蘇生しよう!
このままバッドステータス
腐敗進行度
が進むと、どうにもろくでもない事になりそうだ。そう判断した灘井青年は、このゾンビ体を一刻も早く蘇生しようと考えた。
蘇生、蘇生である。だがそうしようと思っても、さっぱりその手段が分からない。それもそのはず、現代医学で蘇生可能なのは、呼吸停止から四分以内と言われている。それ以上時間が経つと、脳の機能のおよそ七十五パーセントが破壊され、重度の障害が残るからだ。
さて、この身体は、死後一体どのくらいの時間が経過しているのだろう? 腐敗進行度のMAXを10と仮定すると、身体の七十パーセントは腐敗している事になる……
四分どころの騒ぎじゃないな、とっくに手遅れを通り越している。これはもう丁重に弔って、荼毘に伏した方が早い。しかしだ……
第三者として、傍観が許される立場なら、それが合理的である。しかしこの身体は元は他人の物とはいえ、今現在は自分の魂が宿った自分の物である、簡単に荼毘に伏す訳にはいかない。
現代日本の医療常識を物差しにするのは早計だ、何と言ってもここは異世界惑星イーセ、魔法や錬金術なんて素敵なスキルが有る、それを駆使すれば可能かも知れない。
とは言え、それでも見当がつかないのが現実だ、まず蘇生するに当たり何が必要でどうすべきか、それをはっきりさせる必要が有る。それには、このゾンビ体が何を出来るか検証しなくてはならない。灘井青年はそう考えを纏めた。
「蘇生するのは当然とはいえ、それに至る筋道を知る時間、かかる時間が問題だよなぁ。分かった時点でタイムリミットだったら目も当てられない。まずは腐敗進行を止めなけりゃあダメだよね……」
灘井青年はそう言うと、自分のスキルで使えそうなスキルが無いかを確認する。
時空干渉
なにげに最終奥義的なヤツが有ったぞ。時空っていう事は、時間と空間に干渉するスキルって事だろう、どんな事が出来るのだろう?
究極奥義ファイナルスラッシュ:敵方を魂ごとこの時空間から斬り離して倒す、一対一では最強クラスの神奥義 必要MP5000以上
うん、今これ要らん。使えないし
時間操作:敵方との相対時間を操作して、擬似的時間停止状態を作り出す 必要MP250
この敵方を、自分の身体と認識すれば、身体の時間進行を止める事が……? いやいや、自分の時間を止めるという事は、他から見ると止まっているという事だから、突発的危険に対応出来ない。これもダメだな……、いや、土属性魔法を使って、身体の周りに強固なバリケードを作ればいけるかも、しかしこれって……
即身成仏かい?
それにこの手段じゃあ、蘇生方法を探すために行動する事が出来ない。だが待てよ、前世では将来の医学発展に望みをかけ、蘇生して貰おうと自分の死体を保存する人がいたな。自分もそれに倣う事は出来ないだろうか? 仰々しい陵墓遺跡の様なバリケードを築いたら、誰かが発掘して蘇生してくれるかも……。いや、発掘されたと同時に、退治される可能性が……、そっちの方が濃厚か?
さてどうする? スキルがダメなら道具はどうだろう?
気を取り直し、灘井青年はゾンビ体たる自分が身につけている物を鑑定する。一番最初に目についたのが、全身を被うRPGお馴染みの『魔導師のローブ』である。
大賢者のローブ
霊虫ベイロンの繭から採れる霊糸と、魔虫ナクアの巣から採れる魔糸を原料にした霊魔布から造られたローブ
あらゆる魔法、デバブに耐性を持つ、魔導師ダナー謹製のワンオフ製品
着心地は天使の羽根に包まれた様に軽く、冷暖房完備のオールシーズン仕様、光学迷彩を始めとするハイドスキルを任意に展開可能の逸品
内ポケットは『魔法の袋』となっており、生物以外の全ての物体を無限に収納可能
おおう! なんちゅう優れものだ、このローブ。死んでから何年経ったか知らんが、ゾンビが着てても新品同様の光沢を放つのは、それが理由ですかい?
