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一宿一飯の恩8



 異国の街。石造りの家。

 昨夜出会った女。女の腕に抱かれた三歳児が俺をパパと呼ぶ。

 あれ? なんか俺、騙されてね?

 騙されてないとしても、流されてね?


「また、ろくでもないこと考えてない?」


 姫様はおかんむりである。

 戸籍取得の話し合い。城に出向いて城主と会って、天秤神官立会いで住まいと職を得た。そこまではいい。その後の、城主と天秤神官が設えた歓談の席が良くなかった。

 理想郷たる異世界の女性には、生まれながらに相棒がいる。女性の成長を見守る精霊は、周囲の人も守ろうとする。東に楽がしたいから働かない男あれば「ならお前ずっと童貞な」と脅し、西に衝動的に殺人を犯す男あれば魔法で安全を確保してから現場を押さえて死ぬまで強制労働させる。

 神代の昔より、悪事をなした精霊はない。人助けを拒めば、精霊は女から離れる。ゆえに女達は、盲目的に精霊に従う。悪事を憎み、悪戯を愛する精霊に、従う。らしい。


「どーせあのオバサン達の胸でも思い出してたんでしょっ!」


 城主も天秤神官も三十路のバインバインのプリンプリン。サクラをからかうために、わざわざ胸元の際どい服に着替えて、未婚をアピールしながら俺の左右に張り付いて離してくれなかった。役得役得。


「あいにく、胸よりケツ派だからなあ」

「そーですかっ」

「とりあえず座れ。布団がないからベッドに直だけど、石造りの床に座るよりはいい」


 城壁の外で作業する労働者に家庭持ちは少ないらしい。西門近くの家族向け賃貸住宅は空きも多く、すぐに入居出来た。

 玄関を開けると左に竈が二つ、右に狭い風呂とトイレ、暖炉のある広いリビング、その奥にベッドルーム二つ。平均的な日本人なら不便に感じても、電気の来ていない田舎の国の家だと思えば上等過ぎる。


「それより、職と住居は決まった。なのにその子の名前がまだだ。買出しの前に名前を決めてやりたい。将来、名前の由来を聞かれた時、こいつが喜んでくれるようなのがいいんだが、どうだ?」


 言いながら腕に抱かれた子の頭を撫でた後、サクラの頬も撫でながら乱れた黒髪を耳にかけてやる。とたんに赤面しながら「わ、わわわ私もそう思う」となった。うん。免疫ねえなあ。


「和風とこちら風なら、どっちがいい?」

「断然、和風」

「その子が大きくなる過程で、友達との名前の響きの違いに戸惑ったり、からかわれたりしたとしても大丈夫か?」


 サクラに向かい合う形で胡坐を掻き、子供を膝に乗せる。「ぱぁぱー」何度呼ばれても、無条件で笑顔になる。


「母様が言うには、その子は思春期の終わりで成長が一度止まるらしいの。私達みたいに。個体数の少ない種族だから、そうやって伴侶を見つけるまで過ごすんだって」

「なんて種族なんだ?」

「秘密だって笑って教えてくれない。ただ、生活のすべては人間と同じで大丈夫だから。だから、私達の子供でいいよね!? 私達みたいに時が止まって、大切な人達を看取る事がずっと続いても、家族でいたら頑張れるから! だから家族でいいんだよね!?」


 泣きそうな顔に、デコピンをくれてやる。


「いたーっ」

「当たり前の事を言うから、デコピン様がお怒りになるのじゃ」

「・・・ごめんなさい」

「んで、名前な。お母さんと同じ、遠い故郷の花の名前よ、のパターン。これが難しい。男の子だからなあ。植物括りならだいぶある」

「んー。お父さんと同じ何々、とかお父さんから一字貰った、なら?」

「魁人。先駆ける人、一番乗りの人、イメージ悪いから却下。北斗七星の一番目が天魁、貪狼星。天人、貪人、狼人、星人。ろくでもねえな」

「二番目の星なんだっけ?」

「たしか巨門星。巨人、門人。ありえねえだろ。なんだこれ」



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