第19話 残虐なあなたへ④『悪魔崇拝』
病院が爆発し、悠たちは外に投げ出される。悠はアリスを護るように抱きしめ、そのまま外の茂みに放り出された。
「―――っ!が、はぁ!」
背中に強い衝撃が走り、息が一瞬止まる。アリスは悠の腕の中で気を失っていた。頭から血が出ているが見たところかすり傷のようだった。
悠はアリスをゆっくりと下ろし、爆発した病院を見る。するとすぐに二度目の爆発が起きた。
「すぐに人払いをしろ!本部に連絡して結界の範囲を病院から半径一キロに広げるんだ!手の空いているものはおれについてこい!」
リーゼウスが煤まみれで病院に向かっていく。
「邪魔はさせんよ魔術会」
リーゼウスが病院に入るのを阻むように黒のローブを着た二人組が突如として現れた。
「やっと姿を現してくれたな、悪魔崇拝者ども」
そこからは魔術の応酬だった。バチバチと火花が飛び散り、周囲の建物を次々と破壊していく。火花は悠たちのところまで降りかかる。悠はアリスに覆いかぶさり火花や粉塵から守る。
「二人とも、無事か?」
茂みからリーゼウスの部下が出てくる。悠は頷くとリーゼウスの部下に背を向ける。その瞬間、リーゼウスの部下は杖を取り出し二人に魔術を放った。
「死に絶えよ」
「お前は誰だ!」
悠は魔術が繰り出されると同時に魔具を抜き、斬りかかった。魔術は刃に当たり、弾けた。その衝撃で襲いかかってきた魔術師は後方に仰け反った。
「リーゼウスさんの部下にお前はいない。どこのどいつだお前は。病院の件の関係者か?」
悠はリーゼウスの部下の顔は全員覚えていた。というかアレンの周囲の人間の顔は全て。
「痛え……痛えなぁおい!非魔術師が魔具一本で随分ゴキゲンじゃねぇか!くっそムカつくなぁおい!」
先ほどの衝撃で襲ってきた魔術師は顔の半分が焼け爛れていた。
「決めた。お前はグッチャグチャのメッタメタに殺す!そんでそこで寝てる女は犯す!嬲って嬲って嬲りまくって殺す!」
「……やらせねーよ」
このタイミングで襲ってくるあたり、自分たちが来るのを待ち構えていたのだろう。リーゼウスが妨害されたりヘレナが爆発に巻き込まれるのをみるに、この者たちがどういう集団かすぐに察しがついた。
「悪魔崇拝か」
「死ね死ね死ね死ねぇ!」
魔術師は乱雑に魔術を放つ。悠はこちらに来るものを紙一重で魔具でいなしていく。ジリジリと距離を詰めていく。段々と魔術師は焦り、そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
※ ※ ※
リーゼウスたちは二人組の魔術師にイライラしていた。
「何なんだこいつら!守りに徹しやがって!」
二人組はリーゼウスたちを病院に入れさせないことが目的のようで、ただひたすらにリーゼウスたちの攻撃をいなすだけだった。
「いやいや、あんたが弱いだけだよ。おれ程度も崩せないなんて、魔術会もしれてるなぁ。この程度で中級ならおれは上級か?じゃあ『最強』なんてもてはやされるアレン・グレイマンも大したことないのかなぁ」
「あんま本当のこと言い過ぎたら駄目だよ。この人たちの心が折れちゃうだろ?」
ギャハハハと二人が挑発し笑う。リーゼウスたちのフラストレーションはマックスまで溜まっていた。
「こいつらまじ殺してぇ……」
「アレン一派は殺さないんだよねえ?推定無罪だっけ?甘い奴らだよ。この世界やらなきゃやられるんだぞ?」
リーゼウスはため息をつく。
「そろそろ限界だ。中級魔術師が、魔術会魔術師がどういうものか教えてやろう」
そう言うと真っ直ぐに杖を構える。
「魔力弾」
「はあ?そんな基本魔術でなにが出来るんだって!さすがに馬鹿にしすぎだろ!」
「魔力弾」
「くそが!」
二人組はただひたすらに防ぐ。そして気づく。段々と攻撃が重くなっていっていることに。
「ちょ、なんか重く……」
「そうか、お前らは質のいい魔術を受けたことがないのか。魔術ってのはただ闇雲にうてばいいというものではない。一つ一つしっかりと魔力を練り込んで丁寧に放つものだ。基本中の基本だ。お前らの馬鹿にする魔術会は全員できるぞ」
二人の守りに綻びが生まれる。その隙をついてリーゼウスは一人を吹き飛ばした。
「出直してこい」
もう一人も吹き飛ばした。
リーゼウスは二人から杖を取り上げ武装解除する。そして所持品を調べ、目的のものを見つける。
「五芒星……やはり悪魔崇拝か」
「あらら、やられてしまったか。だがまあ時間稼ぎはしてくれたから一応任務は達成かな?」
リーゼウスの背後に突然現れた黒ローブを被った男。リーゼウスは動けなかった。
「……っ!」
「賢明だ。そこで動いていたら君は死んでいる。君は私の顔を見ていないからね。生かしておいてやろう。帰って魔術会に伝えてくれ。『D機関』が必ず悪魔の世界を創り上げると」
そう言うとリーゼウスが倒した二人組を連れてその場から消えた。リーゼウスが振り返るとそこにはリーゼウスの部下たちの死体が転がっているだけだった。
※ ※ ※
「おれたちは悪魔の贄となることを最上の悦びとする」
そういうと男は何かを飲み込み、自分の喉元をかっきってその場に崩れ落ちる。そして五芒星の魔法陣が光り、そこから悪魔が現れた。
――――悪魔召喚である。
あの時戦ったガーゴイルと同等以上の圧を感じた。
「中級以上……!?」
悠はあの日以来の命の危機を感じていた。