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13 ナサルエラ城塞


それから3年後。

ジェームス メリザウェイはロラーナ メリザウェイと一緒にダンジョン探索を行うようになっていた。


ロナーナの運動能力は人間を超えた力と速さを示した。

ただ、自重が重いため軟弱な地盤での行動は向いていなかった。

体に組み込まれた雷魔術魔道具は、完全にオーバースペックでダンジョン内の魔物を殲滅するのは良いが、周りの人間も巻き添えを喰うので戦闘時は近くに寄れなかった。


「ロラーナ、休憩にしよう。年寄りにはきついわ」

『はい、お父様。休憩にしましょう』

「今度は、ここのダンジョンは明日まで探索して、家に帰ろうか」

『はい、お父様。明日までにして、家に帰りましょう』


上手く会話訓練をすれば、臨機応変自在に話すようになるらしいが、ジェームスの会話が下手なのか、3年たってもロラーナの会話は問いかけに対するオウム返しが多い。

でも、ジェームス メリザウェイは一緒に生活する家族ができて、毎日が楽しかった。



そんなダンジョン探索の日々が続く中、

ある日の事、メリザウェイ親子がダンジョン内のゲートを抜けると見知らぬ魔術陣の上にいた。



そこはフェリアという異世界だった。



-----



帝国暦392年モラ月8日早朝、フェリア、緩衝地帯、東の4ナサルエラ城塞中央塔屋上


「ロラーナ、来たぞ。 敵先鋒は距離3500、陣形は2段構え、前衛ざっと6000、後衛5000ぐらいか。後衛は陣形が整然としている。ミカーラ殿の言ってたデモン族の精鋭部隊だろう。要塞に残ってる義勇兵83名は全員地下壕に隠れる手はずだ。戦場に味方は居ないから、お前は自由に遊撃して敵を殲滅しなさい。くれぐれも足元には気をつけるんだぞ」


『はい、お父様。遊撃して敵を殲滅します。足元には気を付けますよ、私重いですから』


昇ってきた日が、あたりをオレンジ色に染めていく。

峠の城塞から北に下る山腹には、これまでに押し寄せては殲滅された魔族のなれの果てが散乱している。

風向きによっては腐臭が流れてくるが、人間側は人員不足でかたずけられず放置するしかなかった。

麓の方には、魔族の軍団の動く黒い塊がいくつも見える。


「敵の指揮中枢の情報を教えておく。陣形配置と魔力の大きさから、敵の指揮官らしいのは、2か所。1番ターゲットは方位32度、距離は5025。2番ターゲットは3度ほぼ真北、距離は5545。こいつらを早めにつぶしておくと後が楽になるぞ」


『はい、お父様。敵、指揮官確認しました。優先的にやっつけてしまいます』


「ロラーナ、今日の敵は強い、ここまでやってくる。私は城壁の上からではなく、地下壕入口前の廊下で迎え撃つ。あそこは一度に多数を相手にするのにちょうどいいからな。お前は魔精石のエネルギーが半分になったら離脱して、父の所まで戻っておいで。もし父が死んでいたら、この氷の魔術杖と予備の魔精石を回収して西ルートのミカーラ殿と合流しなさい。お前の将来の事を頼んである。残った敵の殲滅はしなくてもよい、私たちはもう十分この世界に尽くしてやってるからな」


『はい、お父様。半分になったら戻ってきます。死んでいたらミカーラ様と合流します。赤のドラゴンとまた会いたいです』

ロラーナはにっこりと笑顔を見せる。


「それではロラーナ元気でな。ミカーラ殿に本当の心を探してもらいなさい」


『はい、お父様。今日までありがとうございました。ご武運を』


ロラーナは栗色の髪を風に揺らし、戦場に向かい去っていった。



ジェームス メリザウェイは、娘が父の死に感情を持たなかったのが悲しかった。

それよりもドラゴンというあの大きな生き物に会うのが楽しみにしている。

人間の共感という要素がまだ欠けているようだ。

でも、表情の豊かさなど、以前より大きな進歩が見られるのは父としては喜ぶべきと思った。

娘はこちらの世界の標準語である神殿語などはもう完全にマスターしてしまっているので、ミカーラ殿ともうまくやっていけるだろう。



「さて、今日は生き残れないだろうな、ちょうど死に時ということだな。ああ、これまでいろいろあったけど、けっこう楽しかったよ。思い残すことはなにもない。ロラーナも手が離れるし、やっとエルの元にいける」


ジェームス メリザウェイは、わざわざ口にだして自分に言い聞かせた。

そして、ノエルの婚約指輪を左手の節くれだった小指に押し込み、塔の階段を降りて行った。



・・・・・



勇者メリザウェイ列傳(抜粋)

 ジェームス メリザウェイ: ラルフェリア帝国歴386年に異世界オブラより召喚される。異世界勇者召喚の歴史の中で最高齢の64才で召喚。探知魔法に優れる。称号『探索者』

 ロラーナ メリザウェイ: ジェームス メリザウェイの娘。ホムンクルス。15才。雷魔法に優れ、魔力の補給が続けば数日間の連続戦闘もおこなった。称号『殲滅者』

フェリアは当時、魔王討伐に召喚された勇者オルロソン『感染者』が異世界から偶然に持ち込んだ「勇者病」が流行していた。伝染力が強いこの病気は全身に水疱を形成し致命率も高かった。ラウランの鏡での人の遠隔地瞬間移動が勇者病の急激広範な流行拡大をもたらした。わずか5年間で、当時の帝国の推定人口8000万のうち25パーセントが死亡した。後年ダイオフと呼ばれたフェリア最大の危機だった。この混乱で社会基盤が崩壊し、北の魔族領域からの侵入を防いでいた防衛網も消滅した。勇者病は魔族には全く影響がなく、人間側が自滅した状況であった。

防衛戦力召喚を目的とした異世界召喚で召喚陣に現れたのは、人間ではなくゲートという異世界扉だった。そのゲートの中から出てきたのがメリザウェイ親子だった。勇者メリザウェイはフェリアの危機を知り、進んで緩衝地帯防衛を引き受けた。最悪の5年間、緩衝地帯東ルート防衛をほとんど孤立無援で担当し、度重なる魔族の侵入を撃退殲滅した。392年、ジェームス メリザウェイはナサルエラ要塞で魔族最強部隊と言われたデモン族アヌンシア-ソブリとの戦いで倒れた。ロラーナは敵殲滅後に姿を消しその行方は誰も知らない。



【召喚宮と私 外伝1 終わり】


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