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ぞ・ん・て・ん!?  作者: 場流丹星児
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ゾンビ先生

 カスパー大陸の約五分一を占める大陸第三位の国力を誇るガーリアン王国は、三代目王朝チュン王家の時代で絶頂期を迎え、実質大陸第一位の国力を持つと言われるに至った。海岸線を整備して幾つもの良港を開発し、交易を盛んにするのと同時に、富が内陸部に浸透する様に街道を整備して国家の動脈とした。内陸部では経済振興策として鉱山開発が行われ、金、銀、銅、鉄は言うに及ばず、希少鉱物のオリハルコン、ミスリルの鉱床も開発され、主要輸出産業として経済を潤していた。こうなると街道のみでは大量輸送を賄えず、内陸から海岸への河川整備、河川同士を繋ぐ運河の開発が公共事業として全国規模で行われていた。このことで失業者は皆無どころか、深刻的ではないが、慢性的な人手不足状態が続いていた。だがこれは一概に悪いこととも言えなかった。人手不足を補う為に、必然的に労働者は残業を行う事となる、労働者確保の為にその待遇に腐心する経営側は、正当な残業料金を彼らに手当てしていた。労働者の懐が潤う事は、彼らの生活を支える飲食、被服等のサービス業の発展、充実に繋がり、民力が活性化する事に繋がっていく。となると、活性化した民力を支える、食糧事情は絶対に疎かには出来ない。王家は農業を国家の基幹事業として定め、手厚く奨励していた。国民全体が偏り無く潤っていくと治安も加速度的に安定化する、野盗になって常に空きっ腹で討伐される事に怯えて暮らすよりも、慢性的な人手不足でお手盛り手当て充分な労働者になる方が利口である。目端の利いた頭目達は、チュン王朝成立以降はすっぱりと盗賊稼業から足を洗い、運送業へと看板を変えていた。しかし、それでも喧嘩や窃盗、詐欺等の犯罪や輸送警護に治安維持部隊の存在は必須であり、重要度は増していった。以前は騎士団が全てに対応していたが、チュン王朝成立からは分業化が進み、治安警察と常備軍へと分離していった。

 そんなガーリアン王国には、もうひとつ重要な産業兼治安維持組織が有った。ポラス廃都を中心とする地域に徘徊するモンスターから採れる良質な錬金術素材の確保と、地下大迷宮からドロップするロストテクノロジー魔導具の発掘を生業とする傍ら、モンスターの脅威から市民を護る冒険者と、彼らを擁する冒険者ギルドである。

 冒険者ギルドは基本的に超国家的な互助組織だが、その支部の多くは地域密着の組織であり、構成員も地域に対する帰属意識が強かった。そしてポラス廃都を間近に臨むガーリアン王国第二の都市、通称冒険者都市と呼ばれるここシャングリ・ラの冒険者ギルドもその傾向が強かった。そんなわけで王都シャンバラから出向して来たメディア・バイ・バ・チュン率いる一行は今、シャングリ・ラ冒険者ギルド併設の酒場の片隅で肩身の狭い思いをしていた。


 メディア・バイ・バ・チュンは、名前の示す通りチュン王朝王位継承権序列第三位を持つプリンセスで、本来ならばこんな所で肩身を狭くしている人物ではない。超国家的組織の冒険者ギルドといえど、本来なら下にも置かない態度で応対しなければならない人物である。それが何故にこうなっているか、その理由が彼女の持つもう一つの顔であり、今回このシャングリ・ラに赴いた理由が関わっていた。

