エピローグ そして・・・
翌日、昼休み。私、青山涼子は昨日の事が気になって仕方なかった。昨日、天宮君に御神刀を渡して、別れたわけだけども、本当は天宮君に着いていきたかった。天宮君はどこか頼りなさげで、今にもぽっきりと折れてしまいそうに見えた。私が自分ですれば良かったかなと今更ながら、思う。
そして、そう思わせる何よりの原因が、彼、天宮竜彦が今日、学校に姿を現していない事だった。昨日、天宮君は失敗したのだろうか。でも、龍泣山から変な雰囲気は感じられない。成功したのだったら、天宮君自体に何もなかったはずだし、何で学校に来ないのだろうか。
私はそんな事を思いながら、席を立ち上がった。向かう先はいつも天宮君と一緒にいるへらへらとしている南雲君のところ。
南雲君は今日は1人で黙々と何かの挟まれた惣菜パンを食べていた。顔はあまり元気そうに見えない。私が近づいてくるのに気がつくと、なおの事、げんなりしたように見えた。
「南雲君。ちょっといいかしら。」
私は南雲君の目の前に立ち、聞く。
「何だ。青山か。べっぴんさんが俺に何か用か。言っとくが、数学の課題も物理のノートもきっちり出してあるからな。文句言われる筋合いはないぞ。」
南雲君は私を警戒してか、あまり浮かない顔でそう言った。私が聞きたいのはそうではない。天宮君の事だ。
「そんな事聞いてるんじゃないわ。天宮君の事、何か知らない?」
「竜彦? 何でそんな事聞くんだ?」
南雲君が疑わしげな顔になる。ああ、もういいから早く答えなさい。
「いいから、何か知ってるなら教えなさい。今日、天宮君は何で欠席なのかしら。先生も天宮君の自宅からは何も連絡を受けていないと仰ったし。天宮君本人からも連絡なし。いつも天宮君と一緒にいる、南雲君あなたなら何か知ってるんじゃないの?」
天宮君の自宅からも連絡は来ていないし、天宮君本人からの連絡もない。これでは、彼がどうなったのか検討もつけようがない。
「何か知ってるかと聞かれてもなあ。俺も何も知らねえよ。竜彦自身、何かあれば連絡してくるし、俺は何も聞いてない。だから、竜彦が、今日学校さぼってどこで何してんのかなんて知らねえ。」
南雲君はあっさりとそう答える。その態度が気に食わず、少し腹が立ってくる。
「あなたねえ。それでも天宮君の友達なの。」
私の声が少しきつくなる。
「そんなもんだよ。これでも、小学の時からずっと竜彦の親友だよ。文句あるなら、いくら青山でも怒るぞ。」
南雲君はそう言い、私に睨みを利かせてくる。
「ぐっ。」
悔しいが、力では男には勝てない。
「涼子ちゃん。南雲君と何話してるの?」
隣から声が掛けられる。声のした方を見ると、朱美が立っていた。少しおびえた様子だ。
「おお。瀬田か。なーに、ちょっとした世間話さ。気にしないでくれ。」
南雲君の声が途端に穏やかなものになる。
「そうなの? 涼子ちゃん。」
朱美が私に聞いてくる。私の唯一無二の親友の朱美をこれ以上心配させたくないし、それに私の目的は南雲君と喧嘩する事ではない。
「ええ。ちょっとね。」
「なら。よかった。」
朱美が私の答えを聞いてほっとしたような顔になる。
結局。天宮君はどこに行ってしまったのだろう。本当にただのサボりなのかしら。
放課後。帰り道。私は1人歩いて家に向かっていた。もうすぐ、家に着く。
今からでもいいから、龍泣山の神社に行くべきかしら。天宮君の事も気になるし、家に帰って、準備をしたら、1度行きましょう。
