依頼で動く彼女が
そんな事を知らないハズは無いので
一体何が起きるのか興味深々だ。
案の定、針の命中した屍人は
反動に体を揺らめかせただけで
歩みを止めなかった。
しかし、直後に
命中した箇所から炎が噴き出し
衣服に引火すると
屍人は見る見る内に炎に包まれ倒れた。
「俺ら出番無くないっすか」
「近接格闘の出番は・・・まぁ
近づかれてからでイイんじゃ無ぇか」
チャッキーのぼやきに
そう答えたヨハンだが
武装を解き始めた。
これは出番が無い。
現に数人居た屍人は女子二人に
あっという間に片づけられてしまった。
「本当に威力の低い呪文は苦手だったのね」
木端微塵に吹き飛ばされた屍人の残骸を
眺めソフィはそう言った。
試合の時は当然、殺したらいけないので
我が身に使われる事は無かったが
何かの時、もしストレガが敵に回るとなれば
あの電撃の替わりに今回の術が
見舞われるのだ。
ぞっとした。
「いえ・・・それ程でも」
今の射出は悪魔ボディの機構を使用したモノで
魔法では無かった。
今の所、ストレガが出来る魔法は
防音などの戦闘には向かないモノばかりだ。
それなので、あまり感心されると
良心が痛むのだ。
見舞われる方にはどっちでも同じなのだが。
「マジ俺ら要らなくないっすか」
「そう言うな。きっと活躍する場面が来るさ」
と、言いつつ
来ないような気がしていたヨハンであった。