 メディアは六歳の誕生日に教会で洗礼をした折りに、太陽の女神ソルと月の女神ルナ、通称ツインゴッデスの祝福と加護を受け、光と闇の両属性の魔法適性を持つ珍しい存在である事が判明していた。この資質に驚いた教会は、是非とも聖女としての教育を施すべきだと王室に働きかけ、王室もそれを受け入れた結果メディアは教会に寄宿して聖女教育を受け現在に至る。聖女教育を受けた事により、持って産まれた資質が磨かれた結果、彼女は慈悲深く地下の者も分け隔て無く、いや、地下の者を優先して祝福を与える優しい心を持つに至った。その資質は人望を産み、継承権三位でありながらも、国民の間では次期女王に、次期教皇にとの声が上がり、史上初の兼任君主誕生の期待が高まっている。

 そんな彼女がここシャングリ・ラに出向して来た理由が、十八歳の成人を機にポラス廃都地下迷宮を徘徊する大量のゾンビモンスターを根こそぎ浄化して天に召す事で聖女教育の成果を示す、という理由であった。


 この理由に、シャングリ・ラ冒険者ギルドの長、シャザーン・バルバロイをはじめとする冒険者ギルド職員、冒険者、ひいてはシャングリ・ラ市民全員が眉間に皺を寄せ、こめかみに青筋を立てて彼女を迎える事となる。


「何をバカな!?」


 教会からの手紙を見てシャザーンが発した第一声がそれである。


「根こそぎって事は、あのゾンビ先生も浄化するって事か!?」


 ゾンビ先生とは、今から四十年程前にポラス廃都地下大迷宮に現れたゾンビの事である。当時二十五歳、気鋭の若手冒険者として、同期の冒険者の最先端を行き、最年少でB級冒険者にランクを上げた現ギルド長シャザーンは人知れず悩んでいた。B級を突破してから自身の能力に伸び悩み、限界を感じていたのだ。彼はその限界を打破する為に自分を鍛え、更に少しでも良質なアイテムをゲットしようと日夜ソロで地下大迷宮にチャレンジしていた。今思うとどれだけ無謀で危険な事をしていたんだと、冷や汗物赤面物の思い出であるが、当時いっぱいいっぱいな彼としては、他に現状打破する方法を思い付けず、それだけに真剣だった。

 そんな若きシャザーンは、ある日一目でEXRアイテムと分かるローブを身に纏った、単独行動をするゾンビを発見した。


 あのアイテムが有れば、俺はまだまだ上に行ける。


 そう直感したシャザーンは、剣を抜いてゾンビに忍び寄り、必殺の剣技をお見舞いした。剣は吸い込まれるようにゾンビの首にその刃を命中させる。


 クリティカルヒットだ!!


 そう確信したシャザーンは、高揚した心を抑え、このまま首を切り離し、落ちた頭を踏み砕けばあのローブは俺の物だ。インパクトの瞬間にフッと鋭く息を吐き、濡れ雑巾を絞る様に柄を握り込み、腰を使って剣を振り抜こうとしたシャザーンは驚愕した。いつもなら、これでどんなモンスターにも致命傷を与えてきた一撃、しかし目の前のゾンビには通用しなかった。


「何!?」


 たかがゾンビの首と思ったそれは、最高純度のオリハルコンで作った盾の様にびくともしなかった。ゾンビはカウンターのショートアッパーでシャザーンを浮かせると、流れるような動作で掌底を炸裂させ、シャザーンの身体を吹き飛ばした。シャザーンは二三度地面をバウンドし、数回転がった後にようやく上体を起こす。


「グハッ」


 血を吐いたシャザーンは自分がゾンビの一撃で肋骨を砕かれ、臓器に深刻なダメージを受けた事を理解した。そして目の前に近づいてくるゾンビの姿に、自分の最期の瞬間を悟る。それでも、腐っても自分は冒険者、たとえ敵わずとも、最後まで戦い抜いてやる。そう覚悟を決めて剣を握り直したシャザーンに、ゾンビは意外な行動を取った。ゾンビは懐から瓶を取り出すと、封を切って中の液体をシャザーンの頭から浴びせかけた。


