第64話 和平交渉開始
数日後。
エクィトゥム王国の王太子、フィリウス・アウレリア・デイ・エクィトゥムが、アンティクイランド王国の王都レクィエリアへ到着した。
先の戦争で敵として戦った王国の王太子が。
今度は、和平交渉の全権大使として。
王都の大通りには、外交使節団の到着を知らせる鐘が鳴り響いていた。
◆
「到着しました!」
報告を受けた文官たちが、一斉に動き始める。
中央宮殿では、すでに迎賓の準備が整えられていた。
俺も正式な礼装へ着替え、父上のいる中央宮殿へ向かう。
廊下ですれ違う文官たちも、どこか緊張した表情を浮かべていた。
当然だ。
相手は。
つい先日まで戦争をしていた国。
そして。
その国の次代の王。
しかも今回は。
ただの使節ではない。
エクィトゥム王国を代表して、和平交渉の全権を任された男だ。
◆
中央宮殿の正門。
そこには、すでにエクィトゥム王国の一団が到着していた。
先頭に立つ青年。
フィリウス・アウレリア・デイ・エクィトゥム。
王太子という立場に相応しい、落ち着いた佇まいだった。
その後ろには、四人の側近が控えている。
全員が身なりを整え、周囲へ油断のない視線を向けていた。
俺は少し離れたところから、その姿を見る。
「……あれがフィリウスか」
噂だけは聞いていた。
冷徹。
判断が速い。
感情よりも国益を優先する青年。
その評価が、本当なのか。
実際に会ってみなければ分からない。
◆
中央宮殿の謁見の間。
国王アウレリウスが玉座に座り、その左右には重臣たちが並んでいる。
俺も、その場に控えた。
ほどなくして。
「エクィトゥム王国王太子、フィリウス・アウレリア・デイ・エクィトゥム殿下」
侍従の声が響く。
フィリウスが謁見の間へ入ってくる。
四人の側近がその後に続く。
フィリウスは玉座の前まで進むと、静かに一礼した。
「エクィトゥム王国王太子、フィリウス・アウレリア・デイ・エクィトゥムでございます」
「この度は、アンティクイランド王国との和平交渉の全権を担い、参りました」
父上が答える。
「遠路、ご苦労だった」
「ありがとうございます」
「先の戦争では、我々は剣を交えた」
「しかし、本日は違う」
父上の声が謁見の間に響く。
「今日は、両国がこれ以上血を流さないために話し合うための場だ」
「承知しております」
フィリウスは淡々と答えた。
「私も、両国が新たな時代へ進むための交渉を望んでおります」
短い言葉。
だが。
その声音には、和平に対する明確な意思があった。
「では」
父上が頷く。
「正式な交渉は、この後に行う」
「はい」
フィリウスが一礼する。
◆
謁見が終わる。
フィリウスたちは、中央宮殿の会議室へ案内された。
長い机。
その中央には、両国の国旗が置かれている。
その左右へ、それぞれの代表が着席する。
アンティクイランド王国側。
外務卿。
財務卿ペクーニア伯爵。
軍務卿アトラシート伯爵。
そして。
俺。
さらに。
ティア。
表向きは、俺の近くにいる身元不明の少女。
だが。
この場にいる者たちの中で、その本当の身分を知っている者もいる。
俺はティアを一度だけ見る。
ティアは何事もなかったように座っていた。
二人きりの時とは違う。
今は。
完全に「ティア」だ。
レノウィウスと美咲としての時間は、胸の奥にしまっている。
俺も同じだった。




