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「はい、これ」


 私をベンチに座らせると、彼はその足で自動販売機に走って行った。


「体冷えちゃってるから、温かいやつね」


 ホットの缶を受け取って、それを両手の平で抱えて暖をとる。


「これで大丈夫だったかな。前も乃亜、ブラックだったから」


 その柔らかな表情とは裏腹に、彼の拳は腿の横、ぎゅっと強く握られていた。


「勇太君、座らないの?」


 ベンチの端に身を寄せて、座面を二回叩いて言った。


「勇太君?」


 けれど、彼は耳にしていないよう。


「乃亜」


 突如真剣な眼差しで名を呼ばれ、背筋が伸びる。


「うん?」


 彼はその瞳のままに、喋り出す。


「今日、乃亜が来なかったら言うのやめようと思ってたんだけど……乃亜来てくれたからさ。だから、話してもいい?」

「うん」

「この夏休み中ね、乃亜と会えるこの時間が本当楽しみだった。いつの間にか勉強の為じゃなくって俺、乃亜と会う為に図書館へ来てた。新学期が始まったら、もうこんな時間がなくなるんだと思って嫌になって、苦しくなって、昨日眠れなかったよ。ああ、俺はまだ乃亜とこうしていたいんだなって、気付かされた」


 ゆっくりと片膝を床につけた彼は、私の手に自身の手を重ねて置いた。


「乃亜が好きです。俺と付き合って下さい」


 その姿はまるで、お伽話に出てくる王子様のようだった。



✴︎

 ✴︎

✴︎

 ✴︎

✴︎



 起きろ起きろと無機質な電子音で訴えかけてくるアラームは、いつ何時(なんどき)耳にしても鬱陶しい。


「ん〜っ……」


 眠たい目をこすり開けるカーテンの先には、真夏と然程変わらぬ太陽。九月になれど、結局暑い。



「おはよー乃亜、宿題終わったあ?」


 元気一杯朝型の凛花(りんか)は、うちわで顔を扇ぎながら下駄箱に靴を入れた。


「なんとかクリア。凛花はバスケ部引退してからの夏休みだったから、大変だったでしょ」

「ほんとそれ。超ヤバかったけど昨日ギリギリ終わらせたよ」


 彼女は小学校からの友人で、私の親友だ。



「恋人のひとりもできないまま、とうとう中学生活終わるかも」


 自身の席に座るやいなや、凛花は溜め息をついた。


「これからはもう、受験まっしぐらじゃん?みんな、恋なんてしてる暇ないじゃん?ああ、中学の青春終わったわあ」


 べチンと机に顔を落とす凛花。私はそんな彼女に小声で言う。


「実は私、彼氏できたの」


 その瞬間、ガバッと顔を剥がした彼女に叫ばれた。


「この裏切り者お!いつの間に!」


 ぴゃあぴゃあと唾まで投げつけてくる。


「落ち着いてよ凛花っ。ほんと、つい昨日の出来事で、言う暇がなかっただけっ。隠してたとかじゃないから」

「だ、誰っ」

「勇太君」

「菊池勇太!?なんでまた学年イチの秀才と乃亜が……真逆じゃんっ!」

「どういう意味っ」


 ぷうっと頬に空気を入れて反抗すると共に、私は黒目を行き交わせた。勇太君はまだ、登校前のようだ。

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