プロローグ
2015年末——
あいつは〝規格外の怪物〟だ。――全国のスカウトや指導者達は彼をそう評した。
鳳陽斗、15歳。
ポジションは投手兼中堅手。U12、U15と日本代表の日の丸を背負った彼のスペックは、中学生という枠を優に〝超越〟していた。
身長は190cmを超えてさらに伸び続けている。体重は90kgで体脂肪率は常に13%以下。長い手足にボールをすっぽりと包む長い指。
右腕から放たれるファストボールは150km/hを超える。変化球も多彩で、スライダー、カーブ、140km/hに迫る高速フォークに、中指と薬指で挟んで落とす独特のチェンジアップ、それに抜群のコントロールを備えていた。
右のバッターボックスに立てば長打を連発し、所属するシニアリーグでは大会の通算本塁打記録樹立。ダイヤモンドを駆け抜ける俊足と、鉄壁の守備。極めつけは、ここまで一切の故障歴なしという頑丈さと、寝ても覚めてもトレーニングするストイックさ。努力を重ねる。努力する才能が圧倒的に高かった。
ただ、そんな圧倒的な実力とは裏腹に陽斗の性格はかなり内向的だった。
普段から自己主張は乏しく、注目を浴びるのが苦手。
指導者から何度キャプテンをやってくれと頼まれても頑なに断り続けた。
それでいて根が優しく、人の頼みを断れないところがあり、同級生の女子から告白されればなんとなく付き合い始めるものの、緊張からかあまりの口数の少なさと、デートもなく四六時中野球漬けの日々に、相手が愛想を尽かす形で初めての恋も2ヶ月足らずで終わりを迎えていた。
そんな口下手な陽斗が、自分の進路について一つの大きな決断を下さなければならない時が迫っていた。
来年の4月から、どこの高校に進学するか。
「――ということでね。ぜひ陽斗くんにはウチのユニフォームを着てほしい。必ず天下を取らせる。君は俺のドラ1や、陽斗くん!」
京都、鳳家の小さな客間。
座布団に正座し、熱弁を振るっているのは大阪・名門高校の超有名監督。来る2018年〝第100回全国高等学校野球選手権記念大会〟この大会で優勝する為に全国の中学生をスカウトしていたのだ。
わざわざ監督自ら中学生一人の直々の指名のために家まで足を運んで説得に来るという熱意。
傍らでお茶を入れる母、響子(39)は、相手の顔ぶれと熱量にすっかり呑まれてしまい、そわそわと息子の顔色を窺っていた。
誰がどう見ても、断る理由などないはずの誘いだ。
だが、座布団に座る陽斗はいつも通りの淡々とした表情のまま、少しだけ気まずそうに目を伏せた。
「高校には進学しません……。卒業すぐに渡米して、国際アマチュアFAでどこかの球団とマイナー契約を結ぼうと考えています……。」
監督は予想もしない答えに呆気に取られた。中卒で直接マイナー契約……。
「陽斗くん……それはやめといた方がええ。通用せんとは言わん、今の実力でもAかA+まではいくかもわからん。けどマイナーは過酷や、バス移動もそうやし……食事もや。それに英語は大丈夫なんか?こんなん言うたらアレやけど……口下手やろ、とてもコミュニケーション取れるようには思えへんで……陽斗くん。」
至極最もだった。しかし、陽斗は監督の目を見据えハッキリと答えた。
「英語については大丈夫です。母に鍛えられましたし、スペイン語だって日常会話くらい出来ます!」
「それに……」
「それに……なんや?」
「……三年後渡米する事をNPBは認めないでしょう。大西翔平さんの件もありますし……」
そう、日本高野連の規定では、高校硬式野球部所属選手 が国内外のプロ球団(MLB・台湾・韓国・メキシコ・欧州ドミニカなども含む)と交渉・契約を目指す場合、原則としてプロ志望届の提出が必要。届け出なしで直接マイナー契約はルール違反となり不可能。
中卒、もしくは高校中退か高野連に所属しない硬式野球部くらいしか届け出無しでのマイナー契約は不可能。
なのでNPB側に指名回避をお願いするしか無いが、大西のように指名されてしまう可能性が大いにあった
「それに中卒だとドラフトを経過しないので、〝田島ルール〟にも抵触しませんしね……。」
監督は言葉を失った。目の前の少年はまだ義務教育を終えていない15歳の少年。だがこの少年は卓越した野球の才能だけでなく日米球界のルールや数年後の日本球界の思惑まで理解し人生設計をしている。
「陽斗くん…よう調べ上げたな……正直驚いたわ。」
「……はい、高卒でMLBを目指すと色々と障害がありそうなので、行けるならこのタイミングしか無いと感じています。それに、やれる自信もあります…!少しでも若いうちに……アメリカのマウンドに立ちたいんです!」
監督はその力強い決意を聞くと、フッと小さくため息を付き、頭を垂れた。
「……必ず天下を取らせる、なんて偉そうなことを言うて悪かったな。陽斗くんの見てる景色は、甲子園優勝のずっと先やったわけや。……そこまで言うなら何も言わん!世界一の野球人になってくれ!」
監督はすっかりぬるくなった茶を飲み干すと、立ち上がり、両手で陽斗と硬い握手を交わしたのだった。
プロフィール
名前:鳳 陽斗 Haruto Ohtori
国籍:日本国
生年月日: 2000/4/4 15歳
守備位置:投手/中堅手
身長/体重:6'2 1/2 (190cm) 200lbs(90.7kg)
利き腕:右投右打
投法:ノーワインドアップオーバースロー
打法:ヒールダウン
球種:フォーシームファストボール、シンキングファストボール、カーブ、フォーク、チェンジアップ
趣味:ビデオゲーム
家族構成:父、母 (父は幼少期に他界)
特筆事項:やや内向的、内省を好む、童貞
目標:延長春季キャンプに参加し、マイナー契約締結




