槍
いつも通り夜明け前に目覚めた魔弾は、祈りの間で祈っていた。
神への感謝と、この先にある戦いでの加護を願い静かに祈り続けた。
しばらくして足が痺れ始めたので宿舎に戻ろうと目を開けると、出口の近くにシラの姿を見つけた。
シラは魔弾が祈りを終えるまで待っていたようで、魔弾が立ち上がると同時に広間に入って来た。
「おはようございます。」
魔弾がシラに挨拶をすると、シラは小声で答えた。
「ダン、ザロが外で待っています。」
ーーザロが?緊急事態とかじゃないよな?
シラに会釈をして急いで外へ出ると、岩に座り退屈そうにしているザロが待っていた。
「ザロ、おはよう。こんな朝早くどうした?」
「今日鍛冶屋に行くって聞いたけど、違うの?」
ザロがキョトンとした表情で魔弾を見つめる。
「えっ?!こんな早く行くの?!流石に迷惑だろ。俺まだ朝飯も食べてないし。」
「朝飯どうする?広場はまだ屋台出てないけど。宿舎戻るの?」
「とりあえず一旦宿舎に戻るよ。手持ちも少ないし、買い物行くならそれなりに用意したいからな。」
「分かった!じゃあ宿舎に行こう。」
そう言ってザロは魔弾の宿舎に向かって歩き出した。
ーーえっ…ザロも宿舎に来んの?
ザロは振り返りながら、昨夜の夕食で久々にシトとたくさん会話出来た事を、嬉しそうに話していた。
ーーそれにしても俺ら二人って随分ザロに懐かれてるよなー…同年代の子とつるんでいるの見た事ないし、やっぱり駆除人て特別な存在なのかな?
宿舎に着くと、従業員たちはすでに食事を摂っていた。
「ダン、タキリ様から話は聞いてるぞ。俺たちも仕事の合間に順番で祈りに行くから、必ず無事に戻って来いよな。」
バルの表情は硬く、魔弾に緊張が伝わった。
「バル…ありがとう。一応監視だからそこまで危険ではないと思うけど、交代で監視する事になるから、戻れる時は宿舎に戻ってくるよ。」
従業員全員が魔弾を心配する空気が流れる中、ザロがミラに話しかける。
「俺も食べていい?」
ーーザロよ、お前…大物すぎるだろ…
「え?ええ…もちろん、今用意するわね。」
ミラも突然の事で驚いたようだが、すぐに椀を用意しスープをよそった。
「じゃあ俺たちはもう出る。ダン、気をつけてな。無理はするなよ。」
バルが立ち上がると、従業員達も後に続いた。
従業員全員が魔弾に温かい言葉をかけ宿舎を出て行く中、魔弾は必死に笑顔を作っていたが、最後の一人が出て行くと魔弾の堪えていた涙は一気に溢れ出した。
それは純粋に嬉しさからくる涙だった。
魔弾は嬉しさを噛み締めながら、テーブルに座り用意されたスープを口に運んだ。
流石のザロも驚いたのか、自分がスープを飲み終わった後も魔弾が落ち着くまで話しかけずに待っている。
魔弾がスープを飲み終えると、我慢ができずに早速ザロは話しかけた。
「ダンの住んでる部屋どこ?行っていい?」
「部屋?いいけど、何もないぞ?」
二人は食器を片付け、従業員達のいない静まり返った2階へ上がる。
「本当に何もない…。」
ザロが残念そうに呟くと、外出の準備をしながら魔弾が答えた。
「だから言っただろ…ところで、何か持って行った方が良い物あるかな?俺監視なんて初めてだし、何が必要か分かんないんだよな。」
「うーん、特に無い!大体小屋に揃ってるし、食事は交代時に運んでもらえるから俺は何も持っていかないよ?水袋くらい?」
ーーおいおいマジかよ…なんか緊張感無いなぁー…。
「い…一応色々持っていくわ…。」