「!?」


 液体を浴びたシャザーンは、急速に身体の損傷が癒えていく事を自覚していた、自分の持つポーションでは、とてもこれ程の治癒効果は無い。驚くシャザーンにゾンビはもう一本の瓶を与えると、消えるように何処かへと去って行った。キツネにつままれた気分のシャザーンは、もらった液体を飲み干そうと一瞬考えたがそれを改め、持参のポーションを飲み干すと、瓶を懐にしまい込みシャングリ・ラへと帰って行った。

 ギルドでこの出来事を話すと、冒険者仲間に「夢でも見たんだろう」と一笑にふされていたのだが、そこへ血相を変えてギルド職員が駆け込んできて状況は一変する。


「シャザーンさん! 貴方これ、どこで手に入れたのですか!?」


 シャザーンはゾンビから貰った瓶をギルドに提出し、鑑定を依頼していたのだ。ギルド職員は捲し立てる。


「これは最高級のエリクサーですよ! 製法も失伝してしまった幻のポーションです!!」


 職員の言葉に、シャザーンを含むその場の全員が固まったのは言うまでも無い。その日から、ローブを纏ったゾンビとの遭遇談が、冒険者達の間で囁かれる様になっていった。


 ナイトスケルトンの大軍に囲まれ、絶体絶命のピンチを救われた。格上モンスターに狙われ、命からがら逃げ延びたものの、道に迷って途方に暮れていた所を救われた、なんて言うのは序の口である。

 その後のある時、流行り病が蔓延してシャングリ・ラの子供達の命が危険に晒され、薬の原料の月影の夜光草が大量に必要になった時があった。月影の夜光草とは地下大迷宮の最深部の危険地域に群生する薬草で、採集する困難さに誰もが諦めかけたとき、冒険者の一人が迷宮の中でこう叫んだ。


「お願いだ! ゾンビさん! 俺の話しを聞いてくれ! 実は流行り病で子供達の命がヤバいんだ! 治す為には月影の夜光草が沢山要るんだ! 残念だが俺達じゃあ力不足で群生地まで行けねぇ。なぁゾンビさん、もしあんたが行けるなら、取って来てくれねぇか!? ダメならダメで仕方ねぇ、恨みはしねぇ。あんたにも無理な事だって有るだろうさ。だけど頼む! お願いだ、息子を、息子を助けてくれ!! 礼なら何でもする、俺の命をやっても良い!! 明日また来る、もし採ってきてくれるなら、この篭一杯分頼む! 勝手な事言って済まねぇ、じゃあな」


 翌日再び大迷宮を訪れた冒険者達は目を見張った、彼等が目にした物は昨日置いていった篭だけではなく、ゾンビの手製と思われるもう一つの篭、二つの篭に溢れんばかりに詰まっていた月影の夜光草だった。冒険者達は口々にゾンビに礼の言葉を言うと、病に苦しむ子供達の元に向かい足早に帰って行った。この事をきっかけにシャングリ・ラの英雄となったローブ姿のゾンビは冒険者ギルドシャングリ・ラ支部に名誉冒険者として登録され、広く市民に親しまれている。シャザーンもこてんぱんにされた翌日から、ローブ姿のゾンビを求めて大迷宮に日参し、幸運にも出会えた日には頭を下げて稽古を望み、そうして研鑽を積むうちに限界感を吹き飛ばし、一皮剥けて最年少S級冒険者へと成長した。ローブ姿のゾンビは何時しかシャングリ・ラ市民から『ゾンビ先生』と呼ばれ今日に至る。そんな大恩人たるゾンビ先生を浄化するなんて、教会のバカ共は何を考えているんだ!


「絶対に許さねぇ、俺達のゾンビ先生を消すだなんて、ただじゃ置かねぇぞ!」


 そう呟いたギルド長シャザーンは、右拳を左掌に打ち付けると、執務室の窓から星空を睨み付ける様に見上げるのだった。


 

御読了頂き、有難うございます


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