油断=最大のフラグだという話
星条に入学してから、2週間が経った。
クラスのこと上手くやっているかと聞かれれば、それは微妙としか答えられないが、京香の演劇部の先輩が、廊下で会うと声をかけてくれるようになったのは、人間関係において大きな進歩である。
「うちの子、ほんとわがままで破天荒で。町本さん振り回されて大変でしょ?」
「嫌だわ、お姉様方ったら。私の百合に変なこと言わないで下さらない?」
そう歓談する先輩方と京香を見て、「生、お姉さま、呼び…」とあっけにとられたのはいい思い出である。
そういえば、ゴールデンウイークの最終日に、宮本くんが所属するサッカー部の練習試合があるらしい。
出られるかどうかはわからないけれど、いや、むしろ絶対と言っていいほど出る可能性は低いけど、遊びに来る?ときかれれば、私に断る理由は無かった。
こんな感じで私の人間関係の輪は小さいながらも、順調な高校生ライフを送っていた。
あの暴君ともあれ以来一度も遭遇していないし、攻略対象らしき人物にも全く出会っていない。
ほんとうにこの世界が乙女ゲームで、私がヒロインなのがうそのように、この2週間の生活は平凡で静かで楽しいものだった。
あれ?これもしかしてこのままいけるんじゃない?
そんな平凡な日常に対して私がこんな感想を抱くのはしごく当然のことで。
この小さい世界で、目立たずに過ごせば、この3年間この調子で乗り越えられるんじゃない?
勉強をがんばって、後期からは生徒会に青春をささげ、宮本くんに届くかどうかわからないながらもアタックし続ける高校生活。うん、なかなかに素敵。
そうだよ、物語を始める必要なんて無いんだ。出会わなければ、フラグなんて立たないんだから。
「よしっ!!」
今日も気合を入れて私は洗面台の鏡をのぞく。
寝癖なし。にきびなし。化粧ののりも最高。笑顔、…微妙。でも無表情でも見れる顔だからオッケー。
父さんが作った朝食を食べて、母さんに送り出され、いつもどおりの時間に家を出る。
今日も何一つ変わらない、平凡な日常だ。
「ああ、幸せ」
こう思ってしまったのが、もう既にフラグだと気がつかないまま、この何の変哲も無い4月25日が、一人目の攻略の初日になるなんて思いもしなかった。




