第60話 エピローグ
ハーヴィーン王国の南にあるのどかな農村――カンパーニ村。
赤い屋根の家の近く、丸みを帯びた大きな石の前にベンゼルとリディーはいた。
「――じゃあな、ルキウス。また近いうちに」
ゼティア、フィリンナと同様、一週間かけてじっくり土産話を聞かせてきたルキウスのお墓。
名前が刻まれた表面にベンゼルは拳を当てると、ゆっくり立ち上がる。
「お見送りしますね!」
「ああ、ありがとう」
そして二人は村の入り口に向かった。
☆
ベンゼルは厩舎からシュライザーを連れ出すと、リディーの前で停止させる。
「これから大変ですね!」
「そうだな。はぁ……」
カンパーニ村に帰ってくる前、ベンゼル達は王都に寄り、ハーヴィーン王に帰還の報告をした。
すると、再会の喜びもそこそこに、今後の流れ――ベンゼルが目覚めたことを大々的に発表し、それに伴って宴を開催する――について聞かされた。
労ってくれるのはありがたく、一回や二回程度なら喜んで参加していただろう。
だが、これから都度ゲストを変え、計百回近く宴を開催されると聞かされた今では、ただただ気が重い。
「あはは、頑張ってください!」
「ああ、勇者パーティーの一員としての最後の仕事だからな」
「ですね!」
リディーはにこっと微笑むと、手を伸ばしてきた。
「ルゼフさん、これまで本当にありがとうございました! この数年、すっごく楽しかったです!」
ベンゼルはフッと笑うと、その手を握り返す。
「こちらこそ。最初、この旅はもっと暗いものになると思っていたが、お前のおかげで毎日楽しかった」
「えへへ。これからもよろしくお願いします!」
「もちろん。俺のほうこそ、よろしく頼む」
「はい! そしてシュライザーも! これまでいっぱいありがとう。そしてこれからもよろしくね!」
「ぶるるーん!」
初めて会った時と同様、シュライザーはリディーの胸の辺りに頭を撫でつける。
変わらぬやり取りに頬を緩めると、ベンゼルは御者台に上がった。
「じゃあな、リディー。また」
「ぶるっ!」
「はい、また!」
ベンゼルは手綱を動かし、カンパーニ村を後にする。
それを見届けたリディーは両親の手伝いをするため、畑へ。
そうして二人は平和になったこの世界で、かつての日常へと戻っていくのだった。