激しく食いついた灘井青年は、ある一つの機能に注目した。
内ポケットは魔法の袋、生物でなければ何でも収納可能。
魔法の袋と言えば、中で時間経過が停止する優れものとして有名。料理は調理仕立ての熱々のままに、倒したモンスターは倒した時の鮮度を保ち……、っておい、食いモンと死体を一緒の袋に入れて保管するって、よくよく考えると気色悪いぞ!! 中で混じったりしないのかい? 熱々のスープを出したら、モンスターの目玉が浮いてた、なんていうのは遠慮するぜ。
そう言えば、ゾンビはこの場合どっちに分類されるのだろう? 倒した後のゾンビは文句無しに入るのだろうが、倒す前のゾンビは魔法の袋に入れることが出来るのだろうか? ゾンビは死体がモンスター化したものだから、死体は死体なんだが活動しているぞ。動く物だからすなわち動物、ならば生物? はてさて……、なんか遠足のバナナみたいだな。
おやつは三百円迄です、バナナはおやつに入りますか? ゾンビは死体に入りますか?
入ってみようかな? 灘井青年は今そう考えつつあった。何故なら、ゾンビは死体で入れるかも知れないし、時間停止しているから腐敗進行も止まるだろう。それに中には魔導書なんかも沢山有って、その中にはゾンビ体を蘇生する秘術が書かれた本も有るかも知れない。物は試しに一発チャレンジ……
ぞわっ!!
物は試しと片足を入れてみた灘井青年は、遠浅の海辺を歩いていたら、いきなり底無しの深みに足がはまった様な感覚を覚え、背筋に悪寒が走り思わず足を引っ込めた。
あかん、これ入ったらあかん、絶対自力で出てこれない。止め、却下。
入ったが最後、誰かに出してもらわなくては出られない物には入れない。誰かにローブを見つけて貰うまで何年かかるか? 拾ったヤツがポケットに気がついて、引っ張り出して出てきたのがゾンビだったら驚くだろうな。トラウマもんだな。
一通りスキルや持ち物を確認した灘井青年はため息をついた。
存外に使えないな、そう簡単には無理なのは分かるが、生前賢者だったんだぜ、この身体。手掛かり位残してくれてもいいじゃんか。
心の中で愚痴りながら、固有スキルの賢者の種を鑑定した。
賢者の種
賢者ダナーが暗殺された時、いまわの際に自身の魔力、知識、スキル等を凝縮して種にした物。ゾンビになった後、ドロップアイテムとして内包。
あれま!? ハードな散り際だったんだ? それにしても、こんな物を用意するなんて、倒される気満々だったんだ。どんな形でも、自分の培った物を後世に伝えたかったんだろうな……
灘井青年は元の身体の持ち主、魔導師ダナーの最期に思いを馳せた。そして次に勇者の種を鑑定する。
勇者の種
魔導師ダナーが、自分を暗殺した勇者キヨヒコの勇者の力の全てを最後の魔力で奪い取り、凝縮して種にした物。ゾンビになった後、ドロップアイテムとして内包。
あれま!? 勇者が賢者を暗殺!? 何が二人の間にあったんだい? それにキヨヒコ、日本人か? ひょっとしたら、今も転移した日本人が他にもいるかもしれない……
賢者を暗殺なんかするキヨヒコは、どうも胡散臭い人物の様だが、仮に他にも転移者や転生者が居るとして、全てがそういう人物とは限るまい。可能ならば接触して協力体制を築くのも有りかな……、ならば今のゾンビ体では支障が有る、その意味でも蘇生は必須だな……
灘井青年は適当な岩に腰を下ろすと、人体の内部構造をイメージする。
「結局、基本に立ち返るしかないか」
灘井青年はそう呟くと、骨や臓器は言うに及ばず、血管から細胞に至るまでを克明に思い浮かべ、無属性魔法の身体強化を施した。そうして腐った身体が崩れないように処置を施すと、念動魔法を使って心臓を鼓動させる。
「血液は当然無くなっているから、当面はこれで代用だな」
灘井青年は血液代わりに、浄化のイメージを乗せて魔力を全身に巡らせた。そうして腐った全身に溜まった毒素や穢れを肺に集め、念動魔法で肺を動かし呼吸の要領で体外に排出する。灘井青年は魔法をカンフル剤、AED、人工呼吸器に使い、前世知識に基づいた緊急救命措置を自分に施したのだった。
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