第21話:情報の特異点(インフォメーション・シンギュラリティ)
ゾルダン帝国情報省、地下第一三資料室。
入国からわずか三日。俺――アルスは、帝国の「心臓部」にハッキング(不正アクセス)を完了させていた。
「……観測完了。帝国の魔導通信網『エテ・ル・ネット』のバックドアを確保。……ミリセント、同期を開始しろ」
『了解っ! あはは、帝国の暗号コード、旧式すぎて笑っちゃうわ。……今この瞬間から、皇帝の愛人の数から、軍の秘密基地の座標まで、全部私たちのものよ!』
通信機越しに、ミリセントの狂喜した声が響く。
俺の目の前の水晶板には、帝国の「不都合な真実」が滝のように流れ落ちていた。
「……リナ。……フェンリルの正体を特定した」
『……誰だ』
「帝国情報省・長官その人だ。……彼は、自分の地位を守るために、自国で『偽の反乱軍』を組織し、それを鎮圧することで権力を維持してきた。……ユリウスを操り、王国を侵略しようとしたのも、すべては自分の『手柄』を捏造するためだ」
リナの殺気が通信越しに伝わってくる。
だが、俺は冷酷に、次なるフェーズのスイッチを入れた。
「……シオン、セレスティア。……『パンドラ・リーク』の開始だ。……帝国の全魔導掲示板、全拡声機、そして全家庭の受信機をジャックしろ。……聖女の口から、皇帝と長官の『真実』を囁かせるんだ」
『任せて、先生!……街中の電光掲示板が、今、皇帝の裏帳簿に書き換わったよ!』
『……アルス。……私は、もう迷わない。……この国の嘘を、神の名ではなく、情報の力で裁いてみせるわ』
数分後。
帝都ゾルダンは、阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。
「皇帝は、自国の鉱山を敵国に売り渡していた!?」「長官が、自分の部下を『偽の反乱軍』として殺していたのか!?」
街中の至る所で、証拠映像と音声がループ再生される。
情報の非対称性が、一瞬にして逆転した。
逃げ場を失った皇帝の私兵たちが、怒れる民衆の波に飲み込まれていく。
魔法の火力がどれほど強かろうと、全方位から突きつけられた「真実」という名の刃を凌ぐことはできない。
俺は資料室の窓から、燃える帝都を眺めた。
「……勝負は、剣を抜く前に決まっていた。……フェンリル、いや、長官。……君が積み上げた『嘘の帝国』の終焉だ」
崩壊する国家。
その最中、俺は静かに最後の一通の書類をシュレッダーにかけ、資料室を後にした。
次の一手。
それは、世界を救うことではない。
世界を、俺の『観測下』に置くことだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。桜庭ユウトです。
物語は一気に「帝国の崩壊」へと進みました。
これまで積み上げてきた暗号、潜入、工作のすべてが、この「一瞬」のためにあった。
読者の皆さんに、爆発的なカタルシスを感じていただけていれば幸いです。
いよいよ次話、第22話。
宿敵フェンリルとの直接対面、そして物語の「幕引き」へと向かいます。
物理的な戦闘ではなく、情報の力だけで相手の精神を破壊するアルスの最期の工作。
「情報の力で国が滅ぶ瞬間が最高にスカッとした!」
「最後まで見届けたい!」
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皆さんの「観測」が、アルスの物語を完結へと導きます。
第22話、勝負は剣を抜く前に決まっていた(最終回直前)編をお楽しみに。