魔弾は思いつく限りの道具を麻袋に詰め込んだ。
「そんなに荷物あるの?小屋に色々あるよ?」
「いや、色々準備はしておいた方が良いだろ?何が起きるか分からないし。」
そう言って部屋を出ようとした魔弾の麻袋は、はち切れそうなほど膨らんでいた。
宿舎の外に出ると人通りはそれなりにあり、祈りの間の付近はとりわけ賑わっているようにも見えた。
「もう、鍛冶屋さんは店開けてるのかな?もう少し待った方がいい?」
「親父はいつも朝早く斧の修理とか行ってたし、多分もう起きてるよ。」
「そっか、じゃあ行きますか!」
住宅街の路地を進んで行くと、ザロの家の斜向かいに石造りの平家に到着した。
ーー店なの?普通の住宅っぽいけど…
魔弾の不安をよそに、ザロは扉を開け中へ入って行ってしまった。
仕方なく魔弾も入ると、中には初老の男が椅子に座って本を読んでいた。
「ザロか?親父の使いか?」
「違うよ。今日は自分のが欲しくて、あとダンの分も。」
「すでにできてる物でよけりゃ、奥にあるから好きな物持っていきな。」
「分かった!ダン、行こ!」
奥の部屋に入ると、そこには色々な種類の武器が飾ってあった。
ザロは槍が気に入ったのか、手に取って感触を確かめている。
魔弾は、まず鉈のようなものを手に取り、一振りして感覚を確かめ鍛冶屋に話しかけた。
「これって切れ味どのくらいですか?一振りで化け物の腕落とせるくらいの切れ味が欲しいんですが…。」
「一振りねぇ…骨も切るって事だろ?そんな硬い鉱石はレテじゃ取れないから、俺の所には置いてないぜ。」
ーーやっぱり厳しいか…それならリーチがある武器一択だよな…
魔弾は槍を手に考えていた。
「あの、作ってもらう事もできるんですか?」
「ものによっては何日もかかるが、それでもよけれゃ作るぞ。」
魔弾は麻袋の中から紙と筆記用の炭を取り出し、理想の武器を描いて見せた。
「こんな感じで、刃の部分は薄くてかつ切れ味が良く、先端は突き刺せる感じにしたいんですけど…あと柄の部分はこれくらいで、なるべく頑丈にしたいんですよね…どうでしょうか?いけそうですか?」
「ほーん…そりゃ面白いな!作ってみるとするか。あぁ、お代は出来上がってからでいいぞ。」
「え?!いけますか?!じゃあよろしくお願いします。あ、後この槍買います。」
魔弾が槍の支払いを終えウキウキで待っていると、悲しそうな表情で槍を見つめるザロが目に入った。
「どうした?」
魔弾が心配そうにザロに近づいた。
「え?うん、高いから…俺はいいや。」
ーーえ?駆除人て給金結構貰ってんじゃないの?!ザロは一人前じゃ無いから安いのか?でも駆除人じゃない俺らでも金1つ貰えたぞ??
詳しい事情は分からなかったが、魔弾は不憫に思いザロが戻した槍を手に取り代金を支払った。
「立派な駆除人になったら、返してくれれば良いからな。」
魔弾はザロに槍を渡して、笑いながら肩を軽く叩いた。
「え…いいの?本当にいいの?」
ザロは嬉しさでいっぱいの表情を魔弾に向けた。
「俺これでも結構稼いでるから!ジンほどじゃないけど!」
魔弾が笑いながら答えると、ザロもそれに応えて笑った。
買い物を終えた二人は、シトの指示に従い集合先の広場へ向かった。
そこにはサキとジンを除いたメンバーが待っていた。
「昨日、タキリ様と話した内容なんだが話していいか?」
シトが早く座れと言わんばかりに、魔弾とザロを見た。
二人が座るとシトがテーブルに地図を二枚広げて、話を始めた。




