おそらく友人候補に奇襲をかけられた話
結局、私が無事に新しいクラスへとたどり着いたのは、ホームルームが始まる数分前、というぎりぎりの時間だった。
宮本くんが保健室から持ってきてくれた氷嚢で、ぎりぎりまで目を冷やし、女子トイレでないたことがばれないように念入りに化粧を直した。その間、ずっと廊下で待っていてくれた彼には、何度も帰っていいと伝えたのだが、「泣いた女の子を一人で置いていくほどひどい男じゃない」といつもの笑顔で返されれば、私に反論の余地は無かった。
…こんなときばっかり女の子扱いして……。ほんと、ずるい。
この人は、私のことなんてどうせ友人以上には見てくれないのに。なんでこんなにやさしいんだろう…。
「…お助けキャラだから、か…」
私がヒロインで、彼がお助けキャラだから。
私が困ったときに現れて、私が欲しい言葉をくれる。だからこんなこと当たり前なんだ。
そんなことは十分理解しているのに、これから出会うはずのヒーローなんかより、ずっと彼のほうが王子様に見えてしまう。彼の笑顔と優しさが、私の心を離さないのだ。
「はじめまして、西園寺京香です」
「は、はあ」
「町本…百合子さん?よね?」
さて話は、冒頭に返る。私と、宮本くんが、教室にたどりつき、一緒に中へ駆け込むと(どうやら一緒のクラスだったらしい)、それまでざわついていた室内が一瞬動きを止めた。そして、私たち、いや、主に私を見て、再びざわめき始める。
ああ、もうさっきの話が広がってるんだ…。
そう認識した私は、心配そうにこっちを見る宮本くんに対して、「大丈夫」と小さく断りを入れて、座席を確認するために、黒板に貼ってある表のところまで足を進めた。
そして、彼女に声をかけられたのは、座席表の中に自分の名前を探している最中のことだった。
ぽんぽんと肩をたたかれ、振り返ると、そこに立っていたのは一切の隙の無い完璧な笑顔を浮かべる美少女、いや、美女、宝塚系美女だった。
あまりの美女っぷりに一瞬固まってしまった私を気にすることなく、「町本さんは私の隣よ」と彼女、もとい西園寺さんは私の手を引く。
端から二番目の後ろから二番目。なんとも説明しにくい席に案内されて、私がそこに座るや否や、隣の席に着いた彼女はこちらに身を乗り出して、目を輝かせる。
「で?どうなの?あのうわさってホント?」
「う、うわさ…?」
そうよ!う、わ、さ!
興奮しているのか、彼女の声が教室内でどんどん大きくなっていく。ああ、もうちょっと、もうちょっと声のボリューム落としてくれないかな、西園寺さん。でも彼女は空気を呼んではくれなかった。
あのいけすかない九軒を抜かして入試トップを取った美少女がそれだけでも十分なのに、喧嘩でぼっこぼこにあのあほ負かしてくれたって!
「私、今までの人生の中で、今さいっこうに気分がいいわ!ありがとう!町本さん!!!」
…西園寺さん、それ、半分以上間違った情報です……。
教室中が固まった空気の中に、それをものともせず入ってきた担任の先生のせいで、私は完全に反論のタイミングを失った。