私はそう考えながら、歩いた。もう家は目の前だ。神社の大鳥居も見えている。・・・。誰かいる。大鳥居のそばに誰か立っている。誰? 近づいていくと、人影がはっきりしてきた。天宮君だ。今日1日学校にいないでどこに行っていたのかと思えば。ここにいたの。手には。学校指定の革鞄と朱色の袋に入った長い包み。御神刀だ。御神刀がここにあると言う事は昨日、天宮君は龍泣山の神社に行かなかったという事なのかしら。
「あ、青山さん。」
天宮君が私の姿を見とめて、声を掛けてくる。
「天宮君。どうしたの。今日は学校に来なかったみたいだけど。」
私は天宮君の傍まで歩いていくとそう聞いた。
「え。うん。ちょっと、昨日疲れたから、1日家で寝てたんだ。」
天宮君はそう言って首のうしろを掻いた。
「ふーん。それで、今日は学校をサボったわけね。」
私はそう言う。
「あ、あと。青山さん。これ。ありがとう。龍がもう必要ないって言うから返すよ。」
天宮君はそう言うと、朱色の布の袋に包まれた御神刀を私に差し出してきた。
「龍が必要ないって。昨日、じゃあ、ちゃんと、神社には行ったの。」
私は面くらいながら、天宮君に聞いてみる。
「うん。ちゃんと行ったよ。それに、龍に御神刀を渡してもきたよ。でも、龍はもう必要ないそうだから・・・。」
天宮君はそう言って、なお私に御神刀を差し出してくる。
私は両手で御神刀を受け取った。ずしりと重みが手にくる。
「そう。じゃあ、彼女、龍のトラウマも抑えられたの?」
私は肝心な事を天宮君に聞く。今日1日、それが気になって仕方なかった。
「うん。まあ。ちょっと危なかったけど。」
天宮君が少し頬を紅潮させながら答えた。顔は少々誇らしげだった。少しは天宮君も変わったのかしら。
「そうそれならよかった。で、どうだったの。彼女、龍とは。」
「え・・・。」
天宮君が固まる。私は何か変な事を聞いただろうか。
「何も変な事を聞いたわけじゃないわ。大丈夫だったのかって聞いてるのよ。」
「え、う、うん。その、まあ、大丈夫だったよ。」
天宮君は頬を紅潮させて恥ずかしげにそう言った。何を想像しているのかしら。
「・・・変態。」
私は思わず、率直な感想を天宮君に言ってしまった。
「え。そんな、変態だなんて。ちょっと言い方ってものが。」
天宮君が慌てる。
「否定しないのね。」
私は追いうちを掛ける。
「う・・・。」
天宮君がぐうの音も出なくなったようなので、この辺で勘弁してあげる事にする。
天宮君もちょっとは変わったみたいね。それにしても、本当に彼女、龍を抑えるとは思わなかったわ。ちょっとだけ見直してあげるわ。
私はそう思いながら、礼を言って去っていく天宮君を見送った。
青山さんに礼を言って去った僕は、龍のいる神社へと向かう。
昨日、龍がなかなか泣き止んでくれなかったので、僕は夜も遅くに帰る事になってしまった。家には、悠紀と遊んでいたと嘘を言っておいた。昨日、ずっと龍に抱きつかれていたせいで体力の消耗が激しく、今日は1日寝込んでしまった。でも、まあ、龍が泣く事のできる頼れる場所になれた事は純粋に誇りに思いたい。今日も龍は元気に僕を出迎えてくれるだろうか。
龍のいる神社の前まで来た。石段を軽快に上る。上の鳥居にたどりつく。龍の姿はすぐに見つかった。境内の真ん中で本殿の方を見つめていた。
僕の足音に気づいたのか、龍は振り向いた。僕の姿を見とめると、龍は嬉しそうな顔になった。
「竜彦。今日も来てくれたんだ。」
龍が嬉しそうにそう言う。
「うん。龍。今日も来たよ。」
僕は軽やかに答える。
僕はこれからもずっと、龍と一緒にいるだろう。僕が出来る限りの事を龍にして上げられるように努力していくんだろう。きっとそうだ。
空は珍しく、雲ひとつない青空で、僕と龍の心のように綺麗に晴れ上がったいい天気だった。
龍と僕の日々 終




